第3話 保健室にお世話になる魔王
人間世界の太陽の光は少し眩しい。そう思うのは昔魔王だった時の記憶と比較してしまうからだろう。
そう、今は外にいる。グラウンドでの体育の授業の時間だ。
ちなみに体育祭がもうすぐある。
だから体育の授業はけっこうみんな頑張っている。もちろん真由も頑張っている。
オレはというと、凡人オブ凡人を発揮し走りの順位はクラス中央値。
ここから速い者はリレーへと選抜されていく。
女子メンバー一人は真由で決まりだろう。
「おっし、お疲れだったな。みんな!! 教室に戻るぞー。水分をとるのを忘れるな!!」
体育担当の教師の号令でバラバラとクラスメイト達が教室に戻りだす。
「クラス旗どうするー?」
「俺こんな感じにしたい。誰か絵が描けるやついねーの?」
「はいはい!! 任せて、絵得意だよ!!」
陽キャ達が先頭でそんな会話を繰り広げる。オレはそれを後ろから眺め、一人うんうんと頷いていた。
さ、参加したいなんて思ってないんだからな。
さすがに魔王と勇者マユの似顔絵を描いて、勇者マユを見つけるなんてアホな考えは少しも、これっぽっちもないからな。
陽キャ達の輪の中に真由の姿を見つける。その姿が眩しくて、遠く感じる。
(自分から遠ざかったクセに何考えてるんだ)
同じ学校で同じクラス。こんなにも近くにいるのに。
「っ…………、いってー!!」
大きなコンクリート階段の途中、盛大に転けた。だ、大丈夫だ。この体はあくまで人間。ちゃんと赤い血が流れているのは把握済みである。
その赤い血が膝からだいぶ出ている。傷は浅くヤバい感じはなさそうだがけっこう範囲がでかい。
なんて間抜けなんだ。こんなにも凡人すぎる体。もう少し鍛えておけばよかったと後悔する。魔法が使えない今、己を磨くには筋肉しかないのだから。
「ごめん、通して」
オレの前に天使が舞い降りる。明るい太陽の光を背負う真由は目が眩むほど輝いている。
「男子の保健係は今日お休みだったよね。私が連れて行きます! 立てる? 大間君」
「あっ、えっと、立てます」
幼なじみなのにこんなに近くで真由を見るのは久しぶりすぎて胸が苦しくなる。
「肩貸そうか?」
「大丈夫。歩けるから」
まわりの視線が痛い。そりゃそうだ。片やクラスの陽キャグループのトップ的存在、片や陰の者グループに足を突っ込む凡人。
「無理しなくていいよ」
真由の片腕が背中にまわる。左側に立ち支えてくれるようだ。ただ、真横に立たれると非常に目のやり場に困る。真由の顔があるのもそうだけど、すごく育った大きい胸が存在感を主張してくる。
オレは出来るだけ前を見ながら真由と二人で保健室へ向かった。真由の神聖さからだろう。誰も文句を言ってくるヤツはその場ではいなかった。
「痛いの痛いの飛んでいけー」
いや、オレ小学生じゃないから。でも何だか少し痛みがひいた気がするのはこの先生の腕が良いからだろう。
「はい、処置終了。ちょうど予鈴がなったわね。二人ともはやく戻りなさい。着替えないまま授業を受けたくないでしょう? ほらほら」
明るい感じに手を振る保健の若い女先生。髪の下半分がふわふわで白衣がセクシーだ。目もきらきらしていて、可愛らしさも兼ね揃える。この見た目、男子がいくらかズル休みしてでも会いにきてしまうのではないだろうか。
まあ、真由の前ではすべてが霞むがな。
「はぁ、オレの休み時間が……」
「よかったね、たいした事なくて」
ずっとオレに付き合って待っててくれた。さすが責任感の強い真由。わざわざ待たなくてもいいのに優しすぎる。
ただ、更衣室に向かうまで無言が続く。オレが距離を置いたせいで、話しにくいのかもしれない。というか、オレも何を話したらいいのか思いつかない。
あぁ、もうすぐ更衣室につく。ついてしまえばこの距離はまた離れてしまうだろう。
伝えなくては。今ならまだ近い――。
「ま……遊佐さん、ありがとう」
これだけで限界だった。もっと色々言いたかったけど、いっぱいいっぱいだ。
「どういたしまして」
か、可愛いぃぃ。やっぱり、真由の笑顔は眩しい。勇者マユが重なって見える彼女によく似た笑い方がオレの心に巨大な光の剣を突き刺した。
すまない、勇者よ。ちゃんと探す。探すが今は真由のことであたまがいっぱいだ。ドキドキと早鐘をうつ心臓を押さえ、更衣室の扉を開いた。顔があつい。みんな着替えが終わっていて更衣室には誰もいなくて正直助かった。
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