いつだって

三人で食事をした翌日、LINEを交換したキヨから早速メッセージが届いた。

(明後日空いてる?伊織にメイクしに行くから来て。昨日俺の肉茹でなかった罪で雑用係に任命するからよろしく。9時ね。)

そのメッセージとともに住所も送られてきた。

「茹でなかった罪ってなんだよ・・・。」

どうしようか迷っても多分拒否権はないので新太は了承の趣旨をLINEした。


そして二日後。新太はキヨから送られてきた住所に向かった。

「ここ・・・だな・・。」

そこは自分にはまるで縁のないおしゃれな外観の建物だった。入るのには少し勇気がいる。

「失礼します・・・。」

意を決して中に入ると外観に目おとりしないおしゃれな内装だ。余計緊張する。

「おお、来たか。」

そう言って中から出てきたキヨは今日も洒落ている。

「おはようございます。」

「早速なんだけど、そこの荷物車に運んで貰っていい?」

そこには黒くて大きいバッグが三つ置いてある。

「はい。」

「メイク道具だから大事に扱ってね。」

「これ全部メイク道具が入ってるんですか?」

「そうだよ。アイシャドウとか割らないようにね。」

「はい。」


荷物を運び込むとキヨの運転で二人は出発した。

「さっきの建物は?」

「俺の事務所。」

「なるほど・・・。」

「まあ、独立してまだ日は浅いから大変だけどね。メンバー俺の他に二人しかいないし。」

「凄いです。」

「ありがと。」

「僕とは住む世界が違います。」

「何言ってんだよ。」

兄妹揃って新太にとっては別世界の住人なのだ。


車を走らせること30分。撮影スタジオに到着した。

「あと30分で伊織来るからそれまでに荷物運んで、新太君は隠れといて。」

「なんで隠れるんですか。」

「可愛い妹へのサプライズだからだよ。良い兄貴だろ。」

「西宮さんに言ってないんですか?!僕が来るって。」

「なーんも言ってない。あー、可愛い妹の反応が楽しみだ。」

キヨはそう言って悪戯に笑う。

完全に西宮を揶揄う気満々だ。

荷物を運び込むと新太は物陰に隠れさせられる。

「伊織が座ったら後ろから来い。」

「・・・はい。」

しばらく息を潜めていると西宮がスタジオに入ってきた。

黒のスーツに身を包んだマネージャーらしき女性も一緒だ。30代後半くらいだろうか。

「キヨー!おはよ!」

「おはよ。マリさん、おはようございます。」

「おはよう。」

「じゃあ、メイクするから座って。」

キヨが促すと伊織は鏡の前に座る。

「ん、んん!んん!」

するとキヨが咳払いをして新太に視線を送る。出てこいと言う事だろう。

「キヨ、風邪?大丈夫?」

「ああ、大丈夫。ちょっといがいがしただけ。」

新太は意を決して物陰から出て背後から西宮に近づく。すると西宮が鏡で新太に気が付いたようだ。

「ひゃ?!なんで??新太君?!」

「え?噂の?」

マリが新太を見てそう反応する。

「えっと、おはようございます・・・。」

キヨがニッコニコで新太の背中をバシバシ叩く。

「サプラーイズ!噂の新太君、連れてきちゃいました!」

するとマリがキヨに拳を突き出し、二人はグータッチを交わす。

「よくぞ連れてきたわ。私も会ってみたかったの。噂の新太君。」

「そう思って連れて参りました。褒美は焼き肉でどうでしょう。」

それを聞いたマリはキヨに拳骨を食らわす。

「痛い・・・冗談ですよ・・。伊織びっくりしたか?」

西宮はキヨの後ろに隠れて、小さい声でキヨに文句を言う。

「なんで新太君が来る事言ってくれなかったの?!わかってたらもうちょっとおしゃれな格好で来たのに!」

「それじゃつまんないから・・・じゃなくて伊織はどんな格好でもイケてるから良いだろ別に。」

「今、本音漏れてたよ!キヨ最低!もう一緒にご飯行ってあげないから。」

「そっちがその気なら伊織の今までの変顔写真、全部新太に送っても良いけど?」

「最低!馬鹿!意地悪!」

全部丸聞こえなんですけど。西宮は怒っている様だがそれでも尚可愛いし、正直二人のやりとりはちょっと微笑ましい。

「仲良いでしょ。あの二人。」

「え?」

「西園寺麻里と申します。」

そう言って彼女は新太に名刺を差し出した。そこには代表取締役兼マネジャーと書かれていた。

「前野新太です。本日は急に来てしまってすみません。お邪魔でしたらすぐに帰ります。」

「いえいえ、居てください。伊織もその方が嬉しいでしょうから。」

二人の方に視線を戻すとまだ喧嘩をしている。

「ほら、メイクするから早く座って。」

「変顔写真送らないでね。」

「どうしようかなあ。」

「約束してくれないと座らない!」

西宮がそう言ってキヨからぷいっと顔を背けるとキヨは西宮の頭を撫でる。

「俺が悪かった。変顔写真送らないから座って。」

「焼き肉。」

「わかった。焼き肉も連れて行くから。」

キヨがそう言うと西宮はニッコリ笑って椅子に座る。

「約束だからね!」

「はいはい。我儘な妹だなあ。」

「元はと言えば悪いのはキヨでしょ!」

喧嘩していたのが嘘のように二人は仲良く雑談を始める。

キヨは色々な道具を使って西宮にメイクを施していく。西宮はあっという間にインスタで見たようなクールな顔になる。

髪の毛にストレートアイロンを滑らせて完成のようだ。

「ほら、出来たぞ。」

「ありがとう!着替えてくるね!」

西宮は足早に着替えに向かった。

「綺麗だったろ。惚れ直したか?」

キヨが新太に問うと新太は少し照れ臭そうに答えた。

「西宮さんはいつだって綺麗ですから。」

それを聞いたキヨと麻里はハイタッチをする。

「麻里さん、やっぱりこれ俺の褒美に焼き肉じゃないですか?」

「それは無いけど、本当によく連れてきてくれたわ。お陰様で三歳若返ったわ。」

「それは気のせ・・・」

キヨが失礼な事を言いかけたところで麻里は拳骨した。

「じゃじゃーん!!」

着替え終わった西宮が可愛い効果音を発しながら、るんるんで戻ってきた。

三人の前でくるりと一周して見せる。

「似合う?」

西宮が問うとキヨと麻里は新太の方を見る。お前が言え!という顔だ。新太は顔を赤らめながらも西宮の目を見る。

「とても素敵です。」

それを聞いた西宮は顔を真っ赤にして、先程のようにキヨの後ろに隠れる。

「俺の後ろにばっかり隠れて、本当に兄ちゃんのこと好きだなあ。」

「すぐ揶揄う・・・。」

キヨは再び西宮の頭を撫でる。

「メイクも髪も服もバッチリだぞ。せっかくなんだから新太にちゃんと見てもらえよ。大好きな兄ちゃんのお墨付きだ。」

キヨがそういうと西宮はゆっくりと新太の方に歩みを進めた。

「似合う?」

「はい、とても。」

西宮は嬉しそうにはにかむ。

「撮影、頑張るから見てて。」

「はい。」


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