第16話 SNSには慣れていない


 一学期の終わりを迎える終業式、午前中で下校となった生徒たちが暑さに項垂れながら校門を出ていく。天城は何も言わずにひょこっと隣を歩く皐月と共に校舎を出た。


 皐月とはもう言わないくとも帰路を共にする。龍二から「付き合ってるじゃん」と揶揄われるけれど、まだそんな仲ではないのだがそうは見えなくもないので天城は苦笑するしかない。


 外の熱気に皐月が「うわぁ」と嫌そうに声を溢した。今日はいつにも増して暑いような気がしなくもない。天城はぎらつく太陽をちらりと見遣って眉を寄せた。



「あーつーい」

「そうですね」

「ねーねー、寄り道しない?」

「こうも暑いとさっさと家に帰りたいのですが?」

「えー」



 天城のつれない返事に皐月はぶーっと口を尖らせる。それでもしつこく言わないのはその言葉から嫌だというのを感じ取ったからだろう。彼女は「しょうがないなぁ」と素直に諦めた。


 こういうところは物分かりが良いなと天城が思っていると、歩きながら皐月が「そうだ」と手を叩いて鞄からスマートフォンを取り出した。



「天城くん、連絡先教えーて?」

「分かってはいますが理由を聞いても?」

「天城くんと夏休み遊びたいから!」

「でしょうね」



 分かっていた返事を聞いて天城は「仕方ないですね」とスマートフォンを取り出した。それに少し驚いたのか、皐月は「いいの?」と聞いてくる。



「祭りに行ってもいいと答えてしまいましたから」



 天城が「嘘はつきませんよ」と言えば、皐月は嬉しそうに笑みながら「そういうところが好きだよ」と返した。


 天城はただ、嘘をついて面倒ごとになるのが嫌なだけなのだが、それでも約束を守ってくれるというのは良いのだと皐月に返さてる。覚えているか不安だったけれど、ちゃんと覚えてくれていたことが特に嬉しいと。



「頻繁に連絡は取りませんけどね」

「天城くんってSNSあんまり使わないの?」

「えぇ、あまり」

「そっかー。あ、はいこれあたしのIDのQRコード」



 皐月はさっとスマートフォンをいじると画面を見せた。そこには友だち登録のQRコードが表示されている。天城はアプリを起動させてそれを読み込んだ。


 登録されたそれを少し見つめてからスマートフォンを仕舞うと皐月はまだ画面を嬉しそうに見つめていた。



「そんなに嬉しいですか」

「嬉しいよ、すっごくね!」

「そうですか」

「お祭り以外でも遊びたいなー」

「気分によりますかね」

「天城くんの気分を見極めるの難関だなー」



 とは言いつつも、諦める様子がないのを天城は感じていた。余程、彼女は遊びたいらしく、何が楽しいのやらと天城は首を傾げる。


 何かしたいことがあるのかと聞いてみると、「お出かけしたね!」と返された。出かける場所はどこでもよくて、天城と一緒に色々と見て回りたいのだという。皐月はそれだけで楽しいのだと笑った。



「連絡してみよーっと」

「貴女ならするでしょうね」

「大丈夫だよ、無理な時は諦めるから」

「まぁ、期待はしないでください」



 そう答えれば皐月はぱっと表情を明るくさせた。連絡することを許可されたのが嬉しようで「やったー」と、飛び跳ねている。



「お祭りはお盆明けてからだからー、何回かはチャレンジできる!」

「チャレンジって」

「お出かけチャレンジ」

「成功すると良いですね」

「そこは天城くんの気分次第だから」



 機嫌が良いことを祈りながら連絡するよと皐月は手を合わせる。それがなんだかおかしくて天城はくすくすと笑ってしまった。



「笑い事じゃないんだぞー」

「そうですか、そうっ……」

「まだ笑ってるー。天城くんのツボがよく分からないけど、笑っているの見れたからいいか!」



 何がいいのか分からないが皐月は機嫌が良さげに天城を見つめていた。


          ***


 ドアを開けて玄関の鍵をかけから、リビングに顔を覗かせて誰もいないことを確認すると天城は自室へと向かった。


 荷物を置いて制服から部屋着へと着替え、リモコンを操作してクーラーをつけるとベッドへと寝そべった。暑さのせいか、気だるくて何かする気にはならない。


 スマートフォンでもいじろうかと電源を入れるとSNSにメッセージが届いていた。それは皐月からだ。



『おかえりなさい!』



 その言葉とともに猫のスタンプが送られている。天城はぼんやりとそのメッセージを眺めていた。



「いつぶりだろうか、そんなこと言われたのは」



 いつも、天城が先に帰ってきているので両親から「おかえりなさい」と言われることはそう多くはない。一人っ子でもあるので兄弟からもそういった言葉は望めなかった。


 久しぶりだなと思いながらメッセージを眺めて天城は考える、これにどう返事を返せばいいのだろうかと。皐月が天城が帰宅する頃だろうと思ってこのメッセージを送ったのはわかる。わかるのだが返しが思いつかず、ここでメッセージ慣れしていなかったのが仇となった。



『貴女の方も無事に帰れたようで』



 なんとも味気ない返事だなと天城は苦笑する。それでもすぐに「駅は家から近いからね!」と今度は犬のスタンプと共に返事が返ってきた。それだけで彼女が嬉しそうにしているのが分かってしまう。


 少しの間、皐月とメッセージを交わしていた。天城があまりSNSをしないというのを分かっているので、皐月も長くは引き止めるようなことはせず、「また連絡するね!」というメッセージと共にうさぎのスタンプを送ってきた。


 最後に何か返事を返すべきなのか、天城は暫く考えたのちにバイバイと手を振る猫のスタンプを送った。それに反応して皐月が手を振るうさぎのスタンプを送り返してくれる。スタンプというのに興味がないのだが、気まぐれに買ったのが役に立ったようだ。


 そこで会話は終わる。メッセージを眺めながらこんな感じでよかったのだろうかと天城は疑問を抱いたけれど、いつもとあまり変わらないだろうと思うことにした。


         *


「天城くん、可愛いスタンプ使うじゃん!」



 その頃、皐月は天城が送ってきたスタンプに一人、悶えていたのは言うまでもない。



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