電話
着信画面には西宮の名前が表示されていた
新太は瞬時に状態を起こしてベッドの上に正座すると、電話に出る。
「はい・・・もしもし・・・。」
「もしもし〜、新太ー??」
この声、この感じ・・・。
「キヨさん?」
「あったりー!伊織じゃなかったからってそんながっかりするなよ、兄弟。」
「・・・どうしたんですか?」
「今日は伊織の家に泊まりに来ててさ、伊織は風呂入ってるから今のうちに電話繋いどいてあげよって事よ!本当に俺はできる兄ちゃんだよなあ。」
本当に仲が良いんだなこの兄妹は。一般的な兄妹とはレベルが違うだろう。
「で?最近伊織とはどうよ?なんか進展あった?」
「いや、別に・・・。」
「そうかそうかまあ焦る事はない・・・と言いたい所だが伊織はモテるぞ〜。」
「そうでしょうね。」
「お!噂をすれば出てきた!ちょっと待ってな。」
電話越しに二人の会話が聞こえてくる。
「伊織ー。兄ちゃん風呂入るから先に髪の毛乾かしてきて。」
「キヨが入ってる間に乾かすから逆に入っちゃってよ。」
「すぐ乾かしなさいっていつも兄ちゃん言ってるだろ。」
「だから早く入ってってば。」
「ふーん、そんなに兄ちゃんに乾かして欲しいのかあ。本当に甘えん坊な妹だなあ。」
「そんなこと言ってないもん!」
「仕方無いなあ〜。兄ちゃんが乾かすから座って待ってて。ドライヤー取ってくる。」
全く俺は何を聞かされてるんだか・・・。貴方が乾かしたいだけでしょ。シスコンめ。
西宮は、もうっ!と言いながらも静かにキヨを待っているようだ。
しばらくするとドライヤーの音が聞こえてきた。二人の姿を想像してみる。
キヨは間違いなくニッコニコだろう。シスコンだから。
西宮もなんだかんだ喜んでいて、いつものように可愛く笑っているに違いない。
数分でドライヤーの音が止み、再び二人の会話が聞こえてくる。
「ほら、終わったぞ。」
「ありがとう。」
「そこは、お兄ちゃんありがとう!大好き♡だろ!」
「はいはい。」
キヨの変な裏声に対して西宮は塩対応だ。
「良いんだな?そんな態度で。今、非常に重大な事が起こっているんだぞ伊織。」
「え?なんの話?」
「さあな。兄ちゃんに大好きの気持ちを伝えたら分かるかもなあ。」
キヨがそう言うと電話の向こうが静かになる。
少しすると西宮の声が聞こえた。
「そんなの・・・言わなくたってわかるじゃん・・・。意地悪・・・。」
「兄ちゃんは伊織の事、愛してるけどなあ。」
キヨがそう言うと西宮は少し小さな声で言う。
「・・・大好きだよ。」
もうそこで俺は耐えられなかった。
「ううぅ・・・。」
「え?!なんか今声聞こえたよ?!なになに??!」
「なんでお前が泣いてるんだよ、新太。」
「え?!新太君??」
「ずびまぜん・・・。」
「え?なんで電話繋がってるの?いつから??」
「またまたサプラーイズ!大好きな兄ちゃんが電話繋げときました〜!」
「重大な事ってこれ?ねえ、いつからなの??」
「伊織が風呂から戻って来る前。」
「じゃあ新太君、今の全部聞いてたって事?」
「はい・・・ずびまぜん・・・。」
「キヨ、最低!!もう知らないから!!」
西宮がそう言うとキヨの声は聞こえなくなった。
「新太君・・・。」
しばらくすると西宮の声がした。
「・・・はい。」
「ごめんね。キヨが変な事ばっかりして。電話迷惑じゃなかった?」
「全然・・・大丈夫でず・・・。」
「なんで泣いてるの?」
こんなにお互いを想ってる兄妹を見たらそりゃ泣くよ。
「だって・・・良い兄妹だがらぁ・・・。」
新太がそう言うと西宮はクスクスと笑う。
「良い兄妹かなあ。キヨ、結構子供っぽいんだよ。髪乾かしてくれた時だってね、なんか急に美容師さんごっこみたいな事勝手に始めてさ、付き合ってあげないと拗ねるの!」
これはまたキヨの新たな一面だ。今度、揶揄ってやろう。
「それからね、キヨはね・・・」
その後も西宮はキヨの文句を言っているが、キヨの事を嫌だなんて一ミリも思っていなくて、本当に大好きなんだと伝わって来るくらいには楽しそうだ。俺は思わず笑ってしまう。
「新太君?」
「いや、ごめんなさい。西宮さんも本当にキヨさんの事が好きなんだなと思って、つい。」
「ちょっと揶揄ってるでしょ?」
「いやいやいや!揶揄ってないです!すごく素敵だなって思ってます!」
俺が焦り気味にそう言うと、西宮は再びクスクスと笑う。
「ありがとう。」
「だからできれば仲直りして欲しいです。」
「キヨから謝ってきたらね!」
「それもそうですね。」
そんな話をしているとLINEの通知音がなった。電話しながら見てみるとキヨからだ。
(伊織、怒ってる?)
俺は勿論こう返信した。
(カンカンですよ。)
「これで良しと。」
「ん?何?」
「いえ、何でも無いです。」
その後も話をしていると、西宮のいる部屋にキヨが来たようだ。
「伊織・・・。」
「何?」
「いや、その・・・。」
「リビングで待ってて。」
「はい。」
「新太君、電話付き合ってくれてありがとう。」
「こちらこそありがとうございます。」
「またね。」
「はい、また。」
電話を切ると新太はベッドに横になる。
あの二人、すぐ仲直りできると良いけどな。
なんて、心配しなくたって大丈夫か。
翌日、西宮を迎えに行くとウッキウキだった。
「おはようございます。」
「おはよう!」
「仲直り出来たんですね。」
「それがさ、電話の後リビングに行ったらね、キヨがすっごいしょぼーんっとした顔で正座して待ってたの。私の事見るなり真剣に謝ってきてさ!びっくりしちゃった。だからお寿司とお願い事で仲直りした。」
カンカンだと言っといて良かった。
「お願い事って言うのは・・・?」
「それは・・・秘密!恥ずかしいもん・・・。」
西宮はそう言ってはにかんだ。
「今日バイト終わったらキヨにお寿司連れてって貰うの!新太君も良かったら行く?」
「誘っていただいてありがとうございます。今日のところは遠慮しておきます。お二人で行かれてください。」
「そっか。じゃあ次の機会に。」
「はい。是非。」
その日の西宮はそれはもうずっとウッキウキだった。
仕事中も目がキラキラしていて、それはもう可愛かった。
昨日の今日でこんなにウキウキなんだもん、流石お寿司・・・キヨだ。
バイトが終わって外に出ると駐車場に車が止まっていて、キヨが降りて来た。
「キヨ!」
西宮はキヨに駆け寄る。
本当に大好きなんだな。可愛い。
「新太君、またね!」
「はい、また。」
キヨが助手席の扉を開けると、西宮は車に乗り込んだ。
キヨはヒラヒラと俺に手を振ると運転席に乗り込む。
「全く良い兄妹なんだから。」
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