遊園地②
遂に2人はジェットコースターに向かう事になった。
平日で空いているとは言え少し並んでいる。
西宮は深呼吸で気持ちを落ち着ける。
「大丈夫ですか?」
「・・・うん。」
「そう言えば、遊園地ではどんな撮影をするんですか?」
「デート企画。」
「え?」
俺の反応を見て西宮が笑いながら言う。
「相手、キヨだけどね。」
「え?キヨさんですか?そうですか・・・。」
西宮は俺の顔を覗き込んで頬を赤らめる。
「もしかして、今ちょっと安心してくれた?」
「え?!」
西宮は俺の目をじっと見つめる。
「・・・ノーコメントで・・・。」
俺がそう言って目を伏せると、西宮は少し嬉しそうに笑った。
「キヨさんてモデル業もやられてるんですか?」
「ううん。今回は特別に協力してもらうの。雑誌は後ろ姿とかだけで顔出しは無し。YouTubeは顔出ししてくれるって感じ。」
流石、最強のシスコンだ。
あの人は妹の為なら出来ることは何でもするんだろうな。
ていうか、めっちゃ楽しみにしてるに違いない。
そんな話をしていると順番が近づいて来た。
「次、乗れそうですね。」
「うん・・・。」
西宮の表情は固い。
相当緊張しているようだ。
「やめておきますか?」
俺がそう聞くと、西宮は首を横に振る。
「予行練習しておかないと、撮影の時迷惑かけちゃうかもだから頑張る。」
そして遂に俺たちの順番が来た。
一番後ろに俺達は乗る。
安全バーなどの確認を終えてもうすぐスタートだ。
西宮を横目で見るとその表情はとても不安そうだった。
俺は西宮の手をそっと掴む。
「え?!新太君?」
「大丈夫。」
「え?」
「これで怖くないよ。」
◇
「はあああ・・・。緊張したあ・・・。」
ジェットコースターが終わると、西宮はベンチに座ってふうっと息を吐く。
「西宮さん、すごい叫んでましたけど喉平気ですか?」
「うん。ありがとう。」
西宮はにこっと笑った。
やっと緊張から解放されたと言ったような表情だ。
「怖かったですか?」
「・・・ちょっと。でも、新太君のおかげで頑張れたよ。ありがとう。」
西宮は少し照れながらそう言った。
「なんかお腹すいちゃった。」
「おやつ食べに行きましょうか。」
「うん!」
甘いものを探して歩いていると、西宮と通行人がぶつかった。
「きゃ!」
西宮は衝撃でバッグを落としてしまい、中身が地面に飛び出る。
「西宮さん!大丈夫ですか?」
ぶつかった通行人は謝罪や心配の声は無く、スタスタと歩いて行ってしまった。
そんな通行人に俺はムカつきながらも、西宮と一緒にバッグの中身を拾う。
「これは・・・・?」
俺が拾ったそれはハンドブックだった。
タイトルには『お出かけ・デートもこの一冊で!遊園地ガイドブック』
と書かれていた。
「あああああ!!!!!」
西宮は大きな声をあげて、慌てて俺の手からその本を取るとバッグにしまう。
「ち、違うの!!これは・・・その・・・!」
西宮は顔を真っ赤にして、手をぶんぶんと謎に動かす。
俺は立ち上がって、西宮に手を差し伸べた。
「立てますか?」
「・・・うん。」
俺達はカフェでおやつタイムだ。
西宮は静かにココアを飲む。
「怪我してないですか?」
「うん。ぶつかっちゃった人に謝れなかったな・・・。」
なんて優しいんだろう。俺はただただムカついたのに・・・。
何だか自分が恥ずかしい・・・。
「西宮さん。」
「ん?」
「さっきの本は今日の為に?」
西宮は何も言わずに顔を赤く染める。
「それとも撮影の為ですか?」
「・・・ノーコメント・・・。」
西宮はそう言ってプリンを口に運んだ。
おやつの後はお土産を見る。
楽しそうにお土産を選ぶ西宮を見ていると、なんだか口元が緩んでしまいそうだ。
多分気持ち悪い表情になってしまうのでグッと堪えなくてはならない。
「うーん、こっちとこっちどっちが良いかなあ・・・。」
西宮の顔は真剣そのものだ。
「キヨさんへのお土産ですか?」
「そう!どっちが良いと思う?」
「どっちでもキヨさんは大喜びですよ。それにどっちが良いかは西宮さんが選んだ方がキヨさんは嬉しいと思います。」
「新太君、キヨの事よく分かってるね。」
「西宮さんほどじゃないですけどね。」
俺がそう言うと西宮は少し照れたように笑った。
辺りもすっかり暗くなって、アトラクションの明かりがとても綺麗だ。
「新太君。」
「はい。」
「・・・いや、何でもないや!」
西宮はそう言ってはにかんだ。
「え?なんですか?」
「何でもないよ。」
「何で言ってくれないんですか?」
「内緒なの!」
西宮はそう言って少しだけ寂しそうに笑った。
「西宮さん・・・?」
「今日は練習に付き合ってくれてありがとう!これでキヨに揶揄われなくて済みそう!」
西宮はにこっと嬉しそうに笑う。
「お二人の動画、楽しみにしてます。」
「うん!」
こうして西宮との遊園地は終わりを迎えた。
家に着くと俺はベッドに飛び込む。
「お出かけ・デートもこの一冊で・・・」
新太はふと自分の右手を見る。
西宮の手の感触がまだ残っていて、熱かった。
「予行練習だっつうの・・・。」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます