ご機嫌ですね、お兄様

翌日。今日は久しぶりに二人は一緒にバイトだった。

当たり前のように一緒に帰る。


いつもにこやかで楽しそうな西宮だが、この日は何だか真剣な顔で時に眉間に皺を寄せている。


「西宮さん・・・・?」

新太が名前を呼ぶと、西宮ははっとした表情を見せる。


「ん?」

「お顔が険しいですが、何かありましたか?」

新太が恐る恐る聞くと、西宮は眉をひそめる。


「ごめんね!ちょっと考え事しちゃってた。」

「考え事?」


「もうすぐキヨのお誕生日なの。今年は何あげようかなと思って!お出かけするところは決めたんだけどね。」

西宮はそう言ってニコッと笑った。


「お誕生日は毎年一緒にお出かけしてるんですか?」

「うん!キヨのお誕生日は温泉旅行が多いかなあ。」

本当に仲が良いな。微笑ましい。


「西宮さんのお誕生日も毎年お出かけするんですか?」

「うん!去年は北海道で蟹いっぱい食べた!」

西宮は幸せそうに目を細める。


「本当にラブラブですね。」

「あ!ちょっと揶揄ってるでしょ!」


「揶揄って無いです。本当の事を言ったまでです。」

西宮は新太から顔を背けた。反応がいちいち可愛いくて、つい揶揄ってしまう。


「どうしてそっぽ向いちゃうんですか?」

「だって、新太君が揶揄うんだもん。」


「・・・嫌ですか?」

新太が不安そうに聞くと、西宮はぱっと新太の方を見る。

「嫌じゃないよ!ちょっと恥ずかしかったの!」

西宮が焦り気味にそう言ったので新太はクスッと笑ってしまう。


「嫌じゃ無いなら安心しました。」

「やっぱり揶揄ってたんだ!」

西宮は新太をじっと見つめる。


「バレましたか。」

「意地悪・・・。」

「何をプレゼントするか決まりましたか?」

新太が聞くと西宮は真剣な顔に戻る。


「ネックレスにしようと思う。」

「キヨさん、絶対喜びます。」

「そうだと良いなあ。」

西宮は嬉しそうに笑った。


西宮を家まで送ると新太はパチンコに向かった。

喫煙所で一服してから入店し、いつもの台の前に座る。


携帯を開くとインスタグラムのアイコンに指が触れてしまった。

この空間で一番見たく無いものだ。慌てて閉じようとすると西宮の投稿が目に入った。

それはいつの日か西宮が話していた雑誌の発売予告だった。


「明日だったのか・・・。」

その投稿にはコメントもたくさんついており、雑誌の発売を心待ちにしている人が大勢いるのが分かる。

「・・・すげぇ。」

新太は携帯をそっと閉じると、ぼーっと玉を弾いた。


二日後、この日はキヨの手伝いだ。

「よ!新太!!」

今日のキヨは何だかいつも以上にテンションが高いぞ。

明らかにるんるんしている。だって鼻歌が聞こえるもんな。


車の助手席には西宮も乗っていて、新太にニコッと笑いかける。

新太が後部座席に乗るとキヨがばっと後ろに振り返る。


「新太!!!さあ、聞け!!」

「え?何をでしょうか・・・?」

キヨは天を仰ぐ。


「おいおいおい!頼むぜ新太・・・!」

キヨは再び新太の方をばっと見る。首が取れそうな勢いだ。


「こんなにるんるんな俺を見たら原因を探るべきだろう!

リピートアフターミー!!

どうしてそんなにご機嫌なんですか?お兄様!!」


るんるんって自分で言う人なかなかいないと思うけど・・・。


「いや・・・えっと・・・。」

キヨはキラキラとした目で新太の顔をじっと見る。

西宮の方をチラッと見ると、申し訳なさそうに両手を合わせていた。


「・・・どうしてそんなにご機嫌なんですか・・・?」

新太がそう聞くと、キヨは待ってました!と言わんばかりの表情だ。


聞かせておいてその表情はおかしくないか?とも思ったが、突っ込むと長くなりそうなので諦めた。


「まず、ひとーつ!!これを見ろ!!!」


そう言ってキヨは一冊の雑誌を取り出した。

「それって・・・。」


それは先日発売された西宮が載っている雑誌だった。

キヨは付箋の貼られたページを開き、新太の顔の前に出す。


「見ろ!!!天使が載っているだろう・・・!」

「近すぎて何も見えません・・・。」

「あ、すまん。」


キヨは新太の顔から少し雑誌を離す。

そこには西宮の姿があった。綺麗だし、やっぱり可愛い。


「ちょっと、キヨ!恥ずかしいからやめてよ!新太君も困っちゃうでしょ!」

西宮はそう言って頬を赤らめる。

今日も可愛いなあ。


「困るわけないだろ!新太も見たかったに決まってる!な、新太。」

「僕、昨日見ました。」

「え?」

西宮はキョトンとした顔で新太を見る。


「昨日発売日なの知ってたので、買いに行きました。」

新太がそう言うと、西宮が嬉しそうに目を細めて笑う。


「わざわざ買ってくれたの?!ありがとう!!」

「まあ、当然の事だな。」

キヨはそう言ってうんうんと頷いた。


「キヨ!」

西宮は口を尖らせる。こんなに可愛く怒れる人類が存在して良いのか・・・?

いや、彼女は天使なのだ。人を超えた存在なのだ。

それなら納得がいく。


「そして、ふたーつ!!」

キヨはまたしてもテンション高く続ける。


「伊織と今度デートに行く!!」


キヨはそれはそれは嬉しそうに笑っていた。

「デートじゃないもん!」

西宮は慌てた様子でそれを否定する。


「照れなくて良いんだぞ、伊織!」

「だって、デートじゃないもん!!お出かけだもん!!しかもまだ先の話だし。」

するとキヨは明らかに肩を落として俯いた。


「兄ちゃんに、お誕生日はデートしようね♡って言ってくれたのは嘘だったのか・・・?」

「それはっ・・・!」

「だとしたら、兄ちゃん立ち直れない・・・。」

キヨは拗ねたようにそう言った。


西宮は耳まで赤く染め、恥ずかしそうに口を開いた。

「嘘じゃないけど・・・新太君に言わなくたって良いじゃん・・・。」

「だって、新太に自慢したいだろ。」


「何の自慢にもならないでしょ!」

キヨは優しく笑うと、西宮の頭をそっと撫でる。


「兄ちゃんにとって伊織は自慢の妹だよ。」

「・・・ありがとう。」

西宮は恥ずかしがっているが、とても嬉しそうだ。


新太はそんな二人を見てクスッと笑う。

「何笑ってんだよ、新太。」

「お土産、買ってきてくださいね。」

「うん!」

西宮はニッコリと笑った。



撮影が終わって新太が家に着くと、LINEの通知音が鳴った。

見ると西宮からだ。


(今日はキヨが色々ごめんね。いつもお手伝いに来てくれてありがとう!)

「大丈夫です。今日も仲良しで何よりでした。っと。」


新太が返信するとすぐに西宮からも返信が来る。

(ありがとう。そういえば明後日何時に行きますか?)

「そうか、もう明後日か。」


明後日はついに西宮と遊園地に行く日だ。


(僕は何時でも大丈夫です。)

(10時位に到着するように行くのはどうですか?)

なんで西宮まで敬語なんだろう。


(そうしましょう。)

すると西宮から可愛い猫のスタンプが返ってきた。

新太は思わずニヤけてしまう。

「俺、キモいな・・・。」



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