年齢

撮影が終わると麻里がキヨを捕まえる。

「遊園地の撮影の事で話があるから事務所に来てくれる?」

「はい。」


「新太君、志乃の事よろしくね。」

「はい。」

キヨは麻里の車に、志乃は俺の車に乗る。


「新太さん、運転お願いします。」

「はい。」

俺は車を出した。


さて、どう切り出す?

と言うか話を聞くのは本当に俺で良いのか?


俺がそんな風に頭を悩ませていると志乃が口を開く。

「新太さん、何かありましたか?」

「・・・ソワソワしちゃってましたか?」

「ソワソワしちゃってました。」


バレてしまったなら仕方がない。

なんならチャンスか。


俺は意を決して志乃に問いかける。

「ここ最近元気がないですよね?その・・・大丈夫ですか?」


志乃は一瞬目を丸くした後、にこっと笑ってみせる。

「そんな事ないですよ。」


志乃と付き合いは浅い俺にも、彼女が無理をして笑っている事がよく分かる。


「本当にですか?」


俺が聞いていい事なのかは正直分からない。

それでも無理して笑っている彼女を放ってはおけない。


そういえば聞こえはいいだろうが、要は自己満足だ。

それを自覚しながらも俺は志乃が話始めるのをじっと待つ。


志乃は少し俯きながら口を開く。

「分かってるんです。私の気持ちがキヨ君にとって迷惑だって・・・。」

「え?」


「キヨ君は優しいから・・・。」

志乃はそう言って目を潤ませる。


「志乃さん・・・」

俺はそんな彼女に何も言えなくて、たまたま持っていたポケットティッシュを手渡すことしか出来なかった。


彼女はありがとうございますと両手で丁寧にそれを受け取った。


「ただでさえ年下で、対等だと認めてもらうのは難しいと思っています。それなのに、キヨ君の優しさに甘えて自分の気持ちを押し付けるばっかりで、自分が嫌になります・・・。」


それでキヨと腕を組んだり自分の気持ちを伝えるのをやめていた訳か。


「本当にそうなんでしょうか?」

「え?」

「キヨさんは本当に迷惑だと思っているんでしょうか?」

「それは・・・そうだと思います。キヨ君は優しいから言えないだけでしつこいって思ってると思います。」


キヨは志乃の気持ちがだと言っていた。

志乃はまだ18歳の高校生だ。世間では大人と定義づけられる年齢だが、正直幼い部分も多いだろう。

キヨはそう言う意味でも志乃の気持ちを憧れだと言っているのだろう。


実際、10代の子が年上に憧れるなんて言うのはよく聞く話だし、俺が高校生の時にも一回り程年上の男性と付き合っている女の子もいたりした。


だが、その男性の中で純粋に女の子を想っていた人はどれくらい居たのかといささか疑問に思う。

他人の色恋に口を出すつもりも無いし、文句があるわけでは無いのだが冷静に考えてアラサーがJKと付き合ってますってやばいだろ。


志乃には酷だが、キヨのような対応が正しいと俺は思う。


「キヨさんは迷惑だと思っている訳では無いと思います。」

「え?」

「キヨさんが志乃さんをどう思っているのか俺にはわかりません。けれど仮にキヨさんが志乃さんに対して好意を寄せているとしても、対応は変わらないと思います。」


「どうしてですか?」

「それが大人として正しい対応だと考えているからです。志乃さんは仕事もしていて周りの子に比べたら考えは大人でしょう。

けれど高校生です。世間がいくら大人と定義付けてもキヨさん、正直俺から見てもまだまだ若い。」


俺がそう言うと志乃はこくんと頷いた。


「仕事中はお互いプロですから対等で間違いない。けれど年齢の壁が無くなるのはもう少し先だと思います。

それはキヨさんが志乃さんの事を大切に思っているからこそだと思います。」


志乃はうんうんと頷いて、涙を流す。


「ごめんなさい・・・偉そうに色々言ってしまって。」

志乃は首を横に振る。

「ありがとうございます。確かにキヨ君は高校生に手を出すようなことする人じゃないです。」

俺がうんうんと頷いてみせと、彼女はニコッと笑う。


「私、キヨ君のそう言う真面目なところも大好きなんです。それなのに私、何を焦っていたんでしょう。」

志乃は涙を拭って自分の両頬をぺちっと叩く。


「私ができることは伝わるまで伝える事、良い女になる事!

明日からも頑張らなくっちゃ!」


良かった。いつもの志乃に戻ったようだ。

俺は安心して志乃を家まで送り届けた。



3日後、今日は志乃の撮影に同行することになっている。

キヨと共に志乃の家に向かった。

「新太、荷物多いだろうから上まで迎えに行ってきてもらって良いか?」

いつもならキヨが自分で行くのだが、彼なりに思うところがあるのだろう。


「キヨさんが行った方が良いと思いますよ。」

「いや、それは・・・」

珍しくキヨが口籠る。

「志乃さんならもう大丈夫ですよ。」

「え?」


俺がそう言ってニコッと笑いかけると、キヨは少し不安そうな顔をしながらも車を降りた。


そして5分ほど経ち、2人が戻ってきたのだが俺は思わずニヤニヤしてしまう。

視線の先の2人はばっちり腕を組んでいて、志乃は満面の笑みを浮かべていた。


運転席に乗り込もうとするキヨに志乃がぎゅっと抱き付く。

いつもならすぐに体を離すキヨだが今日はしばらくしてからそっと体を離していた。


キヨが運転席に乗ったので俺は助手席から降りる。

「志乃さん、こっちに乗ってください。」

すると志乃は嬉しそうに笑って助手席に乗り込んだ。


「新太、お前・・・!」

「新太さん、ありがとうございます!」

「いえいえ。」


俺が後部座席に乗り込むと、キヨが俺の方をチラリと見たので俺はニヤッと笑って見せた。


「キヨ君!頭撫でて!」

「撫でないっつうの。もう行くぞ。」

「キヨ君!」

「ん?」


「大好き!」


志乃にそう言われたキヨの表情は、心なしか安心したように見えた。




◯あとがき


あけましておめでとうございます。

更新がすっかり遅くなってしまいました。


今年もゆるっとですが更新して参りますので、どうぞよろしくお願いいたします。


宝花 遥花

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