可愛いのが悪い
七瀬の件から二日が経ったが、ニュース番組、週刊誌、ネットニュースなどあらゆる媒体は七瀬の話で持ち切りだ。
どうやら大変なことになっているらしい。
マネージャーやスタッフへのパワハラ、モデル達への罵詈雑言、売れない女性モデルには売名に協力する代わりにその・・・まあ色々と要求していたらしいし、衝撃的だったのは7股。
曜日ごとに担当でもいたのだろうか・・・。
とまあクズな行いの数々が一斉に報じられた。
情報元は全て匿名となっているらしいが、集めてリークしたのはあの人だろう。
あの一件から二日でこの情報量。随分と前から七瀬を叩き潰す為に動いていたという事だろう。
七瀬は予定していたテレビ番組を全て降板、自身のYouTubeで謝罪動画を出すも登録者は10万人まで減少した。
誠実で爽やかな感じが売りだったわけなのだから、当然だな。
自業自得である。
新太と西宮、キヨの三人は祝杯?の焼肉に来ていた。
西宮は新太の隣にぴったりとくっついて座る。
あの日から距離が近いような・・・。
なんだかキヨの顔もニヤついてるし。あ、それはいつもか。
「それにしても新太ってあんなにガツンと言えるタイプだったんだな。」
「それは・・・だって・・・。」
西宮が震えているのを見て放っておける訳が無い。
新太が黙り込んでいると西宮が新太の皿にたくさん肉を盛る。
「新太君!今日もいっぱい食べてね!!」
西宮はそう言ってニコッと笑う。
可愛いその笑顔を見ているとこっちまで自然と表情が緩む。
「ありがとうございます。」
「だからなんでいつも俺の肉は無いんだよお・・・!」
キヨがそう言うと西宮が二、三枚の肉をキヨの皿に入れる。
「今日は特別ね。新太君優先だけど。」
キヨは目を輝かせ、ニッコニコだ。
「兄ちゃんは嬉しいぞ!伊織!」
キヨは大量の肉を焼き始める。
「兄ちゃんがいーっぱい焼くからな!いっぱい食べるんだぞ、伊織!」
今更だけどこの人、日を追うごとにシスコンっぷりが増してないか?
いや、これが本来の姿なのか?
西宮はクスッと笑う。
「ありがとう。」
この兄妹はなんかもう、ずっと見ていられるな。
「新太、何ニヤニヤしてるんだよ?」
「え?いや、ニヤニヤなんてしていません!」
「照れなくていいって。ニヤニヤするのも仕方ないって。」
そう言ってキヨはニヤニヤしている。一番ニヤついているのは貴方でしょうよ。
「キヨ。新太君の事揶揄わないでよ!」
西宮がそう言うとキヨは少し不貞腐れたような表情を見せる。
「なんで伊織はいつも新太の味方なんだよ!大好きな大好きな兄ちゃんの味方じゃ無いなんておかしい!」
「新太君の味方に決まってるでしょ。キヨは意地悪ばっかりだもん。」
キヨは「ちぇっ」と小さい声で言うと伊織が先ほど入れた肉を口に運ぶ。
なんだかもうキヨの事が可愛く見えてくるよ。年上の男性にそんなこと言えないけどさ。
少しすると西宮がトイレの為、席を離れた。
「新太。」
「はい。」
キヨは箸を置いて新太の方をじっと見る。新太は自然と背筋が伸びた。
「伊織の事をしっかり見てくれてありがとな。俺はあの時何もできなかった。本当にありがとう。」
キヨはそう言って新太に頭を下げた。
「頭を上げてください!」
新太が慌ててそう言うと、キヨはゆっくりと頭を上げる。
「西宮さんはキヨさんの事が大好きなんですよ。」
キヨはただ黙って新太の話に耳を傾ける。
「だからキヨさんがあの時、拳を振り上げることなく思いとどまってくださって本当に良かった。だってもしそうじゃなかったら西宮さんはきっとすごく悲しみます。」
「とは言え兄貴として情けないよ。」
新太はキヨの額を指で弾く。
「っ?!何だよ・・・?!」
「そんな顔してたら西宮さんが心配しちゃうじゃないですか。さっきも言ったでしょう?西宮さんはキヨさんの事が大好きなんですから。いつも通りニヤニヤしていてください。」
「うるせぇ。」
キヨはそう言いながら笑った。
三人は食事を終えて帰宅する。
西宮の家の前に到着したのでここで解散となる。
「キヨ。先にお家入ってて。」
「え?俺も今日は帰ろうと思ってたんだけど。」
「もう夜遅いから帰るの危ない。」
「まだ九時だぞ。」
「・・・危ないもん。」
キヨはふっと笑って、西宮の頭を撫でる。
「優しいなあ、伊織は。」
キヨのシスコンぶりは凄まじいけれど、西宮もそれに負けないくらいのブラコンだと思う。
だってキヨが帰っちゃうと寂しいってことでしょ?
ラブラブ過ぎないか?この兄妹。こうして目の前に存在している訳だけれど、何だかリアリティーに欠けるんだよな。
本当に色々と別世界だよ。
「じゃあ、あとは若い二人でごゆっくり。」
キヨはニヤニヤしながら先に西宮の家へと入って行った。
若い二人って・・・そこまで歳離れてないでしょう。西宮とキヨに関しては同い年だし。
「新太君!」
「はい。」
「今度、遊園地で撮影するって話したの覚えてる?」
「はい。」
「その時ジェットコースター乗らなきゃって言ったでしょ?それでね、撮影の時にぶっつけ本番だとちょっと怖いなあって・・・。」
これはつまりそう言うことなのか・・・?
「だから・・・あのね、その・・・。」
西宮は少し黙り込んだ後、上目遣いで新太の目をじっと見つめる。
「新太君がもし嫌じゃなかったら、遊園地一緒に行ってほしいなあって・・・。予行練習みたいな感じなんだけど・・・。どうかな・・・?」
やっぱりそう言うことだ。嫌な訳ないでしょう。
「良いんですか?僕が一緒に行っても。」
西宮はこくんと頷く。
「一緒に行ってくれたら嬉しいなあ。」
「後悔するかもしれませんよ?」
「どうして?」
「僕、ジェットコースター結構好きですから、何回乗るかわかりませんよ?」
新太がそう言って悪戯に笑うと、西宮は新太から顔を背ける。
「・・・意地悪。」
貴方が可愛いのが悪い。
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