初デート
翌週の金曜日。今日はついに初デートの日だ。
水族館デートなので天気はそこまで気にしなくて良いのだが、やはり気持ちが違う。本日は絶好のデート日和である。
俺は実家の車で西宮さんを迎えに行く。
緊張もあってか少し早めの到着だ。
車のミラーで髪の毛を直す。
セットしたのなんていつぶりだろうか。
集合時間五分前、西宮さんの姿が見えた。
すっぴんも可愛いのだが、大人っぽいメイクがよく似合っていてとても魅力的だ。
ファッションのことはよくわからないけれど、黒のワンピースがその魅力をさらに引き立てているように思う。
「お迎えありがとう!」
「いえ……」
緊張で西宮さんの方を見れないが、仕方ないよな。
「これどっちがいい?」
西宮さんは水と緑茶を差し出してその可愛い笑顔をこちらに向ける。
「わざわざ用意してくれたんですか?」
「運転してもらうからこのくらいはと思って!」
「ありがとうございます。そうだ、暑かったりしないですか?」
「私は大丈夫だよ!ありがとう!」
たわいも無い話をしながら水族館へ車を走らせるが、なかなか緊張は解けない。
最近は話をしていても緊張してなかったけれど、デートだと意識しているからだろうか。
「新太くん、緊張してる?」
「……はい」
「良かった、私も」
「西宮さんも?」
「だって、今日の新太くん……から」
「え?」
西宮さんの顔はみるみる赤くなる。
「ごめんなさい、その……よく聞こえなかったのでもう一度良いですか?」
西宮さんの様子から見て聞き返していいか少し迷いながらも俺は彼女の言葉を待つ。
「か、かっこいいからって言ったよ」
「え?!」
耐えられなくなったのか彼女はハンドバッグで顔を隠して俺の視界を遮る。
俺はそれ以上彼女に何も聞けなかった。
運転すること30分。目的の水族館に到着した。
「ああ!着いた!」
西宮さんの無邪気な姿はとても微笑ましい。
「ペンギンは出口の方みたいなので最後にゆっくり見ましょう。こっちからぐるっと回りましょうか」
「あ!ニモがいっぱい!」
西宮さんは水槽に駆け寄った。どうやら魚達に夢中のようだ。
「走ると危ないですよ」
「はーい!」
西宮さんは返事をすると俺の隣を歩き始めた。
新しい水槽の前を通る度に、近寄って中をじっと見つめている。
「うーん……」
「どうしましたか?」
「この水族館ニモはいるのにドリーはいないんだね」
真剣な面持ちでそう言う西宮さんを見て、俺は思わず笑ってしまう。
「新太くん?」
「ドリーもニモと同じ水槽にいましたよ」
「え!嘘?!気が付かなかった……」
そう言うと西宮さんは目に見えて肩を落とす。
ドリーを見られなかった事が相当ショックだったようだ。
「戻って見てみますか?」
そう提案せずにはいられなかった。
ずっと真剣にドリーを探していたなんて可愛すぎる。
「……良いの?」
西宮さんが少し申し訳なさそうに言うと、俺はくるりと方向転換する。
「ドリーが待ってますよ」
俺の言葉に西宮さんは満面の笑みを見せた。
その後ニモの水槽に戻ってドリーを見つけた彼女は本当に嬉しそうな表情を見せる。
「ドリーだ!」
きらきらした目でドリーことナンヨウハギを見つめる西宮さんが最高に可愛くて、戻ってきて良かったと心の底から思った。
それからはサメやマンボウ、ウミガメなど色々な動物に会い、ついにペンギンの水槽にたどり着いた。
「はぁぁぁぁぁ!可愛い……」
西宮さんはペンギンに釘付けだ。
これが漫画の一コマだったら彼女の目は間違いなくハートマークで表現されるだろう。
「ペンギンのどんなところが好きなんですか?」
「歩くときにさ、ちょっと跳ねながら進む感じが最高に可愛いんだよお!」
ペンギンに夢中な西宮さんを俺はじっと見つめる。
「……可愛い」
「そうでしょ!やっぱり新太くんもそう思うでしょ!」
「本当に可愛い」
西宮さんが俺の視線に気がつく事は無さそうだ。
「もうちょっと見てても良い?」
「勿論です」
ペンギンコーナーを堪能した俺達はお土産を選ぶことにした。
「こっちのクッキーも美味しそうだけど、やっぱりお魚の形の方が可愛いよね。
うーん……新太くんは何買うか決まった?」
「僕はこのクッキーとチョコレートのセットにします。」
「それも美味しそうだよね!箱も可愛いし。迷っちゃうなあ……」
「ゆっくりで大丈夫ですよ」
「ありがとう」
お店をゆっくり見ていると、西宮さんが足を止める。
「可愛い!!」
西宮さんの視線の先にはペンギンのぬいぐるみがあった。
「欲しいんですか?」
彼女はこくんと頷くが手には取らずにしゃがみ込んでぬいぐるみと視線を合わせている。
「もし良かったらなんですけど、僕にプレゼントさせてもらえませんか?」
「え?」
「今日誘ってもらったお礼がしたいんです」
「でも……」
「プレゼントできたら僕が嬉しいです。ダメですか?」
西宮さんはペンギンのぬいぐるみをそっと手に取り、俺の方を見る。
「この子連れて帰る!」
「はい、そうしましょう」
その後西宮さんは悩んでいたお菓子も決め切り、俺達はお土産を購入して車へと戻った。
「ペンギンちゃん後ろの席に置いておきますね」
「駄目!」
「え?」
「貸して」
西宮さんは袋からペンギンちゃんを取り出してぎゅっと抱き締める。
「プレゼントしてくれてありがとう。ずっと大切にする」
「いえ……」
俺は自分の顔が熱くなっていくのを実感した。
「この子の名前ぺん太にする!」
「どうしてですか?」
「新太とぺん太ってなんか良い感じじゃない?」
西宮さんはその後もぺん太を抱き締めていた。
まさに可愛いと可愛いのコラボレーションである。
こう言うのを眼福と言うのだろう。
可愛いさの暴力に困惑しながらも、最高だなと思わずにはいられなかった。
帰りがてら一緒に夕食を済ませ、あっという間に西宮の家の前に到着した。
「新太くん、今日はありがとう!」
「こちらこそありがとうございました」
西宮さんは俺の服の袖をぎゅっと掴む。
「西宮さん?」
「あっという間に終わっちゃったなあ……」
彼女は俯いて少し寂しそうにそう呟いた。
「西宮さん」
俺の声に西宮は顔を上げる。
「今日誘ってもらえてすごく嬉しかったし、一緒に過ごせて楽しかったです」
「そんなこと言ってくれたら、バイバイしたくなくなっちゃう……」
「次はどこに行きたいですか?」
俺の問いかけに西宮さんは満面の笑みを見せる。
「映画!」
「じゃあ、次は一緒に映画を観に行きましょう」
「行く!」
西宮は右手の小指を新太の前に出す。新太は自身の右の小指を絡めた。
「ゆびきりげんまん、嘘ついたら針10000000本のーます!指切った!」
「10000000本ですか??西宮さん容赦ないですね」
「だって、絶対行きたいんだもん!だから約束ね!絶対ね!」
彼女の笑顔に俺はこくんと頷いて見せる。
「運転してくれてありがとう!またバイトで!」
西宮さんはそう言って車を降りて行った。
一人残された俺は熱くなった自身の頬や額に手を当てる。
「熱、無いよなあ……」
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