第32話 ホラーで野性


「しかし、何故エナちゃんが魔物を殺すと魔石にならないんだろう?」


「ご主人様、恐らくですが『捕食』になるからじゃないですかね」


「捕食?」


「はい、だってエナちゃん、食べているじゃないですか?魔物に人間が殺されても石にはならないのは、人間を魔物が襲うのは食べる為、その為、人間は石にならないと言われています」


確かに食料にしたいのに石になっちゃったら食べられないもんな。


「しかし、よくダンジョンはそんな事判断できるな」


「今のは皆が良く考えている話です。ダンジョンって本当はどういう仕組みなのか誰も解ってないです!恐らくは神々でも解ってないのかも知れません」


前の世界でも自然の事全部を理解しているわけじゃないから、確かにそんな物かも知れない。


「そうか、確かに一応は納得できる話だね」


「まぁ、解らなくても困らない話ですから気にしなくて良いんじゃないですか?」


「確かにそうだね! しかしエナは随分食べているな」


「確かに凄いですね」


「凄いけど、結構残酷ですね、ゴブリンやオークに初めて同情しました」


ゴブリンは美味しくないらしくて、今度はオークを狩りに来ている。


さっきゴブリン2体を食べた後なのに、今度はオークを倒して食べている。


その光景には凄まじい物がある。


「ホラーだ…」


「ホラーですね」


「ホラーです」


オークを追いかけまわして足に食らいついて貪る。


そして歩けなくなったオークの体に食らいついて内臓を引きずりだしながら食べている。


オークって泣くんだな。


怖い魔物の筈のオークが痛さでボロボロ泣いている。


エナを手で払おうとしたら噛みつかれて指を食われて…


四肢を失い、内臓を黙々と食べられて泣いているオークは


「ぶもぉぉぉぉぉーーー」


魔物では無く、無力な家畜の様に思えた。


「野生だ」


「野生ですね」


「野生です」


気がつくとあらかたオークは食べ尽くされていた。


どうやら、食事が終わったようだ。


確かにハイエナは大食いだけど、此処迄の量は食べないよな。


獣人と言うのは少し違うのだろうか?


まぁ異世界だし、そんな物なのかも知れない。


「エナちゃん、もう満足したか?」


「ツバサお兄さん、けぷっ、僕もうお腹一杯」


「そう、それじゃ帰るか…」


この小さい体にゴブリン2体にオーク1体。


本当に、一体何処に入るんだろう。


しかし、何か考えた方が良いな。


口を中心に顔が血だらけ。


服、も血だらけ…


包丁を持たせたら、少女殺人鬼に見える。


「どうかしましたか?」


「いや、エナなんだけど?顔から体まで血だらけじゃないか? 服も血だらけだし、何か良い方法は無いかなって思って」


「服ですか? そうですね、何か考えましょうか?」


「マヤさん、それじゃお願いします」


「ご主人様、任せて下さい」


エナちゃんが倒すと魔石にならない。


そうすると、普段は自分の食事を倒す位しかないな。


危ない時に助けて貰える相棒。


それで良いのかも知れない。


◆◆◆


三人はエナの買い物をしている。


僕は雪乃様の声が頭に聞こえてきたから…


「ゴメン、ちょっと…」


そう言い路地裏の端によった。


『あはははっ!どうだい?僕が選んだ子は?』


「雪乃様、絶対に彼女の体の事から選んだでしょう?」


『ぼ.く.の.翼くんに悪い虫がついちゃ駄目だから、まぁそれなりに選んだんだよ! だけど、戦闘力は祝福を持たない人族の中じゃ一流だよ』


「確かに、そうですね!」


『神の祝福を受けて無いからレベルは上がらないけど、前の世界の様には強くなるよ!尤も幾ら強くなってもミノタウルスやサイクロプス辺りが限界だと思うけどね』


祝福が無いとレベルは上がらないのか。


「凄いじゃないですか!」


『ふふふん!僕は君の神様なんだ、前にも話したけど、貧乏神はお金以外の幸福はあげられるんだ! 安心しておくれよ!尤もその世界には色々と神様が居るから…まぁ何とも言えないけどね! 無難に生きる分には問題ないから…無難が一番さぁ…別に翼くんは英雄や勇者にならなくて良いんだろう?』


「はい、前の世界からの雪乃様からの教え通り『無難』が一番、それが僕の生き方ですから」


『それなら、これで大丈夫だね…マヤやエナは祝福を受けないなかじゃなかなかだよ!他にも確かに祝福を受けていない者は居るけど…まぁ碌なのは居ない…それじゃ、頑張るんだよ!』


「ありがとうございます」


神様が此処迄気に掛けてくれる。


神様が身近にいるこの世界でもなかなか無いみたいだ。


本当にありがたいな。








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