第21話 こればかりは仕方ないことだ


「七海皐月! 化粧は校則違反だと言っただろう!」

「あたし以外にもやってまーす!」

「そいつらにもちゃんと注意している!」

「あたしだけしつこいと思いまーす!」



 風紀員長の陸から注意されるも皐月は反論する。二人の引かない態度に他の生徒たちは遠目から観察していた、その中に天城と龍二もいる。


 始業式のために登校してきた生徒たちが校門を通り抜けていく。その前には風紀員たちが立ち、校則違反をいている生徒たちに注意をしており、それに皐月は捕まってしまったのだ。



「七海っちまた風紀委員長に捕まってるじゃん」

「まぁ、化粧は校則違反なので」

「あの風紀委員長、厳しいよなー」



 この前も女子グループを説教していたのだと龍二は話す。派手目な女子グループというのは目立つのですぐに風紀委員長に目をつけられるのだとか。ちょっとした違反で長い説教が待っているらしい。



「貴方も捕まるかと」

「だよなー。今のうちに通り抜けよーっと……」

「はい、そこ! 校則違反!」

「うげっ」



 こそこそと通り抜けようとして風紀委員に龍二は捕まった。この学校は校則は割と緩く、髪の長さは男女ともに指定はない。長かろうと短かろうとちゃんと結っていれば問題はない。


 髪色に関しては生まれながらに色が明るかったり、外国人やハーフのため元々が違っていたりすることもあるので厳しくはしないものの、派手な色に染めると注意される。


 他にもワックスなどで髪型をセットする行為や、化粧、制服を着崩しているなどは規則違反となる。龍二は派手な髪色をワックスでセットし、制服を着崩しているので文句無しの違反だ。


 風紀委員の注意を聞きながら龍二は着崩した制服を整えていく。天城はそんな彼を置いて校門をくぐった。



「あっまぎくん!」

「……おはようございます」

「今、面倒くさいことに巻き込まれたって顔したでしょ」



 にこにことしながら喋りかけてくる皐月に天城は「そう思わないほうがおかしいでしょう」と思わず口に出ていた。何せ、彼女はまだ風紀委員長の説教を受けている最中だからだ。


 陸は天城を睨んでいるので話を遮られたことに対して苛立っているようだった。それは皐月が悪いので、怒るならば彼女にしてほしいと天城は思いつつも立ち止まる。



「皐月さんは大人しく説教されていたほうが良いのでは」

「嫌だー、もう十分に聞いたー」

「十分じゃない! 何度言えばいいんだ!」

「他の子もじゃーん」

「お前もだが、なんだ! 女子は何を言ってもやめないな!」



 陸は思い出したように声を上げる。どうやら皐月だけじゃないようで、女子というのは話をちゃんと聞かないと怒っていた。


 なんというか、真面目な人間だなと天城は陸に対してそういう印象を抱いた。真面目が故に融通が利かないところが彼にはある。きっちりとこなそうとするために厳しい態度になってしまうのだ。



「風紀委員長、そろそろ別の子に対応お願いします」



 ぴしりと制服を着こなす眼鏡の女子生徒が声をかける。陸は長引いてしまっていたことに気づいてか、「あぁ、すまない」と彼女に謝罪していた。


 皐月に対して「ちゃんと、化粧を落とせ!」ときつく言ってから別の生徒の対応を始めた。やっと解放されたと皐月は溜息を吐いて天城の元へと駆ける。



「もー、嫌になっちゃうよねぇ」

「だよなー」

「さりげなく混じらないでください、龍二」

「オレを放置しようだなんて、酷いぞ天城」

「俺には関係ないので」



 校則違反を天城はしていないので風紀委員会の生徒たちに捕まることはない。少しばかり髪が長いだけだがちゃんと結っているので問題はないのだ。天城は「彼らに捕まりたくなかったらちゃんとすることですよ」と二人に言う。けれど、龍二も皐月も「えー」と不満げだった。



「若いうちにお洒落しようぜ、天城ー」

「そうだよー」

「休日だけでも良いでしょうに」

「いちいち髪染め直すの面倒」

「貴方はもう少し髪色を大人しくすれば良いかと」

「染めるなら派手な方がいいじゃん?」

「その気持ちわかるー」



 皐月の同意に「だっよなー」と龍二が返す。そんな二人に天城はこれはもう何を言っても無駄なのだろうことを理解した。


          ***


 始業式が終わった後の教室では生徒たちが夏にあったことなどを話している。何処に行った、これお土産と騒がしい。また学校生活が始まるなとその様子を少しの間、眺めると隣で机に突っ伏す皐月へ目を向けた。



「席替えとか、無理……」



 そう、新学期が始まるとこの学校では席替えが行われる。こればかりは回避することができない。せっかく隣同士になったというのにと皐月はぶつぶつ文句を言っていた。


 また隣同士になるなどそうなるものではないので天城は「諦めてください」と諭すしかない。皐月は諦めが悪いのか、「嫌だー」と嘆いていた。



「別に対して変わらないでしょう。昼と帰りは一緒なんですから」


「そーうーだーけーどー!」



 うわーんと皐月がまた嘆くので天城はこれは暫くこのままだなと放置することにした。じたばたと足を動かす皐月を眺めていると担任の男性教師が入ってくる。


 一通りの話を終えると最後の恒例として席替えが行われる。担任教師がくじ引きの箱を取り出して、生徒たちの名前が書かれたプレートがその箱に入れられた。



「先生が引くが恨みっこなしだからなー」

「いや、変な場所だったら恨むよ、せんせー!」

「そう言うなよなー」



 生徒の野次に笑いながら担任教師はプレートを引いて、黒板に貼り付けていく。その度に生徒たちが「そこかー」「前とか嫌だー」などと口を溢していた。


 天城の席は廊下側の一番後ろで、皐月は中央の席だ。こればかりは運なので文句を垂れても仕方ない。皐月は「嫌だー」と言いながら席を移動する準備を始める。


 決められた席に移動して、教師が一通り話すと解散となった。席替えをしたとしてもあまり変わらないのだけれど、皐月にとっては全然違うらしく、急いで天城の側までやってきたがテンションはかなり下がっている。


 そこまでかと天城は呆れながらも「帰るのでしょう」と声かけた。皐月は「一緒に帰る」と頷いたので彼女と共に教室を出る。



「大して変わらないでしょうに」

「変わるもん」

「そうですか」



 うぅとまだ嘆く皐月にこれは暫く長引きそうだなと天城は察した。察したけれどどうにかできるわけもないので、仕方なく彼女の嘆きを黙って聞くことにした。




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