撮影終了

俺達はジェットコースターの前にやって来た。

今日はこの前来た時より空いているので並べばすぐに順番が来るだろう。

「ふー・・・。」

西宮は胸に手を当てて深呼吸を繰り返す。


「伊織、本当に乗るのか?無理しなくて良いんだぞ。麻里さんだって怒りはしないだろう。」

「大丈夫!乗るって決まってたし、予行練習もしたし。」

西宮は俺を見てにこっと笑う。

するとキヨが視界を遮るように俺と西宮の間に入り込む。

「兄ちゃんがいるから大丈夫なんだよな!そうだよな、伊織!」


西宮はふふっと笑うと、何も言わずに列に並んだ。

キヨはそんな西宮に何度も問いかけるが、西宮はにこにこと笑顔を見せるのみだ。

キヨは再び目を細めて俺を見る。

俺は勿論視線をそらすことしか出来ない。

「今日は兄ちゃんとのデートだろ・・・。」

キヨは小さい声でそう言うと、寂しそうな顔をして俯いてしまった。

すっごい拗ねている。

なんかもう可愛いよこの人は。


「お兄ちゃん。」

「・・・ん?」

「今日、お兄ちゃんとデートできるのすごい楽しみにしてた。

だからそんな顔しないで欲しい...。」

西宮はキヨの服の袖をぎゅっと掴んで顔を赤らめる。

するとキヨは満面の笑みで俺の肩をバシッと叩いてから西宮の頭をそっと撫でる。

「兄ちゃんも楽しみにしてたよ。兄ちゃんがいればジェットコースターなんてすーぐ終わるんだからな!怖くないんだからな!」

「うん!」

西宮は嬉しそうに笑った。


そして遂に順番がやってきた。

流石に撮影しながら乗車は出来ないので俺は待機だ。

西宮とキヨはカメラ付きのヘルメットを被って準備万端である。

「これ、俺のカメラ必要か?」

「当たり前に必要だよ!ね、新太君!」

俺はうんうんと頷いてみせる。

イケメンだもん需要しかないさ。

キヨは不思議そうな顔でそうか?と言う。


先ほどのキヨの言葉もあってか西宮の表情は明るく、不安などは無さそうだ。

流石シスコン兄である。

「じゃあ行ってくるね!」

西宮はぶんぶんと手を振ると、キヨと共にジェットコースターに乗り込んだ。

俺は1人で近くのベンチに腰掛ける。

「ふう・・・。」


あの兄妹は本当に仲が良い。

お互いの事が本当に大好きな事が伝わってきて、見ていて微笑ましい。

そう思う一方で、お化け屋敷の時のような嫉妬心と言えるような感情があることも事実だ。

「俺、やばいよな・・・。」

「新太さん!」

そんな事を考えていると、名前を呼ぶ声がした。

見るとそこには志乃と相手の男性モデルの姿があった。


「志乃さん。次はジェットコースターですか?」

「はい。もしかしてキヨ君と伊織さん乗ってますか?」

「ちょうど今乗ったところです。すぐ戻ってくると思いますよ。」

「良かったな〜、志乃。」

「アルは黙ってて!」

志乃はそう言うとアルこと男性モデルにデコピンをする。

「いってえな〜。そう言うことして良いのか?キヨさんに言い付けるぞ?」

「キヨ君は関係ないでしょ!」

「貴方達。」

麻里の声に2人はすぐに言い合いを止める。

「まだ仕事中よ。しっかりやりなさい。」

「ごめんなさい。」

「すんません。」

2人がジェットコースターに向かったので、俺と同様麻里はベンチに腰掛けた。


「そっちはどう?仲良くやってる?」

「キヨさんのシスコンが暴走してます。」

麻里は楽しそうに笑う。

「伊織のブラコンも相当なんじゃない?2人ともウッキウキだったもの。」

確かにそうだ。

俺が頷くと彼女はやっぱりねと笑う。

「志乃さんとアルさん?はどうですか?」

「なんだかんだ仲良いわよ。2人でいるとすぐ仕事だってこと忘れちゃうみたいで困るけどね。」

こっちの2人もなかなかなものだが大丈夫だろうか・・・。

「あれ?麻里さん!」

「あら、伊織。ジェットコースター乗れた?」

「はい!バッチリです!」

「予行練習の甲斐があったみたいね〜。」

麻里はそう言って西宮の頭を撫でながらニヤニヤと俺を見る。


麻里さんまで俺たちが遊園地に行ったことを知っていたのか。

良いのだがなんだか気恥ずかしい。


「俺がいたからです!!!!そうだろ?伊織!」

「これがシスコンの暴走ね。」

「なんですかそれは?!新太!なんか変なこと言っただろ?俺はいつだってすんごいシスコンだ!!今だけみたいに言うなよ!」

突っ込むところそこなのか。キヨらしいけども。


その後は麻里と別れて再び遊園地を周り、次は最後の乗り物だ。

「うわぁー、おっきいね!」

俺たちの前に現れたのはこの遊園地の名物である巨大観覧車だ。

「だいぶ暗くなったし、今乗ったら景色も綺麗だろうな。」

「早く行こう!」

2人は腕を組みながら軽やかな足取りで観覧車へと向かう。

「この前来た時乗ったのか?」

「乗ってないよ。」

西宮がそう答えると、キヨは俺を見てニヤリと笑う。

今日の中で一番嬉しそうだが、気のせいだろうか。


前回俺と西宮が乗らなかった観覧車。

そこに今俺達は並んでいる。

「おっきいから3人でも広々乗れそうだね!」

順番が近づく度に俺は胸がきゅっとなった。

俺はキヨにカメラを渡す。

「新太?」

「すみません、ちょっとトイレ行きたいので順番きたら2人で乗っちゃってください!」

「え?」

「おい、順番次だぞ。」

「ごめんなさい!」

俺はそう言って観覧車の列から抜ける。


俺は結局観覧車には乗れなかった。

「・・・2人で乗りたいじゃんか・・・。」

観覧車が終わって腕を組んでいる2人に合流し、撮影開始場所に戻る。


西宮が着替えなど帰り支度を済ませる一方で、キヨは着替えようとしなかった。

少しして志乃達も戻って来る。

志乃はキヨを見て目を丸くする。

「着替えないで待っててくれたの?」

「志乃が待ってろって言ったんだろ。」

志乃は嬉しそうに笑うと、スマホをキヨに向ける。

「え?俺単体なの?」

「え?」

「一緒に撮るんじゃないの?」

「・・・良いの?」

「新太、撮って。」


キヨがそう言うと、志乃は顔を赤くして俺にスマホを差し出した。

「お願いします。」

俺が2人の写真をとると、志乃は嬉しそうにその写真を見てからキヨにぎゅっと抱き付く。

「大好き。」


麻里はニヤニヤと、西宮はニコニコとそんな2人を見ていた。

こうして遊園地での撮影は終了した。






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