うわさの真相
鳥尾巻
緑陰聖教
男子高のとある教室の一角。
「健康促進部」に所属する男子高校生3人が、1つの机を囲んでお喋りをしていた。
健康促進とはいっても、活動内容はダイエットを兼ねた筋トレだったり脳トレと称した麻雀だったり。その日の部員の気分で変わるものである。
要するに「とりあえず部活やっとけ」という、あまり機能していない名ばかりの部だ。ちなみに部員は後輩含め5人。
部長を務めるのは2年のマシロ。癖のない黒髪に黒縁の眼鏡をかけた、一見すると色白の優男だが、性格は一癖も二癖もある。
今日は後輩が来ないので、部室でだらだらと過ごしているうちに日が暮れてきた。そのうちマシロは、ずり下がった眼鏡を直し、思いつめた口調で他の2人に問いかけた。
「なあ……”緑のおばさん”て知ってる?」
「え、何それ何それ何それ、怖い話?」
真っ先に声を上げたのは、2年で副部長のタクマ。金髪頭で体格も良く、筋トレが趣味である。僧帽筋は「ハンバーグ乗ってる」とマシロに言わしめるほど発達している。ヤンキーのような見た目だが、性格は素直で繊細かつ臆病。
「いや、別に怖くないと思うけど。昨日、うちのオカンが言っててさ。なんやろな~ってふと思い出した」
「親に聞かなかったの?いま調べてみる?」
そう言って携帯を取り出したのは、2年のトオル。やせぎすで茶色の天然パーマ。育ちが良く、映画や海外ドラマ好きで物知りだが、好きなこと以外にはあまり興味を示さない。しかしマシロは首を横に振って、それを止めた。
「いや待て。すぐGoogle先生に頼るのはよくない。ここはみんなで考えよう」
「今日の部活動やな!脳のシェイプアップや!」
タクマは嬉しそうに白い歯を見せて肩を回す。運動する訳ではないのだから、肩を回す必要はないのだが。なんでも筋肉に結びつける男の暑苦しい所作を眺めながら、マシロはおもむろに口を開いた。
「俺が思うに、緑のおばさんとは『緑陰聖教会・日本支部』で布教活動をしている女性のことではないかと」
「そんなんあんのか」
「ない。今作った。これが今日のテーマやろ。あなたに緑陰の恩寵がありますように……青葉の陰に寄れば、心の安らぎを得られるでしょう」
「当たり前やないかい」
「落ち着きなさい、タクちん同志。我々の当たり前は、誰かにとっては当たり前ではないのです。砂漠の民が青葉生い茂る木々を簡単に見つけられると思ったら大間違いですよ……さあ、素晴らしいこの国と緑に感謝いたしましょう」
「なんやそれ!でもありそう~!」
口では非難しながら、タクマとトオルは笑い転げている。マシロは澄ました顔で、静かに眼鏡のブリッジを押し上げた。
「さて、誰か他に何かある?」
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