幸せ者

「・・・さん。」


「・・・太さん。」


「新太さん!」


「え?!はい?!」


呼ばれてハッとすると目の前にはギャル娘こと志乃がいた。

遊園地から二日後。俺はキヨに頼まれて志乃を迎えに来ていた。


「大丈夫ですか?」

「ごめんなさい・・・びっくりしてしまって・・・。」

「何度もお呼びしましたよ?」


志乃はそう言って心配そうに俺の顔を見る。

「ごめんなさい。今車を出すので、乗ってください。」

志乃は失礼しますと言ってから俺の車の助手席に乗り込んだ。


今日はまさかの志乃と2人きりだ。

キヨはというと、志乃の撮影の前にもう一つ仕事があって、撮影には志乃の迎えには行かず直で来なければ間に合わ無いらしい。


それで俺が駆り出された訳なのだが・・・。


今まで志乃とは殆ど話したことがない。

18歳相手に情けない話だが、俺は今緊張している。

俺はとりあえず車を出した。


「新太さん。」

「はい!」

しばらく車を走らせると志乃から話かけられた。


「もしかして体調悪いですか?」

「え?」

「なんだか先ほどからソワソワされている様でしたので、もしかしたらと思ったのですが・・・。」


「いや、全然!とっても元気です!!」

俺がそういうと志乃はニコッと笑う。

「そうですか。良かったです。」


なんて良い子なんだ。


「じゃあ、伊織さんと一緒じゃなくて残念でしたか?」

「え?!ちょ!!何を言ってるんですか・・・!?」


俺の慌てっぷりに志乃がふふっと笑う。

「新太さんて面白いですね。」

「それ、褒めてますか?」

「さあ、どうでしょうか。」


志乃の笑顔はとても可愛らしい。

「そう言えば、ひとつ聞いても良いですか?」

「何でしょうか?」

「キヨさんとのお食事はいかがでしたか?」


俺がそう聞くと志乃は顔を真っ赤にして手で覆う。

「そ、そ、そ、それは・・・!」

「ごめんなさい、答えたく無かったら大丈夫なので!」


志乃はゆっくりと手を下ろすと、嬉しそうに言う。

「夢のような時間でした。」



そんな志乃だが、撮影が始まればキリッとモードに切り替わる。

キヨが来るのを静かに待ち、キヨが来ても声を荒げず撮影が始まれば更に表情が引き締まる。


「これがプロってやつか・・・。」

感心していると撮影はどんどん進む。

キヨはその様子をただ黙って見つめていた。


そして撮影が終わればいつものデレデレモードだ。

「キヨ君!」

志乃はキヨと腕を組んで満足げである。

キヨは慣れた様子でノーリアクションに近い。これがモテ男ってことか・・・。


志乃がキヨの車に乗り込もうとすると、キヨがそれを静止する。

「これから伊織と飯だから新太に送ってもらって。」

伊織は少し寂しそうに頷いて俺の元へやってきた。


「朝も送って頂いたのに、すみません。」

「気にしないで下さい。」

「ありがとうございます。そうだ!伊織さんとのお話を聞かせてください!!」


志乃は興味津々と言ったように目を輝かせている。

そうだ彼女はとても大人っぽくて忘れてしまいがちだが、18歳なのだ。

恋の話に目を輝かせるのも不思議ではないだろう。


「そんなに面白い話はありませんよ?」

「お二人は将来、私ときょうだ・・・じゃなくて・・!

遊園地に行く前もデートされたんですよね?どうだったんですか?」


今一瞬、すごい事を言いそうにならなかったか・・・?

俺は突っ込まない方が得策と考え、疑問を口にする事はしなかった。


「どうって言われましても・・・」

俺が戸惑っても彼女の目の輝きが失われることは無かった。

俺は少し照れながらも今までのデートの話をする。


西宮の笑顔や困った顔、緊張した事、楽しかった事。

俺は色々なことを思い出して時にはクスッと笑ってしまった。


俺が話終わると志乃はふふっと笑う。

「何ですか?」

「ごめんなさい。新太さんがとても楽しそうに話されていたのでつい。」


俺は自分の顔が熱くなるのを感じた。


「志乃さんはその・・・キヨさんのどんな所が好きなんですか?」

「え?!」

志乃は意味もなく手をぶんぶんと振り回し、顔を真っ赤に染める。


「僕も話したんですから、次は志乃さんの番です。」

俺が大人気なくそう言うと、志乃は手で顔を覆う。

「そそそ、そんな私の話なんて・・・!」


いつもキヨに好き好きアピールしている子と同一人物とは思えない程照れている様子だ。


俺はただただ志乃が話し始めるのを待つ。

少しすると志乃は顔から手を退けて、少し小さな声で言う。


「全部です。全部大好きです。誰よりも大好きです。」


そう言った彼女の目はとても真っ直ぐで美しかった。


「だからぜっっっったいにキヨ君のハートをゲットします!」

彼女は拳を握りしめてニコッと笑う。


「キヨ君はモテモテだからライバルがいっぱいなんです!でも絶対絶対、私が一番キヨ君の事好きなんです!」

志乃があまりにも自信満々にそう言うので俺は思わずうんうんと頷いてしまった。


「やっぱり、新太さんもそう思いますよね!」

志乃はとても嬉しそうだ。


「でもまだキヨ君には私の気持ちが伝わっていない様な気がするんです。」

「いつもあんなに好きって言ってるのにですか?」


俺が問うと志乃は少し寂しそうに言う。

「キヨ君にとっては私はまだ子供なんだと思います。」


憧れ。

俺は以前、キヨがそう言っていたことを思い出した。


「だから魅力溢れる大人の女性になって、キヨ君をメロメロにするんです!」


こんなに思ってくれる人がいてキヨは幸せ者だと思う。

けれど俺はこの時、志乃にそれを言う事はできなかった。

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