第34話酔っ払いベニート④
子猫を渡したアデリーは荷馬車に戻るべく厨房から出ると、ほぼ真上付近で言い争う声が聞こえてきた。
「なんでここにいるのよ!」
ロセは年中怒り通しで大変そうだ。
「なんでもなにも、山小屋に居なかったから探し回ったんだぞ! なんで相談しないんだよ!」
言い争いの相手はリルだった。なるほど、幼なじみのリルが現れても歓迎するより怒るらしい。
「放っておいてって言わなかった? 言ったわよね」
「あー、君たち喧嘩は後にしないか? 昼間はやることが多いから」
仲裁に入っているニコラスは慌てている様子ではなく、落ち着いた声音で諭しているようだ。アデリーは急いで階段を上がり一つ上の階に行き、声を掛けた。
「ニコラスさんとリル。荷馬車から人を下ろして欲しいのですがお手伝いしていただけたすか?」
一斉にアデリーに視線が注がれたと思ったが、いち早く外した者がいた。ロセだ。
「さっさと行ってちょうだい。私は薬草を乾かさなきゃならないんですからね」
確かに薬草の束を手にしていた。アデリーにわかるのはラベンダーくらいだが、他にも数種類持っていた。
「じゃあ、行こうか」
ニコラスはゆっくりとした口調で話す人だ。そして歩く姿はどこか楽しげで、何から何まで好感が持てる。
「お二人にカリーナさんの息子のカルロを紹介しますね」
歩きながら話すアデリーに「人を下ろすって話だったけど、その人が怪我でもしてるのかい?」とリルの声が追ってきた。
「違うわ。カルロは鍛冶師のベニートさんを連れてきたの。お酒に溺れて良くない状況だって話で、それならここに連れてくるのがいいだろうってダグマさんが」
「鍛冶師か。そりゃ、俺でもそういうよ。ダグマなら酒を断たせることも出来るだろうし」
ニコラスは前を歩きながら確信をもって言うが、アデリーはすっかり寝入っていたベニートを思い出して本当にそうなのだろうかと疑問に思っていた。想像よりずっと酒に溺れている印象を受けた。何日も清めていない体から放たれている悪臭に酒の匂いが色濃く混ざっていた。
「で、鍛冶師のその人を下ろすのかい?」
リルの問いに「そうなの。ロセに睡眠薬を使ってもらっているはずだからまだぐっすり寝ているわ」と答えた。
チラリと振り返ったニコラスが「ロセってさっきの子だね。薬師なのか」と、納得していた。それから、ウンウンと頷いていていいねと続ける。
「かなりいい人材が揃ってるじゃないか。そこいらの小さな街よりずっといい」
確かにそれはいえている。薬師、石工、大工、陶器屋、行商人ときて、酔っ払いだけれど鍛冶師だ。お決まりの劣等感を覚えながらも、この廃城に住んでいることが誇らしく思えた。そこでふと、もう一人これといった職業を持ってない人が居ることに思い当たる。
「ダグマさんは猟師になりますかね?」
狩りに行っているし、分類するとそうなるのではないかと聞いてみた。すると、ニコラスが短く笑って否定した。
「猟師はないな。そうだな……王でどうだろう」
「確かになんとなく圧倒させる空気をもってるな、あの人。でも職業問われて『王』だとはなかなか言い難いかも」
迷いはありつつもリルもニコラスの意見に同意していた。
「ま、なんだかんだまとめる人材ってのは大事だし、ダグマはここの最初の住人だ。王と呼んでもいいし、ヌシでもなんでもいい。今のところ便利屋に近いけどな」
確かに畑仕事も力仕事も、なんでもこなすダグマは便利屋といえば便利屋なのかもしれない。
そんな話をしていたら、荷馬車の元へと辿り着いたので全員で中を覗き込んだ。
荷馬車の奥の方から手前に荷物を移動させていたカルロと、アデリーが先程見たときと寸分違わず同じ体勢のベニートがいた。
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