第34話 冬休みもお出かけがしたい! らしい


 放課後の教室というのは暫く生徒が屯している。そうして一人、また一人と出ていくのだが、静かになるにはあと少し時間がかかるだろう。天城はさっさと帰ろうと鞄を持つと、皐月が「天城くんー」と駆け寄ってきた。



「どうしましたか」

「テスト戻ってきたねー!」

「そうですね。どうでしたか」

「前よりよかった!」



 にこにこ嬉しそうにしながら皐月は学年順位が記載されている用紙を眺める。彼女の学年順位というのは上がっていて、春の順位から見ればかなりの上がり具合だ。その成績を見てやはりやる気の問題だったのだろうなと天城は思う。


 皐月の場合、しっかりと教えればちゃんと覚えるのだ。彼女に関してはやる気の問題で、人によって勉強ができない理由というのはあるのだが、皐月は自分に合わせて教えてくれる存在と、勉強に対してのやる気の二つが原因だった。


 天城がちゃんと教えれば皐月は覚え、天城と一緒にいられるからやる気が出る。目標として同じ大学に通いたいと言っているのだから勉強への意欲も出るものだ。



「天城くん、進路変えるの?」

「そうですね、身の丈にあった大学を選ぼうと思います」



 いくら行きたい大学があれど学力がついてきていないのならば、受かることすらできない。できたとしても勉学についていけない可能性の方が高い。ならば、無理して目指す必要はないので自身に合った大学を選ぶ方が良い。


 天城がそう話せば、皐月は「どこ行くのー」と聞いてくる。それは予想済みだったので教えると彼女は「あたし行けるかな?」と首を傾げた。



「……まぁ、いけなくはないんじゃないですかね」

「ほんと!」

「ちゃんと勉強していればの話ですが」

「頑張るよ!」

「というか、同じ大学に行くの諦めませんね?」

「諦めないけど?」



 言われるだろうと思った言葉を返されて天城は「でしょうね」と呟いた。皐月は同じ大学に行くというのを諦めないだろうことは彼女の表情を見ればわかる。なぜ、諦めると思っているのかといった顔をしているからだ。


 だから、それに関して何か言うことはしない。天城は「まぁ、頑張ってください」と声をかけることにとどめた。皐月はというと「頑張る!」と元気よく返事をしていたので、やる気はあるようだった。


 そんな彼女を連れて教室を出ると階段を降りながら皐月の他愛ない話を聞いて下駄箱まで向かう。わいわいと騒がしい生徒たちを横目に天城が靴を履き替えていれば、皐月に呼ばれた。



「天城くん、天城くん」

「なんでしょうか」

「もう冬休みになるよ!」

「あぁ、そうですね」

「お出かけしよう!」

「言うと思いました」



 目をきらきらさせながら皐月は天城を見つめる。夏休みに入る前も遊びたいのだと言っていたので、冬休みにも言ってくるだろうと天城は予想していた。案の定の提案に天城は「何をしたいのですか」と問と、皐月は「クリスマス!」と答えた。



「ほら、冬休み始まってからすぐクリスマスじゃん!」

「そうですね」

「お出かけしよう!」

「クリスマスにですか?」

「イヴの日でもいいよ!」

「いや、日にちの話をしているわけじゃないですよ」



 天城の突っ込みに皐月は首を傾げながら「クリスマスにお出かけしたい」と言う。クリスマスの日には予定らしい予定も入っていないので別に遊びに出かけるのはよかった。ただ、何をするのかを天城は知りたかっただけだ。


 そんな天城に皐月は「お出かけだからなんでもいいんだよ」と答える。映画を観るでも、買い物をするでも、ただ食事をするでもなんでもいいと。



「駅前のイルミネーションは見たいかなー」

「じゃあ、夜までの時間をどうするかですね」

「あんまり遅いと怒られるからねー」

「映画でも観ますか?」



 そういえば、丁度観たいと思っていた映画が上映されるなと天城は思い出す。皐月に提案してみれば、「観る!」と嬉しそうに返事を返していた。



「映画見終わった後は色々見て回りたいなー」

「構いませんが」

「あ! あそこ行きたい!」



 皐月はどうやら人気マスコットキャラクターのカフェに行きたいようだ。可愛らしいキャラクターたちの限定グッズや、カフェメニューが人気なのだ力説する。



「クリスマスだから限定ケーキ出るんだよー!」

「好きそうですよね、皐月さん」

「好きー!」

「でも、そういうのは予約制では?」

「すぐに予約する!」



 きりっとした表情をする皐月に天城は小さく吹き出した。余程、行きたかったのだろうという熱意が伝わってきたから天城は「構いませんよ」と答えた。その返事に彼女はぱっと表情を明るくさせる。



「やったー! お出かけできるー!」

「本当に嬉しそうにしますね」

「嬉しいからね!」



 ふわふわと頬を緩ませる皐月に天城はそこまで嬉しいのかと不思議に思ったけれど、喜んでいる邪魔をしないように黙っておく。昇降口を出て校門の方まで歩きながら、彼女は「楽しみー」とクリスマスの予定を立てていた。



「冬休みも天城くんと遊ぶんだ〜」

「チャレンジ成功すると良いですね」

「それは天城くんの気分によるからなぁ。でも頑張るー」



 クリスマス以外でも遊びに誘うつもりらしい。とはいえ、冬休みは短いのだが彼女はそれをわかっているのだろうか。天城の疑問など知らぬように皐月はにこにこし笑っていた。


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