第11話 マヤ
仏像が無いので木箱を置いて、その上に朝慌てて買って来たお皿と湯呑を置いた。
そこに水を注ぎ、同じく朝市で買ってきたお菓子をお供えした。
異世界に来てすっかり忘れていた日本のスタイルの拝み方だ。
『素敵な出会いがありますように、そして強くなれますように』
そう願いを込めて手を合わせた。
◆◆◆
昨日と同じく噴水広場に来ている。
流石に貧民街は無い…と思うから此処に来た。
暫く、此処を探して見つからなければ、今日はダンジョンに潜るつもりだ。
同じように背負子やリックを背負った人たちが、冒険者を勧誘している。
僕の方には…来ない。
実際は違うのだが、どう見ても『神様です』『勇者だぜ』そう見える格好の冒険者たちが居る中で初心者装備の僕に声を掛けてくる人は少ないだろう。
だが、今日は昨日と少し様子が違う。
ポーターたちの中に明らかに女性、女の子が1人居る。
身長はかなり低く見える。
白いローブを頭から被って、大きなリックを背負っている。
女の子だからなのか、冒険者たちがロープの中をしきりに覗き込むが、見た瞬間、舌打ちをし次々に去っていく。
「冒険者様、マヤを、マヤを雇って下さい…」
「気持ち悪いんだ…他をあたれ」
「何でもしますから…」
「しつこいぞ」
「あっ…」
突き飛ばされて転んだ。
「大丈夫?」
「はい」
僕が手を差し出すとローブが捲れて、見たその先に見えたのは…
「アンドロイド?」
「アンドロイドが解るのですか?」
緑銀色のシャギーで後ろ髪は長く凄く神秘的に見えた。
顔立ちは、一番近い感じだと変身前の魔法少女にちらほら似た感じの存在が居た気がする。
背は低いが、等身はしっかりしていてバレエや新体操をやっている綺麗な子みたいなスタイルだ。
それなのに胸はそこそこ大きい。
此処迄なら『完全無欠の美少女』と言える。
事実、彼女より綺麗な女の子を僕は見た事が無い。
但し、これは右半分の話。
左半分は見た感じ機械に見える。
左顔半分から胸にかけて皮膚が無い。
一番近い感じは皮膚が破れているター〇ネーターかも知れない。
いや、機械の部分はガラスの様な物で覆われているから違うか?
「解るよ…その異世界人だから」
「私はこれでもロボットやアンドロイドじゃなく、人間なんです! 今は亡き、機械王国ジークの…人間です」
異世界なのにSF?
いや、人間だって言うから違うのかな…
「ジーク?」
「はい、それで、その…雇っては頂けないでしょうか?」
「僕は新人みたいな者だけど、それで良いなら、お試しで頼むよ」
「ありがとうございます」
どう考えてもこの引き合わせは雪乃様のおかげの様な気がする。
こうして変わったパートナーと一緒に僕は初めてダンジョンに潜る事になった。
◆◆◆
ダンジョンには初めて来たが、門があり、その横には衛兵が10人も立っている。
ダンジョンの見た目は崩れたバベルの塔みたいな感じで地下へと伸びているらしく上には行けない。
「冒険者証の掲示をお願い致します!」
僕は冒険者証を差し出した。
マヤさんは特に何も言われていない。
「はい、ダンジョンに立ち入りを許された、存在である事を確認しました! ダンジョン攻略者1名と同伴1名、入場を許可します!どうぞお通り下さい!」
マヤさんと僕は門を通されダンジョンに入っていった。
◆◆◆
「そう言えばまだ、自己紹介をしていなかったね!ツバサって言います!宜しくお願い致します!」
「私の名前はマヤです! こちらこそ宜しくお願い致します!」
しかし、見れば見る程美少女だ。
だけど、この容姿で本当に、ロボット、アンドロイド、サイボーグじゃないのか?
「それで、さっきの話の続きだけど…機械王国ジークってなに?」
「機械王国ジークはですね…」
マヤさんの話を聞くと大昔にジークという国があり、その国は神様達から不遇な扱いをされていたのだそうだ。
そこで、どうにかしようと考えた末、ジークが手を出したのは『科学』だった。
他の国と違った進化をし魔法を使わない代わりに科学を使い生活をし戦いにも火薬やカラクリを駆使した武器を使うようになっていったそうだ。
まるで僕が居た世界みたいだ。
「凄いですね」
「信じられないかも知れませんが、空を飛んだり、馬より速く走る鉄の機械もあったんですよ」
「僕が居た世界にもあったから信じるよ…だけど、その姿は一体どういう事なの?」
飛行機、車、それは僕の世界にもあった。
だが、こんなに精巧な機械を体に埋め込むような技術は空想にしかない。
「ジーク人は神々に呪われたのか、自然に子供が生まれない体になっていきました…ですが、そこでも諦めずにホルムニクス技術を使い生命を作る事に成功したのですが…」
「何か問題が起きたんだ…」
「はい、生まれて来た子供の殆どが体の何処かを欠損して生まれて来たのです…その結果、私の様に機械で欠損を補う…まぁそんな感じです」
「そう? だけど、マヤさんみたいな人は見た事無いけど?」
「神様に嫌われてしまい、最後には国が滅ぼされてしまった一族の生き残りですから、下手したら他には居ないかも知れません」
「それって大丈夫なの?」
「創造神テディス様が『幾ら神に逆らった一族とはいえ全部滅ぼしてしまうのは忍びない』と数名のみ慈悲で助けて頂いた…その一人が私なのです」
「そうなんだ…」
「はい…なので神々にも許されていますので呪いとかはありませんのでご安心くださいね」
「言いづらい事を聞いてスミマセンでした」
「お気になさらずに…それじゃ討伐を頑張りましょう! 私はお手伝いしか出来ませんが…」
「行きますか…」
こうして僕のダンジョンでの討伐の一日目がスタートした。
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