第5話
お昼ご飯も食べ終わり、その片付けも終わらせると、ユリアンさんは昼食前に言っていたとおり、どこかへと出かけていった。その間は暇だったので、ネロと一緒に家の中を探検した。探検、とは言っても、危ない物やユリアンさんにとって大切な物があったら困るので、本当に見るだけにしよう、とネロと一緒に決めた。
「ここはさっきユリアンさんが絵本をもってきたおへやだけど……」
『中は……うわっ! 本だらけだ!』
部屋の中には本が収まった棚ばかりだった。一応机もあるが、そこにも床にも本が積まれている。
『ええっと、「基礎魔法」「近代魔法」「複合魔法研究」「魔法と精霊の関連性」「魔石生成とその理論」……うーん、魔法関係の本ばっかりだな!』
そういえば、ユリアンさんは魔道士だと言っていた。ならば、そのための本なのだろう。途中、『精霊』という単語が聞こえたが、魔法と関係があるのだろうか……それは、いずれユリアンさんに教えてもらえば良いだろう。
私とネロは、本を崩さないように部屋を出る。そのすぐ隣の部屋の扉をそっと開く。
「わ、これ」
扉を開いた先には、見たことのない道具がずらりと並んでいた。
「中にはいったら、こわしちゃうかも……」
『あー、確かに壊れやすそうな物ばっかだなぁ! これとか、これとか』
「ネロ、さわっちゃダメだよ?」
『分かってるよ!』
私は部屋の中に入らずに外から眺めているだけだが、ネロは気にせずひらひらと部屋の中へと入っていく。
『これ、錬金術の道具だな? んんん? ユリアンって魔道士なのに錬金術もするのか?』
「れんきんじゅつ?」
『魔石とか、不思議な道具を作る人のことさ!』
「ふぅん……?」
よく分からないが、ユリアンさんは色々なことができるらしい。凄い人なんだな、と思いながら、私の元に戻ってきたネロと一緒に部屋を出る。
それから、既に行ったことのある風呂場や台所、食料庫を覗きつつ、残るは二階の二部屋のみとなった。
『こっちは今マリーの部屋だけど、残り二部屋は何だろうね?』
「たぶん、一つはユリアンさんのおへやだとおもうけど……」
『よーしっ! 入ってみよう!』
どちらかがユリアンさんの部屋なので少し気後れはするが、好奇心の方が勝る。まずは階段から一番近い扉を開く。
「ここ……ユリアンさんのおへや?」
『だな! うわ、この部屋にも本があるな……こういうのを本の虫、って言うんだよな?』
「そうなの?」
『らしいぞ』
いまいち信じられずに首を傾げながら、そっと部屋を出る。流石にじろじろと見回るのも良くないだろう。それに、ここがユリアンさんの部屋だと分かった今、もう一つの部屋の方が気になっているのだ。
『あの奥の部屋が最後だな!』
「うん」
ユリアンさんの隣の部屋が、昨日から私が使っている部屋だ。ならば、その隣は?
ドアノブに手をかけ、扉を開く。
「……おへや?」
『なんだー、ただの部屋か。つまんないの』
最後の部屋にはベッドが一つと机と椅子と、小さな棚が一つだけある簡素な部屋だった。まるで、今マリーが使っている部屋のようだ。
「ユリアンさんと私たちいがいにも、ここにだれか住んでるのかな?」
『そんなことはないと思うけど。ほら、このベッド、綺麗だけど全然使われてないよ』
「うーん……?」
それならば、何のために綺麗にしているのだろうか……そう悩んでいる内に、一階から「ただいま」と声がする。
『おっ、ユリアンが帰ってきたな』
「おかえりなさい!」
ぱたぱた、と急いで一階へ降りる。
ユリアンさんの腕には、色々な荷物が抱えられていた。
「留守番、お疲れさま。暇だっただろう?」
『全然! 僕たち、家の探検してたからな!』
「えっと……かってにたんけんして、ごめんなさい……?」
「いや、謝ることはないよ。やましい物は別に無いし……あ、仕事部屋――本が沢山あった部屋の隣の部屋は、壊れやすい物や危ない物があるときもあるから、あまり入ってはほしくないけれど」
『そっちは僕しか入ってないぞ! 何も壊してないしな!』
何故か、得意げに言うネロにユリアンさんは苦笑しながらも、リビングの机の上に荷物を置き、何かを取り出した。
「まぁ、それはそれとして。マリー君、こっちへおいで」
呼ばれるままにユリアンさんに近づけば、私の前に柔らかな物が入った包みを渡される。
「開いてごらん」という言葉のままに、包みを開く。
「わぁ……!」
包みに入っていた柔らかい物の正体は洋服だった。それも何着もある。
「流石に私のシャツだけだとちょっとね……ほら、着替えておいで」
「あ、ありがとうございます!」
お礼を言って、自分の部屋へと向かう。ユリアンさんは沢山の服を運んでいくつかクローゼットに仕舞うと、部屋の外で待っててくれた。
白い子供用のシャツに水色のスカート。所々刺繍があしらわれているのを見ると、シンプルながらも上品な洋服だ。
着替え終わってから部屋から出ると、ユリアンさんが「似合っているよ」と頭を撫でてくれた。
「さて、マリー君にはあともう一つ今日中にやっておきたいことがあるんだけれど……良いかい?」
「はい」
「よろしい。それなら、私は少し準備をするから、ゆっくりリビングへおいで」
何をするのか分からないまま頷き、先んじて一階へ降りたユリアンさんを見送る。私はクローゼットの中を少し整理したあとで、先程までパジャマの代わりに着ていたユリアンさんのシャツを持ってリビングに向かった。
リビングに到着すると、机の上には石の板のような物と、紙と万年筆が置かれていた。一体何に使うのだろうと思いながらも、ユリアンさんにシャツを返す。
「これは……」
「魔力や適性を調べる魔道具だ。適性っていうのは、魔法を使うのに向いているか、否か、とか、そういうのだよ」
『まぁ、マリーの適性はなんとなく分かるけどな』
「まぁね。けど、細かい魔力量は分からないだろう? 今後のためにも、一度は調べておいた方が良い」
よく分からないが、事前に知っておいた方が良いことなのだろう。ユリアンさんに言われるまま、石の板の前に座る。
「マリー君。その板の上に手を乗せてごらん。『良い』と言うまで、乗せたままにするんだよ」
「はい。……――っ!」
私は石の板の上に右手を乗せる。すると、ふわりと柔らかな光が右手から伝い、私の身体を包み込んだ。ぎゅっと目をつむる。
『大丈夫だよ、マリー。これは怖くないよ』
ネロが励ますように、そう囁いた。恐る恐る目を開くと、隣に置いてあった万年筆が宙に浮き、紙に何かを書いている。
カリカリカリカリ……。
しばらく何かを書き続けると、万年筆の動きは止まり、元の場所へと置かれた。それと同時に、私を包み込んでいた優しい光も消えていった。
「もう良いよ」
右手を石の板から離すと、少しだけふらっとしてしまった。
『大丈夫!?』
「う、うん……」
「初めてだったからかな……少し、休んでいなさい」
こくんと頷くと、椅子に座ったまま少し目を閉じた。
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