肉まん派?あんまん派?それともピザまん派?

撮影から二日が立ち、新太はいつも通りバイト前に西宮を迎えに来ていたのだが・・・。

「どうして木の後ろに隠れているんですか?」

「だって・・・。」

西宮は何故か木の後ろに隠れて出てこない。

「バイト遅れちゃうから行きましょう。」

新太がそう言うと西宮は顔を赤く染めながらゆっくりと出てくる。

二人は歩き出した。

西宮はソワソワとした様子で新太をチラチラ見る。新太が気になって西宮の方を見ると慌てて目を逸らす。

「あの・・・。」

「ひゃ?!」

西宮はおかしな声を上げた後、やばい!と言った感じで両手で口元を押さえる。

マスクしてるのに。可愛いなあ。

「大丈夫ですか?なんだかソワソワしてますけど・・・?」

西宮は小さな声で話し始めた。

「キヨに聞いたの。その・・・焼き肉の日に私が新太君に抱きつ・・・」

「ああああ!もう言わなくて大丈夫です!!」

新太は西宮の話を途中で遮った。

必死に考えないようにしてたのに・・・。

「・・・ごめんね、全然覚えてなくて・・・。新太君、嫌だったよね・・・。」

西宮は明らかに肩を落としている。

「いやその、決して嫌だったわけでは・・・!ただ、その・・・。」

西宮はじっと新太を見つめる。

新太は思わず目を逸らして頭を掻く。

「思い出すと、西宮さんの目うまく見られません・・・。」

すると西宮は新太の顔を両手で優しく包んで自分の顔の方に向ける。

「嫌だ。見て欲しい。逸らしたら駄目。」

さっきまでソワソワしていたのは貴方でしょうに。

そんな綺麗な目で見ないでよ。

新太は西宮の両手をそっと掴むとゆっくりと下ろした。

「西宮さんは本当に真っ直ぐで綺麗ですね。」

「え?」

「・・・僕は弱くて汚いから。」

新太はそう言うとくるりと向きを変えて歩き出した。

「新太君・・・?」


その日のバイトは最悪だった。

いつもは決してしないようなレジミスを連発するし、変な客に絡まれて業務が進まないし、よくわからないチンピラ同士が喧嘩を始めるし・・・。

やるならどこか別の場所にしてくれよ。

いつもはバイトが終わって西宮を送り届けるまでは吸わないのだが、今日は限界だ。休憩中に煙草を吸う。勿論チェーンで。


何やってるんだろう俺。なんなんだよ今日は。


そんな風に思いながら新太は煙草を四本吸ってから業務に戻った。


「休憩ありがとうございました。西宮さん休憩どうぞ。」

西宮は新太の頭に手を伸ばし、そっと撫でる。

「・・・西宮さん?」

「今日終わったら肉まん半分こして帰ろう。もうちょっとだから頑張ろうね。」

その手は温かくて、優しくて、とても心地良かった。

「じゃあ、休憩行ってくるね!」

西宮はバックヤードに入っていった。


その後は西宮のおかげで気持ちを切り替えて、というか・・・西宮の事ばかりを考えて、目で追っているうちに勤務時間が終わっていた。

帰り道に別のコンビニに寄る。

「新太君、肉まん派?あんまん派?それともピザまん派?」

「肉まんかあんまんで迷います。」

「私も。迷うよね〜。」

その時西宮は、閃いた!と言うような顔を見せる。

「じゃあ、どっちも買って、どっちも半分こしよう!」

新太はそんな西宮が微笑ましくて思わずクスッと笑う。

「西宮さん、天才ですね。」

「でしょ!」

西宮は両手を腰に当てて得意げな表情を見せる。

二人は肉まんとあんまんを買ってベンチに座る。

「はい、新太君。」

西宮はニッコリ笑って半分にちぎったあんまんを新太に差し出した。

「ありがとうございます。」

新太は肉まんを半分にちぎって西宮に渡す。

「ありがとう!頂きます!」

「頂きます。」

西宮の食べている姿がやっぱり可愛くてつい横目でチラチラ見てしまう。

「西宮さん。」

「ん?」

「今日はご迷惑をおかけしてすみませんでした。」

新太はバイトでのミスを謝罪した。

「ぜーんぜん気にしなくて良いよ!そんな日もあるよ。人間だもん!それにしても今日は大変な一日だったよね。なんか喧嘩とか始まっちゃうし。」

「・・・はい。」

「新太君。」

西宮は新太の方に体を向けると、両手を広げる。

「おいで。」

そう言った西宮はとても大人っぽくて、何もかもを優しく包み込んで受け止めてくれるだろうと感じた。

普段の子供っぽい無邪気な笑顔も勿論魅力的だが、こんな一面を見ると妙にドキッとしてしまう。

「いや・・・流石にそれは・・その・・・。」

新太は動揺を隠せなかった。

そんな新太を見た西宮はクスッと笑って新太の頭を優しく撫でる。

「可愛いね、新太君は。」

新太は恥ずかしさのあまり西宮から顔を背ける。

「一人で頑張らなくて良いの。大丈夫。私がいるよ。後、ついでにキヨもね。」

「ついでなんて言ったらキヨさん怒りますよ。」

「そうかもね。」

西宮はそう言って笑うと、しばらく新太の頭を撫でていた。


その日家に帰ってからは新太は目に見えてボーッとしていた。

父や母が夕食中に話を振っても上の空だ。

すると母がニヤニヤとした顔を見せる。

「新太、こないだの失恋だけど、もしかして上手くいったの?失恋じゃなくなった?」

「え?新太、お前いつの間に失恋したんだ!?父さん何も聞いてないぞ!」

なんなんだよこの両親は。いつもありがとうなんだけどさ、本当にデリカシーが無いんだよ全く。

「ノーコメント。」

「出た!まーた、ノーコメントとか言っちゃって。」

「母さんには言いづらい事もあるだろう。父さんがなんでも聞いてやるからな!」

「ちょっと、それどう言う意味よ!」

「君はデリカシーがないんだから仕方ないだろう!」

「どの口が言ってるのよ!靴に中敷き勝手に入れてきっつきつにしといてやるから!」

「そっちがその気なら俺だってな、君がいつも食べてる五個入りのお菓子の三個目から食べてちょっと気持ち悪い感じにしてやるさ!」

いやいや、どんな嫌がらせだよ。

どっちもデリカシー無いんだから張り合っても無駄だし。

二人の言い合いに呆れながら夕飯を済ませ、さっと風呂に入るとベッドに横になる。

その時LINEの着信音が鳴った。

電話なんて珍しい。誰だろうと見てみると、


「西宮さん・・・?!」

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