全部

撮影が終わり、2つのグループに別れて食事へと向かう。

「じゃあキヨ、志乃の事よろしくね。」

「承知致しました。」

志乃は目を輝かせて、ニッコニコでキヨを見る。


「ほら、行くぞ。」

キヨと志乃が車に乗ったところを見届けると、3人も麻里の車に向かう。


「遂にやったわね!」

「やりましたね!」

西宮と麻里はそう言ってハイタッチをする。


勿論車内でもキヨと志乃の話題は続く。

「志乃ちゃんすっごい嬉しそうでしたね!可愛かったなあ。」

西宮は何だか嬉しそうだ。


「キヨはお堅いからね〜。やっとかって感じよ。」

キヨがお堅いだと・・・?

「キヨさんてお堅いんですか・・・?」

新太が問うと麻里がクスッと笑う。


「お堅いっていうか、伊織のことで頭がいっぱいなのよ。」

「そんな事・・・!キヨは意外と真面目なだけです!」

西宮は少し恥ずかしそうに言った。


「良いのよ〜、恥ずかしがらなくて。貴方達兄妹がラブラブだって事は皆分かってるんだから。そうよね、新太君。」

「はい。」


そんな事は周知の事実だ。

「新太君まで・・・。」

「今日はお兄ちゃんのどこがそんなに大好きなのか沢山教えてもらおうかしら♪」

「麻里さんの意地悪・・・。」



そんな訳で食事が始まると麻里は早速西宮に話を振る。

「で?お兄ちゃんのどこがそんなに大好きなのかしら?」

「・・・秘密です・・・。」

西宮は顔を少し赤らめて、麻里から視線を逸らす。


「あら、少しくらい良いじゃない。本人はいないんだし。」

麻里はニヤニヤと西宮を見る。楽しんでるんだよな、この人は。


「ニヤニヤしてるもん、麻里さん絶対にキヨに言うじゃないですか・・・。」

麻里は何も言わずに西宮が話し出すのを待っている。

そんな空気に耐えられなくなったのか西宮は困り顔で新太の服の袖をキュッと掴む。


「新太君、助けて。」

「ごめんなさい・・・。僕も聞きたいです・・・。」


新太は申し訳なく思いながらも、西宮の困り顔も照れた顔ももっと見ていたと思ってしまった。

我ながら性格が悪いなと自覚はあったが仕方がない。だって可愛いんだもん。


「意地悪・・・。」

西宮は新太から顔を背ける。


「お兄さんのどんな所が好きなんですか?」

「・・・引かない?」

「引く訳がないです。」

西宮は少し黙った後、ポツリと呟いた。


「全部。」


小さい声だったがその言葉に迷いは無かった。

西宮は照れながらも話を続ける。


「私の誕生日は毎年、私なんかよりもずっとずっと嬉しそうにお祝いしてくれるの。誕生日なんて嫌いだったんだけど、キヨのお陰で今は毎年楽しみなの。

キヨはすぐ私の事揶揄うからちょっとムカつくこともあるけど、私が傷つくような事は絶対にしないんだよ。


一緒に出掛けるとね、いつも写真をいっぱい撮ってくれるから私は勿論、家に飾るんだけどさ、キヨも当たり前のように自分の家にいっぱい飾ってくれてね、それがすごく嬉しいの。」


そう言って西宮が嬉しそうに恥ずかしそうに笑ったところで、麻里が啜り泣く声が聞こえた。


「麻里さん?どうしたんですか?」

西宮が心配そうに麻里を見つめる。

「・・・酒が・・・目に染みただけよ・・・。」

嘘つけ。それは紛れもない烏龍茶だ。第一、酒が目に染みるってなんだ。


「私、麻里さんの事も大好きです。」

「・・・え?」


「キヨと出会えたのは麻里さんが私を見つけてくれたからです。ありがとうございます。」

西宮のその言葉に麻里は更に泣いた。

西宮はそんな麻里にハンカチを渡す。


「お兄ちゃんには内緒なんですからね!」

「・・・多分ね・・・。」


「多分じゃなくて絶対!新太君もだからね!」

「はい、多分・・・。」


「もう!二人とも意地悪ばっかり!」

そう言いながらも西宮は微笑んでいた。


それから二時間ほどして店を出ると、駐車場にキヨの姿があった。

「キヨ!」

西宮は嬉しそうにキヨに駆け寄る。


「あら、志乃は?」

「さっき家に送りました。そしたら伊織からLINEが入ってたので迎えにきたんです。」


なるほど。西宮がキヨを呼んだわけか。


「伊織ったら、お兄ちゃんの話をしてたら会いたくなっちゃったのね〜。」

「そうなのか?!伊織!!」

キヨが嬉しそうに西宮の方を見ると、西宮は何も言わずにキヨから顔を背ける。


「そっかそっか、そんなに兄ちゃんに会いたかったのか〜!兄ちゃんの事大好きだもんなあ。」

「・・・キヨのお家ここからちょっと距離があるから、麻里さんに送ってもらうのが申し訳なかっただけだもん。」


それを聞いたキヨはニッコニコだ。

「今日は兄ちゃん家に泊まりたいのか。兄ちゃん初耳だなあ。」

西宮は何も言わずにキヨの服の袖をギュッと掴む。


「帰ろうか、伊織。」

「うん!」

西宮は嬉しそうに笑った。


「新太君は私の車に乗りなさい。」

「ありがとうございます。」

こうしてこの日は解散となった。


新太は麻里の車の助手席に乗り込む。麻里と二人きりになる事などなかったので少し緊張していたのだが、麻里は落ち着いた声で話しかけてくれた。


「今日もあの兄妹はラブラブだったわね〜。新太君、もう慣れたかしら?」

「最初はキヨさんが凄まじいシスコンだなって思ったんですけど、西宮さんも負けないくらいのブラコンですよね。」


「よく分かってるわね。流石、噂の新太君。」

「あの、その噂の新太君って何なんですか?」

麻里はクスクスと笑う。


「それは伊織に聞くと良いわ。」

「いや・・・それは何というか・・・。」

これを西宮に聞くのは何となく勇気がいる。


「まあ、悪い意味じゃないから。そういえばさっきはごめんなさいね、お酒が目に染みちゃって。」

本当にそうだったとしたら貴方は今、飲酒運転・・・になるのか?


「西宮さんが幸せそうで嬉しかったの間違いじゃないですか?」


「伊織と初めて会った時のことをつい思い出しちゃってね。

伊織の過去を勝手に新太君に話すわけにもいかないから言えないけど、とにかく幸せそうな伊織を見てると本当に良かったなって思うわ。だから、ありがとう。」


「え?」


「伊織にとってキヨの存在が大きい事は確かだけど、それと同じくらい新太君の存在も大きいはずよ。」


「そんな事はないんじゃ・・・。」

「あるのよ。じゃないと噂の新太君なんて言わないわ。」

麻里はそう言ってニコッと笑う。


「私は新太君のことも伊織のことも応援してるわよ。」

「え?!それは、どう言う・・・?」


麻里はただ不敵に微笑むのみだ。

「また手伝いに来てね。」

「はい・・・。」

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