手、繋ぐ?
チュロスの一件から少し時間が経ったが、キヨからはまだ凄まじいオーラを感じる。
画面越しに目があっただけでも一歩引いてしまうくらいだ。
その度にキヨはニヤリと笑って見せる。
YouTubeだってことちゃんとわかってるのか?
「お兄ちゃん!次はお化け屋敷ね!」
「え?!お化け屋敷行くのか?」
「行かないの・・・?」
西宮がしゅんとした表情を見せるとキヨは慌てたように手を首をぶんぶんと振る。
「行くよ!行くに決まってるだろ!兄ちゃん、全然怖くなんかないんだからな!」
この人もしかして・・・?
お化け屋敷の前に着くと、キヨは急に空手のような構えを披露する。
「お兄ちゃん、何してるの?」
「伊織!兄ちゃんが絶対に守るからな!」
キヨの両足はガクガクと震えていた。
この人は完全に俺と同類だ。
「お兄ちゃん、もしかして怖いの?」
「そそそそそ、そんな訳ないだろ?!兄ちゃん何も怖くないぞ!」
キヨはそう言って再び目を細くして俺を見る。
西宮にと言うより、俺に弱点を見せたくないらしい。
俺はニヤリと笑ってカメラを渡す。
「じゃあキヨさん、中の撮影お願いしますね。」
「任せろ。余裕なんだからな!」
キヨはそう言って震える手を俺の前に出す。
「新太君も一緒に行くでしょ?」
「え?!」
西宮は当たり前でしょ?と言う顔でそう言った。
一緒に来た時、俺がどんな反応していたのか覚えていないのか?
「いや、僕はその・・・通路も狭くなっちゃいますし・・・?」
「新太君。」
「はい。」
「3人で入れば怖くないよ!一緒に行こう!」
「新太、お前まさか・・・。」
「僕は決して怖い訳では!」
「新太!怖いなら素直にそう言えよ!」
キヨは勝ち誇ったような顔で俺を煽る。
自分だって怖がってるくせに。
「怖い訳ないじゃないですか!僕が先頭を行きますよ!」
「いいや!先頭で伊織を守るのはお兄様であるこの俺だ!」
「わかりました。僕は撮影があるので一番後ろを歩きます!」
「え?!あ、ああ!そうか!そうだな!せ、先頭はこの俺だ!」
こうして結局3人で入ることになってしまった。
「じゃあ、入るぞ!入るからな!」
「私が先頭行こうか?」
「何があるかわからないんだから、伊織は真ん中にいなさい!」
そう言ってキヨは遂にお化け屋敷に足を踏み入れた。
「ポマード、ポマード、ポマード・・・。」
早々にキヨが唱えているのは確か口裂け女に効く呪文。
まだ何も出て来てないから意味なくないか?
そんなキヨを見て西宮がふふっと笑う。
「お兄ちゃん、大丈夫?」
「大丈夫だ!何が出て来たって兄ちゃんは大丈夫だ!」
この辺りで確か・・・。
「う〜ら〜め〜し〜や〜。」
「うわああああ!出たああああ!」
やっぱり出た。そうだ俺はこの間ここに入っていて、だいたいどの辺りでお化けが出てくるのかわかっている。
これは大きなアドバンテージだ。
「キヨさん、随分びっくりされてますね。」
「ただびっくりしただけだからな!怖かった訳じゃないぞ!」
「そうですか。」
この勝負、勝ったな。
その後もキヨはとてもいいリアクションを見せてくれる。
西宮は前回同様、ただの散歩といった感じだ。
「ポマード、ポマード、ポマード・・・。」
「お兄ちゃん。」
「ん?」
「手、繋ぐ?そしたら怖くないよね?」
西宮はそう言うと、キヨに手を差し出す。
「伊織はやっぱり天使だな・・・!」
キヨが手を出したので、俺は咄嗟にその手を握る。
「新太君?」
「新太、何するんだ!」
「・・・で・・・。」
「え?」
「・・・僕も怖いので、怖い者同志繋げば良いじゃないですか。」
「なんでだよ、離せ!」
キヨが俺の手を振り解こうとするが、俺はその手をさらに強く握る。
「・・・嫌です。」
自分でも何をやっているんだと思う。
男の手をこんなに強く握って離さないなんて俺はきっとどうかしている。
それでも俺は今、この手を離したくない。
だって離したら西宮がこの手を握るんだろう。
わかってるよ、兄妹だって。それに今日は2人のデート企画だよ。
それでも嫌なんだ。
キヨは大きなため息を着くと、逆の手で俺の頭をポンと撫でる。
「我儘な弟だな。」
「だからそれはまだ・・・じゃなくて・・・!」
結局その後はキヨと手を繋いだまま、お化け屋敷を歩くことになった。
「うわああ!いる!いる!」
「ちょっと、キヨさんしか映ってないです!西宮さんも映さないと!」
「新太が俺と手繋ぐって言ったんだろ!上手くやれ!うわああああ!!」
西宮はそんな俺たちを見て終始楽しそうに笑っていた。
お化け屋敷から出るとキヨはげっそりしてベンチに座る。
「余裕だった・・・余裕のポマードだった・・・。」
余裕のポマードって何?そんなワード初めて聞いたんだけど。
「お兄ちゃんごめんね。お化け苦手だって知らなかった・・・。」
「兄ちゃんは余裕だった!全然一ミリも怖くなかった!怖がってた新太と手を繋いでやったくらい余裕だった!」
びっくりするくらい説得力が無い。
「僕の方が余裕でしたよ!」
「新太は怖いって言ってただろ。」
「そ、それは・・・!」
そう言うしか無いだろ・・・。
「2人とも。」
「ん?」
「はい?」
「ありがとう。今日すっごい楽しい!」
そう言って西宮は満面の笑みを見せる。
「よし、そろそろジェットコースター乗れる気がする!2人とも、行こう!」
歩き出した西宮の後を俺は慌てて追いかけた。
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