準備

明日は新太君と遊園地に行く日。

約束してからの一ヶ月、ずっとずっと楽しみにしていた日。

天気予報はバッチリ晴れ。


「お財布でしょ、充電器でしょ、ハンカチでしょ・・・」


荷物の最終チェックだって怠らない。

年上だもん、しっかりしていると思われたい。

服だって今日のうちに選んでおくの。明日悩んでいたらきっと決まらないから。


「明日はいっぱい動くから・・・このパンツにしよう!」

鏡の前で服を合わせて、一人ファッションショー。

コーデの確認もバッチリだ。


そうこうしているうちにお風呂が沸いたので、入浴タイム。

お気に入りの入浴剤で気分をアップ。ボディースクラブも忘れない。


「こんなに張り切ってるって知ったら、新太君に引かれちゃうよね・・・。」


だって今回はデートだって言ってないもん。

予行練習に付き合ってもらうだけなんだもん・・・。

新太君は優しいから来てくれるってだけだもんね。


「デートが良かったなあ・・・。」


私はすっごい欲張りなんだ。

そんなの、新太君には知られたくないな。

だって年上なのにこんなに欲張りで余裕がなかったら、がっかりされちゃうかもしれないから。


30分程でお風呂から上がって、全身にボディークリームを塗る。

パジャマを着たらいつもは撮影の前日にしか使っていない、特別な化粧水に美容液でスペシャルケア。


明日は特別な日だから入念に。

髪をしっかり乾かしたら何時ものストレッチの時間。

モデルを始めてから一日たりとも欠かしたことはない。


寝る準備が終わっていつもなら少しゆっくりする時間をとるのだけれど、今日は早めにお布団に入る。


お布団には新太君がプレゼントしてくれたぬいぐるみのぺん太がいる。

ぺん太をぎゅっと抱き締めていると、新太君の顔が浮かぶ。


優しくて、大人っぽくて、照れた顔が可愛くて。最近はちょっと揶揄われている気もするけど、全く悪い気はしない。

きっと新太君の笑った顔が見られるからだと思う。


そんな事を考えていたら明日がすごく楽しみで、眠れない。

目を閉じても新太君の顔が浮かんで顔が熱くなる。


「ぺん太、どうしよう・・・。」


ぺん太に顔を埋めてみるが、状況は何一つ変わらない。

何なら目が冴えていく。


「せっかく早く寝ようと思ったのに。」

寝ようと思えば思うほど寝れない。こう言う時は最終手段だ。


キヨにLINEをする。

(今電話しても良い?)

キヨからはすぐに返信が来た。

(三分待って。こっちからかける。)

眠れない時はキヨに電話する。

結局いつもキヨに甘えてしまうのだ。


ベッドの上で携帯を見ながらゴロゴロしていると、キヨから電話がかかってきた。


「もしもし。」

「もしもーし、また寝られないのか?」

「うん。」

「そっかそっか。でも兄ちゃんの声聞くと安心して眠れるんだもんなあ。」


電話越しでもキヨがニヤニヤしていることが分かる。


「仕方ないからそう言うことにしといてあげる。」

「素直じゃないなあ。兄ちゃんのこと大好きなくせに。」


その後はたわいも無い話をする。

キヨはいつもより落ち着いたトーンでゆっくりと話をしてくれる。

それがすごく心地よくて眠くなってくる。


「明日は何時に行くんだ?」

「・・・九時半に・・新太君がお迎え来てくれる・・・。」

「そっか。それは楽しみだなあ。」


「・・・うん。お兄ちゃんにお土産買ってくるからね・・・。」

「気持ちだけで十分だよ。ありがとう。」

「買ってくるもん・・・。」

「本当に優しいなあ、伊織は。」


瞼が重くてとてもじゃないが、もう目を開けていることができない。


「・・・新太君・・・ちょっとは楽しみって思ってくれてるかなあ・・・。」

「当たり前だろ。伊織と遊園地いけるんだぞ。ちょっとどころじゃないだろ。

代わりに兄ちゃんが行きたいくらいだ。」

「ふふ・・・何それ・・・ありがとう・・・。」


少しの沈黙の後、キヨは優しい声で言う。

「愛してるよ、伊織。」


キヨは私にたっぷりと愛情を注いでくれる。

自分はなんて恵まれているんだろうと改めて思う。


「・・・もう一回・・・。」

「本当に甘えん坊だなあ。」

「・・・だって・・妹だもん・・・。」


キヨはクスッと笑うと、もう一度その言葉をくれた。

「愛してるよ。」



翌日はすごくすっきりと起床できた。

朝の五時。いつも通りの起床時間だ。


白湯を飲んで、着替えを済ませたら朝のランニング。

この時間は人も少ないし、空気が綺麗な感じがして好きだ。

六時ごろ家に帰っきたらシャワーを浴びて、軽くストレッチ。


朝ご飯は割としっかり食べる。

ご飯食べないと元気出ないもん。

食べてる時がすっごい幸せだからその分動いてるって感じかな。


軽く部屋のお掃除をして、遊園地に行く準備を始める。

「緊張してきちゃった・・・。」

するとLINEの通知音が鳴る。


見るとキヨからだった。

(土産話、楽しみにしてるからな。)

「もう・・・!」


ニヤニヤしているに違いない。

でもおかげで緊張が少しほぐれた気がする。


メイクはキヨが教えてくれた大人っぽいメイク。

キヨみたいに上手くはできないけど、キヨから教わったものはやっぱり私に自信をくれる。

眉毛は苦手だが眉毛サロンに通っているおかげでお手のもの。


「これでよしっと。」


我ながら結構良い感じ。

昨日選んでおいた服に身を包み、鏡の前に立つ。


「髪の毛どうしよう。」

いつも通りのストレートか巻き髪か、動くだろうし結んだ方がいいかなあ・・・。


色々悩んだ結果、今日は髪を巻いてみる。

前髪も今日は無しにしてみよう。


「できた!!」

髪を巻くのに少し苦戦したけれど、何とか準備完了だ。


ちょうどその時LINEの通知音が鳴る。

「新太君だ!!!」

(もうすぐ家を出ます。)


もうすぐ会えると思うと、心臓の音が大きくなった。


(気をつけてね!)

(ありがとうございます。)

ベッドに座ってぺん太を抱き締める。

「楽しみだなあ。」



【後書き】

遂に20話まできました。

いつも読んで頂いてありがとうございます。

楽しんで頂けているでしょうか。


ここで申し訳無いご報告をさせて頂きます。

一旦、更新頻度を下げます・・・。


理由は私の力量不足です。申し訳ございません。


一先ず、週に一度のペースで更新できればと考えております。


何事も三日坊主、中途半端な私が書き続けていられるのは読者様がいてこそです。

本当にありがとうございます。


元から高くなかった更新頻度が・・・という事で本当に不甲斐ないですが、歩み続けます。


もしよろしければ最後までゆるりと応援して頂けると幸いでございます。


宝花遥花



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