ハイランダー

 姿勢よく手を挙げたのは、映画好きのトオル。


「この前見た映画にさ、ハイランダーが出て来たんだよ」


「ハイランダーって何や?クルマ?それとも変身すんの?」


 特撮ヒーローものと勘違いしたタクマが興味津々で質問する。筋肉を武器にする話ならば大好物の男である。トオルは嫌そうに眉間にシワを寄せ、タクマを無視した。


「僕も気になって色々調べたんだ。スコットランド北部のハイランド地方の住人のことだよ。その中でも精鋭のハイランド人連隊のことをハイランダーズって言うんだ」


「やっぱ戦隊ものやないか」


「……ちょっと黙ってろ、タク」


 マシロは部長の権限を行使してタクマを黙らせると、トオルに先を促した。彼は神経質そうに長めの前髪をかき上げ、溜息を1つついてから口を開く。


「ハイランダーズの中に、スコッチグレイやブラックウォッチってのがある。チェック柄は知ってるだろ?ほら、ナチュラルな感じの女子なんかが着てる緑のやつとか」

 

「うん。俺が今日着てるシャツもチェックやで」


「タータンチェックってのは、家紋みたいなもので、家によって微妙に柄が違うんだ。細かいことは省くけど、ブラックウォッチは濃い緑色の生地で、主にロイヤルハイランド連隊で使用されていた。濃い緑が黒に見えたことから”ブラックウォッチ”、つまり”黒の監視兵”の名がついたんだけど……」


「ほうほう」


「そこに寡婦かふで編成された連隊があった。レディ・バトラー率いる第99連隊だよ」


「……ほうほう?」


「タク、寡婦ってのは旦那に死なれた奥さんのことだぞ」


 首を捻りすぎてフクロウになりかけているタクマに、マシロが助け舟を出す。


「つまり、黒に近い緑のチェックを身に着けた最強”緑のおばさん”軍団だ。勇猛果敢に敵の男どもを蹴散らし、味方を勝利に導いた」


「なるほど!すげえな!緑のおばさん!」


「信じるな信じるな。架空の話だよ?ちなみにレディ・バトラーは戦争を描いた画家」


「あっぶね、信じるとこだった」


 大袈裟に大胸筋を撫でおろすタクマに、マシロとトオルは顔を見合わせた。友として、なんでも素直に信じてしまう彼の行く末が心配になってしまう。

 マシロは2人から視線を外しながら、最強”緑のおばさん”軍団に思いを馳せる。高い山々に囲まれた自然豊かな緑の渓谷を走り抜けていく、緑の服を着た屈強なおばさん達……。


「ぶふぅっ……」


「どした、マシロ」


「大丈夫?」


 吹き出して咳込んだマシロの背中を、優しい友人たちは丁寧にさすった。ようやく笑いを治めたマシロは、生理的な涙の残る目を彼らに向けた。


「想像してごらん……雄叫びを上げながら、大自然を駆け抜ける”緑のおばさん”軍団」


 その呟きは静かに伝播でんぱし、3人を終わりなき笑いの渦の中に巻き込んでいくのであった。

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