第2話 あの日から二年の月日が経ちました。魔王
「ふぁ……」
昼飯後の眠たい時間。あくびをしながらオレは自席から斜め向かいを見た。
席に座ってもう次の授業の準備をしているやつがいる。姿勢がピンとしたその女子は今日もとても可愛い。
日に照らされてほんのりオレンジに染まる長い黒髪。他の女子達のような着崩しなど一切しないきっちりとした制服。だが、その中に隠されている胸のサイズはかなりのもの。服の上からでもわかる。でかい。
次の授業の予習でも始めるのだろうか、教科書を開き筆記具を走らせる。うん、とても優等生キャラだ。
真由が告白されていたあの日から、幼なじみなのに距離を取っている。彼女は好きな人が遠い人と言っていた。少しでも遠い存在になりたいからなんて死んでも言えない。
「おい、
「んー、すげぇ美人」
頭をかりかりとかきながらクラスメイトの男子に答える。男子は眼鏡をかけているがいわゆる陽キャだ。ことあるごとに一人でいるオレにまで声をかけてくる。名前は何だったか、――そう、
「あぁ、真由さんか。確かに美人だ」
「だろ」
「だけど、君には高嶺の花じゃないかな」
「うるせー」
こいつ、はっきり言いやがる。オレだって女の一人や二人や三人、好きや嫁にしてくれなんて言われたことがあるんだぜ。
…………前世でな。
チャイムが鳴る。授業が始まる。池照はニコニコしながら自分の席へと戻っていく。視線の先を真由の方へと向けたまま。
あまり、好ましい視線ではなかった。
――失敗したか。
まさか他人に気取られてしまうとは。それほど真由の事を見てしまっているのか。今後は気をつけなくてはならないな。
……真由の横顔が彼女に似ている気がしてつい目で追いかけてしまう。真由が彼女だったらいいのにと何度も考えた。
見つけられない、涙を流しながら約束した彼女。
最後の笑顔、まだ覚えている。
『生まれ変わったら一緒になりましょう』
オレは勇者マユに同意した。だから、見つけないといけない。
『絶対に見つけてね。次は一緒に生きられるといいね』
そう約束した。これが前世魔王だったオレ、
「小テストするぞ」
「「「ぇぇぇぇぇぇぇぇ」」」
ふふふ、凡人どもめ。これくらいで焦るとは。え、お前もじゃねぇか? だと。ふ、ふふふ、オレは凡人だが元は魔王ぞ? 見ていろ。
オレは手のひらに鉛筆で魔法陣を描く。小声で使い魔を呼び出す。
「こい、
鉛筆で書くと何気に痛い。だが、ペンは消すのに水がいるし、わからないようにとりあえずでこすると悪化するから面倒だ。シャーペンは芯が細すぎて書けないしな。
あぁ、今のうちに言っておこう。オレは中二病ではない。もう高校生だしな!
その証拠に、ほらここに小さな翼を持つ目玉がいる。
いや、いるんだって。オレ以外に視認されないけれどっ!!
「よし、行け。一番頭のいいヤツのところへ!」
魔王が何やってるの? だと。いやいや、ここオレの知ってる世界じゃないからね。何だよ、英語? 数学? 日本史?
すべて! すべて1からなんだよ!!
オレのパーフェクト魔法学、召喚術学、悪魔学、オレ(魔王時代)の国史なんて学校でやってねーんだよ!!
ふよふよと飛んでいく使い魔はクラスで一番頭のいい
(よし、よしよしよし! 見える。見えるぞ!! あ、奥に真由も見える。映像越しでも可愛いなぁ)
頭脳君の指が解答を書き始めた時だった。
使い魔からの映像がブツッと途切れた。
「なっ!!」
使い魔を見ると目玉に光が突き刺さっていた。
あれは、勇者の使う魔法、光の刃(サイズ鉛筆)。
ふ、ふふふふふ。やはりか。
勇者マユはいる。この近くに!!
オレはあたりをキョロキョロ見た。
「いてっ!!」
頭をがしりと掴まれる。先生の手だ。
「大間、堂々とカンニングとはいい度胸だな」
「いや、いやいやしてませんよ!」
だって、いま使い魔潰されましたからね? ほら、目に刺さって泣いてるじゃないですか。あ、見えないですよねー。
「ふん、ならキョロキョロするな。テスト用紙をしっかり見ろ!」
数学担当なのに無駄に
(まったく、近くにいるならいますぐ会いに来てくれればいいのに……。照れ屋さんなのか? それとも魔王がオレだとわかってない?)
そう思いながらオレは小テストを始めた。え、真由の事を好きならなんで勇者まで探してるんだって? それはほら、約束だし……。もし、彼女がオレを好きだったらを考えればだな。あー、ゴホンゴホン。
やっぱり気になり顔を上げてしまう。当の真由は真剣にテスト用紙を見ていた。
転生勇者ちゃんは彼女ではないのだろうか。
いったいコレを使ったのはどこのどいつなのか。そっと使い魔から光の刃を引っこ抜く。すると、怪我はなくピンピンしていた。映像だけ断ち切られていたのか。器用だな。
オレは使い魔にねぎらいの言葉をかけ、そのまま休暇に向かわせた。
よし、オレの実力をきっちりテストにわからせてやるぜ。
――――後日、返却されたテストの結果は、まあ聞かないでくれ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます