遠い

二週間の月日が流れ、映画デートの日がやってきた。

新太の心境としては少し複雑だ。どんよりと曇った空が、追い討ちをかけてきている気がする。

前回同様車で西宮を迎えに行った。

「新太くーん!おはよー!」

ニッコニコの西宮が家の前で新太にぶんぶんと手を振る。新太は胸がキュッとなる感覚があった。

「お迎えありがとう。」

「いえ。お待たせしました。」

「運転お願いします。」

「はい。」

新太は車を走らせる。そんな新太を西宮はじっと見つめる。

「・・・どうかしましたか?」

「いつもの新太君ももちろん素敵だけど、髪の毛セットしてるのもやっぱりかっこいいなあって。」

「・・・ありがとうございます。でも今運転中なので、その・・・あんまり緊張させないでください・・・。」

新太は耳まで真っ赤になっていた。

「じゃあ着いたらよく見せて。」

「・・・考えておきます。」

「やった!ありがとう。」

運転中なのでしっかりと顔は見れないが、ニッコニコなのがわかる。

「・・・なんか、暑くないですか・・・?」

新太がそう言うと西宮がクスッと笑う。

「新太君って可愛いね。」

「え?」

「あ、ごめん!嫌だった?」

「いえ・・・その・・・。」

貴方はその100万倍可愛いです。と言ってしまいそうになるがそんなこと言ってしまったら、自分の心臓が持ちそうにないので飲み込んだ。

「暑い?」

「暑いです。」


映画館が併設されたショッピングモールに到着し、駐車場に車を停める。

「ねえ。」

「はい。」

「もう見ても良いでしょ?」

西宮は新太をじっと見つめる。

「やっぱりかっこいい。」

新太は自身の心臓がはち切れていないことに驚いた。いつはち切れてもおかしくないと思う。

「西宮さん、俺死んじゃう・・・。」

「え?!なんで??駄目!」

西宮はそう言って新太の手をぎゅっと握る。

また一歩死に近づいたよこれ。心臓爆ぜるってマジで。

「だって、心臓が・・・。」

「心臓?心臓がおかしいの??」

西宮は新太の胸に耳を当てる。

「え?!ちょ!!?」

「確かに鼓動が早い気がするけど、大丈夫そうだよ!!」

そんな自信満々に言わないでよ。貴方が原因なんだから・・・。

西宮は新太から体を離すと親指を立てて、グッというサインをして見せる。

「西宮さん、殺人犯になるところでしたよ・・・?」

「どうして?」

西宮はキョトンとした表情だ。

新太はそれを見て思わず笑ってしまう。

「やっと笑ってくれた!!」

「え?」

「新太君今日ずーーーーっと笑ってくれなかったから、体調悪いのかと思って心配しちゃったよ!元気なら良かった!」

そう言って西宮は満面の笑みを見せる。

「気を遣わせてしまってすみません。」

「ううん!気にしないで。可愛い新太くんも見れたし!」

「・・・揶揄わないでください。」

「ごめんごめん!チケット取りに行こう。」


15時からのチケットを取ったのでそれまでは買い物や昼食を楽しむことにした。

平日とはいえフードコートやレストランはそれなりに混むだろう。少し早めに昼食を取るため、マップを見ながらレストランを選ぶ。

「西宮さん、お昼何食べたいですか?」

「・・・伊織がいいなあ。」

「え?」

「西宮さんじゃなくて伊織が良い。・・・デートだもん。」

西宮は潤んだ瞳で新太の目をじっと見つめる。こんなの誰もNOとは言えないだろう。ずるいくらいに可愛い。

新太は思わず目を逸らして少し小さい声で呼ぶ。

「・・・伊織さん。」

「こっち見て。」

新太は頑張って目を合わせる。

「伊織さん。」

伊織は満足げな表情だ。

「私、お肉食べたい!」

「わかりました。」

二人はステーキレストランに入った。

伊織はキラキラした目でメニューを眺めている。

「うわああ!全部美味しそうだね!何にしようかなあ。ああ!ハンバーグもある!」

可愛いくてずっと見ていられる。いや、見ていたい。新太はメニューではなく伊織を見つめていた。

「どっちも食べたいけど、どっちかしか選べないもんね・・・!どうしよう。新太君決まった?」

「僕もどっちも食べたくて迷ってます。」

「だよね!迷うよね!」

「お互い違う方頼んで半分こしませんか?」

伊織はハッとした表情を見せる。

「新太君、天才だ!そうする!!」

ステーキとハンバーグを頼み、10分ほど待ったところでテーブルにやってきた。

「頂きます!」

「頂きます。」

「新太君、あーんしてあげようか?」

「え?!何言ってるんですか・・・?!」

新太の慌てた反応を見て伊織はケラケラと笑う。

「・・・揶揄わないでくださいってば・・・。」

「新太君が可愛いのが悪い!」

人の事言えないでしょうよ。

「んー!美味しい!!」

口いっぱいに肉を頬張り美味しそうに食べる伊織はとても幸せそうで、子供っぽさもあって堪らなく可愛い。

たわいも無い話をしながら一緒に食事をとったり、ウィンドウショッピングをしたりする時間は楽しくて仕方なかった。

ただやはり新太の心の片隅には、自分なんかが隣に居ても良いのかな?と言う思いがあった。

「新太君!」

「はい。」

「そろそろ映画始まるから行こう!」

「・・・はい。」

映画が始まったが正直内容は殆ど頭に入ってこなかった。

隣に座る伊織を横目でチラリと見ると、映画に釘付けだ。ポップコーンに手を伸ばすこともなく、二人の間の肘掛けに手を置いている。

新太は伊織を見つめながら決して聞こえないであろう声量でボソッと呟いた。

「・・・遠い。」


映画も終わり、夕飯も済ませあっという間に帰宅の時間となった。

新太は伊織の家に向かって車を走らせる。

「新太君。」

「はい。」

「私、なんかしちゃった・・・?」

「え?」

「新太君、今日あんまり元気ないよね?」

「・・・そんなことないですよ。」

「・・・そっか。」

伊織は俯いてそれ以上何も聞いてこなかった。二人は黙り込み、車内の音楽が大きく聞こえる。

その後も何も話さないまま伊織の家の前に到着した。

伊織は新太の方に体を向ける。

「バイバイ寂しい・・・。」

それを聞いた新太は少し黙った後、伊織と目を合わせる事なくこう言った。

「・・・またバイトで会えますよ。」

伊織はニコッと笑う。

「そうだね。」

その笑顔はぎこちなくて、とても寂しそうだった。




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