秋―キミを感じて
第22話 寄り道をして
学校帰りに立ち寄ったファストフード店で天城は皐月が広げている用紙を見ていた。隣を通り抜けていく学生を他所に彼女はむっと眉を寄せている。
今日は夏休みが明けてから時を待たずに行われた学力テストの結果が渡される日だ。天城は特に問題はなくて、少し平均よりも高いぐらいだった。
「これ、だめ?」
「同じ大学に行きたいなら厳しいかもしれませんね」
皐月はというと平均よりも低い結果となっていた。それでも勉強を頑張った甲斐があったのか、まだ平均順位が見える位置だ。けれど、天城の目指す大学に行きたいのならば、もう少し頑張らないと厳しいだろう。
「天城くんって進路変える可能性はあるの?」
「まぁ、あるにはありますよ。第一希望は少々自分には見合っていない気がしているので」
進路調査表を出したはいいが、天城は第一希望は自分には見合っていないと思っていた。成績がついてきていないとそう感じていたのだ。なので、変更しようかとも考えている。
そうなると第二希望や第三希望も変わってくるので、次に進路調査表を答える時には別の進路になっているだろう。そう天城が伝えれば、皐月に「変わったら教えてね」と返された。
「予想してましたが諦めませんね」
「諦めないよー」
「なら勉強しましょうね」
「頑張るー」
頼んだジュースを飲みながら皐月は用紙を鞄に仕舞う。そのままぐてっと机に突っ伏したので成績のことを少なからず気にしているようだ。それでも彼女は成績が良くなったほうだと天城は思う。
一学期の期末考査での成績と今回の学力テストの結果を見るに中間考査の時よりも点数が良いのだ。なので、「成績は良くなっていますよ」と天城は声をかける。
「天城くんに教えてもらったらからね!」
「まぁ、教えたからにはちゃんと覚えてほしいですからね」
「そこは任せてよ! 天城くんから教わったことは忘れないから!」
「授業もちゃんと覚えましょう」
「天城くんみたいに優しく教えてくれないからなー」
授業は一人に教えるわけではないので、仕方ないことではあるのだがそれでも今の教師は教え方が上手い方だ。とは言うけれど、皐月には教え方があっていないようなので誰かしらの手助けは必要だ。
だから、皐月は「天城くん教えーて?」と頼んでくる。自分の復習にもなるので問題もない天城は「仕方ありませんね」とその頼みを受けた。それが嬉しいのか、「えっへへ」と彼女は笑んで、いつもの流れだと天城は眺めながらジュースを飲む。
「そういえば、文化祭だね!」
「あー、そうでしたね」
「文化祭って五月だったり、九月だったりするよね。他の高校だと」
「そうですね、桜園は十月の初めですけど」
桜園高等学校は九月下旬から文化祭の準備に入り、十月の第一週の土曜日に開催される。各クラス・各部活が出し物をするよくあるものだ。出店だったり、簡易的なカフェだったりとあまり凝ったっものはしない。
クラスの出し物など面倒でならないので簡単なもので良いと天城は思っている。けれど、異様に力の入ったクラスメイトがいたりするのでその生徒たちによって出し物は決まるだろう。変なものでなければそれでいいと天城は特に気にしていなかった。
「天城くんさー、去年は何やったー?」
「一年の時なんて人気のある出し物は殆ど三年生に取られていたじゃないですか」
「そうなんだけどねー」
出し物というのは被らないように三年生から決めることになっている。一年生というのはそのあまりものから選ぶことが殆どだ。画期的な出し物を思い浮かんだのならば別だが、そうでないのなら基本的には恒例となっている出し物の中から選ぶことになる。その点で言えば一年生というのは不満だろう。
天城は興味がなかったのでそれほど不満はなかったけれど、文句を垂れている一年生というのは少なからずいた。
「あたしはねー、ポテト売ってたー」
「こちらも屋台でしたね」
「今年は何だろうねぇ?」
「面倒なものでなければ何でもいいですよ」
「天城くんってこういう行事苦手そう」
「あまり好きではないですね」
ただ、祭りに行くのならば良いが実行する側として参加するのを天城はあまり好きではない。気を遣わなければならないし、やる事が多く疲労する。自分だけで何か作業をこなすのならば良いが、仲間と共に協力してというそういったものが苦手なのだ。
「気合の入ったクラスメイトが何人かいましたから、彼らが勝手に決めますよ」
「いたなぁ、そういえば」
「俺は裏方に回ります、絶対」
「絶対の部分に力が入ってる」
こういった行事が好きではないのだうなと皐月は感じたようだ。好きではないので天城は「興味がないですかね」と返しておく。事実、本当に興味がないのでやる気というのがあまりない。
「部活動生は部活の出し物が優先だっけ?」
「そうでしたね」
「運動部は何するんだろ?」
「去年は運動部対抗試合とかやってましたね」
「あー、なんか盛り上がってた」
運動部対抗試合というのは各運動部の代表がいろんなゲームにチャレンジするものだ。毎年人気らしいので今年もあるのではないだろうかと天城が話せば、皐月は「女子がキャーキャー言ってたもんなぁ」と呟く。
運動部には必ず一人は人気な男子生徒というのがいるのだ。その生徒目当てに女子生徒たちが応援しに来たりする。皐月は去年のことを思い出したのか、なんとも言えない表情をしていた。
「興味なさげですね」
「あたしは天城くんしか興味ないからね。天城くんが参加するなら全力で応援するけども」
「運動部に入るつもりはないですので」
「だよねー! あ、文化部はどうなんだろう?」
「去年とあまり変わらないのでは?」
茶道部はお茶会を、吹奏楽部は演奏会を、美術部は作品展示、演劇部は演劇会を、文芸部は文集を頒布、手芸部は制作したぬいぐるみや小物の販売など各文化部の特色にあった出し物をする。放送部は文化祭のお知らせなど放送を担当するので出し物はしない。
「演劇部は多目的教室だっけ?」
「吹奏楽部は小ホールです」
「あれでしょ、体育館の隣に立ってるところ」
「この学園、吹奏楽部に力入れてますからね」
「体育館は運動部対抗があるからなー」
去年のことを思い出しながら話す皐月に天城は部活動生は大変だろうなと思った。いくらクラスの出し物の手伝いを免除されるとはいえ、部活動をしながら出し物の準備をしなくてはいけないのだ。天城にはそこまでするほどだろうかと理解できないことだった。
「まー、帰宅部のあたしたちにはクラスの出し物だね」
「……面倒でないことを祈ります」
「きっと大丈夫だってー」
天城の面倒げな表情に皐月は軽く返す。彼女はそう言うが異常に張り切っているクラスメイトがいる以上は何に決まるかは分からないのだ。天城は今から考えて溜息が溢れた、どうか面倒でありませんようにと。
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