大丈夫だよ

『僕に恥をかかせたらどうなるかわかっていないようですね。』


今俺は久しぶりに脅しってやつを受けている。

でもあの時のような恐怖や怯えは自然と無い。

それはきっと後ろに西宮さんが居るからだ。


「どうなるって言うんですか?」

『後ろに居る西宮さんならよくわかっていると思いますけど。』

七瀬がそう言うと西宮は震える手でそっと新太の手を握る。

「新太君・・・。」

「大丈夫。」

「え?」

「大丈夫だよ、西宮さん。」

新太がそう言うと西宮はゆっくりと新太の手を離す。

『大丈夫なわけないでしょ。僕に恥をかかせたんだから。』

「脅しのつもりだろうけど、そんなの無駄ですよ。」

新太がそう言うと七瀬が呆れたような顔をする。

『それは貴方がパンピーだからそう思うだけですよ。ねえ、西宮さん。』

七瀬が西宮の方を見るとキヨが西宮の前に立ち塞がって視界を遮る。

『本当に分かってないな。僕はトップモデルなんですよ。今回の撮影だって僕が西宮さんを指名してあげたんだ!その僕をコケにしてモデル界に居られると思うなよ!』

七瀬の言葉を聞いてキヨが前に出る。

「てめえ、言わせておけば・・・」

新太はキヨの前に腕を出して制止した。

「新太?」

「駄目です。貴方は兄なんだから。」

新太は腕を下ろすと七瀬に更に一歩近づく。

「何も分かってないのはお前だよ。」

『は?』

「西宮さんにお前の力なんて要らないんだよ。寧ろお前みたいなゴミ野郎と仕事したら評価下がっちまうだろうが。そんなことパンピーの俺にだってわかるよ。」

『は?お前何言ってんだよ!今回の撮影は僕の力で名前を売ってやろうってことだろうが!』

「それが余計な事だって言ってんだよ。西宮さんは自分の力でトップになるに決まってんだろうが。」

『そんなの無r・・』

七瀬がそう言いかけると新太は七瀬の口元をガッと掴む。

「ゴミ野郎が西宮さんを語ろうとしてんじゃねえよ。人間性ゴミのお前はここからただ堕ちていくだけで、何も残らない。綺麗で、優しくて、兄貴想いでな西宮さんは上り詰めて長く愛されるんだよ。邪魔すんじゃねえよ。」

七瀬は新太の手を振り解いて大きな声を出す。

『お前・・・!絶対許さないからな・・・!パンピーがしゃしゃってんじゃねーよ!』

「お前みたいな立場や権力で人を陥れようとする奴、めっちゃ嫌いなんだよね。だから許してもらわなくて結構。」

新太がそう言うと七瀬は舌打ちをして足早に去っていった。

マネージャーも慌てて追いかけて行き、二人は現場から姿を消した。

新太は西宮とキヨは勿論スタッフ全員の前で跪き、地面に頭を付ける。

「申し訳ございません!」

「え?新太君・・・?」

「新太!何してんだよ?!」

勿論現場はざわめいた。

「西宮さんが我慢して、我慢してやり遂げようとした仕事だったのに僕が潰してしまいました。」

ただただ我慢できなかったんだ。

「それは、お前のせいじゃ無いだろう。」

「本当にごめんなさい。」

「新太君。顔、上げて。」

新太がゆっくりと顔を上げると目の前に西宮が跪いていた。

「西宮さん、衣装が汚れ・・・」

西宮は新太の両手をそっととる。

「新太君、ありがとう。」

「・・・え?」

「私の力を信じてくれて、守ってくれて、大丈夫って言ってくれて、本当にありがとう。嬉しかった。」

「でも・・・。」

「私ね、今回の仕事本当はすっごい嫌だったの。だけど名前を売りたくて焦ってた。だから受けたんだ。でもね、新太君が私なら自分の力でトップになるって言ってくれてすっごい嬉しかったし、しっかりしなきゃって思えた。」

西宮はそう言うと満面の笑みを見せながら目から涙を流した。

「ありがとう。新太君。」


この後、三人で西宮の事務所に行き、仕事から戻ってきた麻里さんに全てを話した。

「申し訳ございませんでした。」

新太が土下座をすると、キヨも一緒に頭を下げた。

「二人とも顔を上げてください。」

二人が恐る恐る顔を上げると、麻里は新太の前にしゃがみ込み右手を上げる。

新太はビンタされると思い反射的に目を瞑った。しかしその手は優しく新太の頭を撫でる。

「よくぞやってくれたわ!新太君!!」

「はい。申し訳・・・え?」

新太は状況を理解できなかった。

麻里はニッコニコで新太の頭を撫で回す。

え?なんで怒ってないの?

「えっと・・・。」

「あのクソガキを成敗してくれるなんて流石噂の新太君!キヨなんかより全然役にたってるわ!」

クソガキ・・・?え?どう言う状況?

「それに比べてキヨはシスコンのくせに何もしてないじゃない!一発くらいぶん殴ってきなさいよ!」

いやいやいや、何言ってんのよ。

「僕は殴ろうと思ったのに、新太が止めてきたんですよ!コテンパンにしてやろうと思ったんです!」

やっぱりそのつもりだったか。危なかった。

麻里とキヨはしばらくやーやーと言い合った。

「えっと・・・どうして僕の行いは肯定されているんでしょうか・・・?西宮さんの大事なお仕事を潰してしまったのですが・・・?」

麻里は床に座っていた新太とキヨをソファーに促す。新太がソファーに座るとすかさず西宮がピッタリとくっついて座る。

ドキッとしてる場合じゃないんだけど、ドキッとしちゃうよね。

「あのクソガキとの仕事を潰してくれるなんて万々歳よ。これであのクソガキ自体をぶっ潰せるわ。」

麻里はニコッと笑いながらそう言った。怖いんですけど。

「七瀬が載った雑誌は売れるし、テレビの視聴率も上がるから皆我慢してたけど、あいつはとんでもないクソガキなのよ。立場を使って女の子をいいようにしようとしたり、マネージャーやスタッフのことも道具としか思ってないし。もう皆アッタマきちゃって。伊織にもしつこくちょっかい出してくるからどうしてやろうかと思ってたところだったの。」

なるほど。麻里さんは絶対に敵に回しちゃいけない人だ。

「新太君は反撃の狼煙を上げてくれた。あとは私に任せて♪」

すごい楽しんじゃってない?

俺はこの時の麻里さんの不適な笑みを忘れないだろうな・・・。

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