第2話 狐
「すみません、なんか色々お世話になっちゃって」
小さめだが綺麗なTシャツに加えて、下着も含めて服一式、さらに運動靴まで貰ってしまった。
Tシャツの胸元ど真ん中にプリントされているお世辞にもカッコいいとは言えない恐竜にはこの際目を瞑ろう。
加えて、おにぎりと麦茶をレジ袋に詰めたもの手渡される。
「良いんだよぉ。うぢのバカ息子が置いていったもだがら、腐らせでおぐより使ってもれえでオレも嬉しいよ(良いのです。我が家の愚息が上京する際に置いて行かれた物品ですので、放置されるより使用した方が私としても幸いです)」
「返しに来た方がいいですか?」
テーシャツを指さしてお婆さんに聞くと、彼女は首を横に振って笑いながら答えた。
「何があったが知らねが、川で裸にされだ男のごに、服やれねぇほどけじじゃねぇよお(何があったかは存じませんが、川で裸にされた男子に、服を差し上げられないほど私は困窮しておりません)」
「じゃあお言葉に甘えて!」
————1時間後。
「ヤベェなどこだ?ここ」
お婆さんから貰った地図を上や下、さらに太陽に透かしてみたりするが、どう良く解釈しても完全に迷った。
「おやおや、迷われてますねーお兄さん、いや亡者さん」
「あー完全にまよっ?…だれ?」
声が下のは道の両脇に続く鬱蒼とした森、その木々の上の方からだった。
見上げるがそこに人影はない。
「昨日は死んだ気もするし、俺は頭が完全におかしくなったか…って思ってるねー、モニーさん」
俺の背後で声が聞こえ慌てて振り向くと、そこには狐の面をした性別不明の人物が立っている。
火の玉が模された甚平を着ていて、その肩まで伸びた髪が風に揺れて懐かしい香りがした。
「てか、モニーさんって何?」
「亡者のお兄さん、略してモニーさん。略語も使えるんだよ僕は」
「センスは別として、略語を使えるマウントは新鮮だ」
「モニーさん思った事そのまま口にするタイプだねー俗に言うバカでしょ?」
「よく言われる。ところで狐の…おじょ、しょうね…おじょお?」
「見て分かるでしょーが!このスラリとしたボディ!」
そう言って跳ね回っているが、体格的には小学校3年生くらいだ。
全くわからない、そもそも性別当てゲームに興じるより、早く自宅に戻りたいと言う気持ちで焦っている。
早急に無事を知らせないと行方不明扱いで色々と面倒な事になるからだ…いや、そもそも既になっているかもしれない。
「お狐様!帰り道がわからんので、案内してくれませんか」
「何だよ、お嬢ちゃんか少年かで迷った挙げ句にそんな呼び方かー、古臭い上に渋いなぁ」
腕組みをしてプンスカという擬音が聞こえそうな動きをしつつ、狐様は手を突き出した。
「おにぎり一個ね!それで案内してあげよー」
「え、結構優しい」
「じゃあやっぱ2個!…あ!今欲張りだなって思った!思ったでしょ!」
「いやーそんなことないとも言えないようでありながら否定するわけでもなく」
と、紆余曲折あって。
全く素性の分からない狐の面の子供に帰路を案内してもらう運びとなった。
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