第53話 ツグナールと二人の奴隷
「これは正当防衛だよな! 」
「まぁ問題はないでしょう。幾ら相手が『一般人』でも剣で斬りかかってきたのですから」
「そりゃそうだ! しかし、同族を殺すのは少し良心の呵責が……」
「ツグナール様、此奴らは盗賊です! 同族でも殺して良い人間です」
「そうだな! 記録水晶で映像は撮ってあるか?」
「ばっちりです!」
運が良かった。
元、迷宮の探索者の奴が襲ってきた。
俺一人に負ける奴が、大勢でいる時に襲ってくるなんて馬鹿な奴だ。
もし、因縁をつけられたら、そう考え常時記録水晶を持っていたのだが、まさかこんなに早くに使うとは思わなかった。
幾ら俺達が冒険者でも、流石に剣を向けられたら反撃するしかない。
「ひぃーー助けて下さい! お願いします」
「わ、わ私は襲う気なんて良かったんです! だけど二人がお金を」
能力的には使えない。
だが、エルフとダークエルフだし、奴隷として売れば価値がある。
だが、同族を売るとそれはそれで問題になる。
なら、どうするか……
そうだ、奴隷に落としたあと、ツバサにやろう。
それが良い……
「それじゃ、アイラ、アウラお前等は生かしてやる。その代わり奴隷にする。それを飲むなら、命を助けてやる。どうだ?」
「奴隷、私が奴隷……」
「そんな、奴隷になるなんて……」
馬鹿な奴ら。
何回もチャンスがあったのにちゃんと考えて行動しないからこうなるんだ。
「嫌なら此処で首を跳ねても良いんだぜ!」
「「ヒィ」」
二人とも泣きながら納得したのでそのまま奴隷商に連れていった。
◆◆◆
俺達のパーティの拠点に戻ってきた。
「ツグナール、なぜそこまでスノードロップに肩入れするんだ? はっきり言って異常だぞ!」
「命を狙ってきたとは言え、同胞を奴隷にして渡すなんて……そこまでする必要はあるのか?」
この際、俺がどうしたいか?
仲間に話しておくべきだな。
「よいか? この都市ギルメドでエルフが暮らしていく為にはスノードロップと誰かが仲良くする必要がある。そして、それは俺がする。そうする事によって揉める事はなくなる。何しろ相手は自然さえも自由に扱い作物を全滅させる化け物なんだから、そうするしかないだろう」
「だからと言っていいなりになるのか、エルフの誇りはないのか?」
「信念を曲げて、人族に我らが嫌いし民族と仲良くする。それだけじゃ駄目なのですか?」
俺にだって誇りはあるから悔しい。
受け入れて仲良くする。それじゃ駄目なんだ。
彼奴の信仰する邪神の能力は下手したらエルフや妖精族など国や一族ごと滅ぼす力があるかも知れない。
豊穣の女神のファームの場所をツバサは知らなかった筈だ。
『自分が知らない場所にすら攻撃が出来る能力』
そんな理不尽な事が彼奴は出来る。
だからアムリオン様ほどの方ですら、ああするしかなかった。
だから、俺はあいつ等の味方をするしかない。
もし、ツバサを仲間が襲い殺害に失敗したら『俺が処罰して』一族や国に被害が及ばないようにするしかない。
「これは一度しか言わない! もし、スノードロップを皆殺しに出来る存在がいたら、俺は英雄として扱うし、なんならこのパーティを資産ごとくれてやっても良い。だが、もし失敗したら、俺が殺す。それも残酷な方法でな。矛盾しているかも知れないが、こうするしかないんだ」
「それはどういう事ですか?」
俺は豊穣の女神の時の経験から、自分がどう思い、そしてどうしてそう考えるかを皆に伝えた。
「成程。そうしないと最悪一族全員、場合によっては国単位が滅ばされる可能性がある……そう言う事ですか?」
「残念ながら、余程のチャンスがない限りは手を出せない。そういう事ですか」
「そう言う事だ。もしチャンスがあり、自信があるならやってみろ。成功したら俺の全てをくれてやる。ただ失敗したら殺す。悪いがそれしか俺には言えない」
結局、今の所、一族や国を背負ってまでスノードロップを『殺そう』そう考える存在はいなかった。
◆◆◆
僕はツグナールさんに一人で来るように言われ、酒場に呼び出された。
「ツグナールさん、これは一体!?」
「見てのとおり、エルフとダークエルフの奴隷だ。此奴らをツバサにやろうと思ってな」
「ううっ、貰って下さい」
「いや、クビチョンパはいやです」
二人ともいったいどうしたと言うんだ?
ツグナールさんの横にエルフとダークエルフの女の子が立っていて泣いている。
「え~と」
「この都市ではスノードロップに害する人間はいない。だが、他に行けばまだ、ツバサの仲間はきっと差別される。そんな時にエルフやダークエルフの仲間がいれば、四人は引き篭もって二人に買い物に行かせたり窓口にして色々な交渉が出来る。自分の立場を考えたら絶対に持っておくべきだ。それに此奴らは女なんだ、他にも使い道はある。だから、一人で来させたんだ」
「使い道?」
「はぁ~夜伽だよ! 夜伽。俺や仲間じゃ、此奴ら相手に欲情しないが、人族はエルフ好きだろう? お前等、もっと必死に頼め! もし、ツバサが貰ってくれなければ、殺すしか無いんだからな」
「グスッ、スンスン、貰って下さい」
「お願いしますから、貰って下さい……お願い致します」
「もしかして、僕が貰わないと彼女達は……」
「ああっ、盗賊行為を働いたから、殺すしかないな」
これじゃ、貰うしかないじゃないか?
「それじゃ、スノードロップで引き取ります。ですが気になる事があります」
「ああっ、何でも聞いてくれ!」
「その……何故、その彼女達は伽に……」
「ああっ、それか? 人族にはわからないだろうが、どちらも300歳超えのBBAだ。香水で誤魔化しているが加齢臭も凄いんだぜ! 同族なら抱きたいとは思わない歳だ」
これが300歳超え。
どう見ても20代半ば。
スレンダーな美女にしか見えない。
「これ程の美女が300歳……」
「まぁ、人族じゃわからないだろうな! それじゃ一緒に奴隷商に行こうぜ。此奴らに奴隷紋を刻んで貰うから」
「はい……」
仲間になんて言おう。
だが、殺されると分って、見殺しは出来ないよな。
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