第4話 お買い物に行く魔王
日曜日、オレは目の前を通り過ぎて行くある人を眺めていた。
学校でも目で追いかけている彼女、真由だ。
休みの日なのに、まさかストーカー? なんて思わないで欲しい。
「お兄ちゃん、行くよー」
聞いての通り妹の荷物持ちに街へと駆り出されたのだ。そして、外に出るからと勇者マユを探していた。そこに真由が通りかかったのだ。
どうせなら妹より真由とデートしたい。切実に。
それにしても偶然か?
休みの日でも真由を見ることが出来てオレは少しほっこりした。
やっぱり似ているなぁ。彼女が
え、前々回の
そんなマネは出来ない。だって、間違ってたら怒られるじゃないか。マユに……。なんで魔王なのにわからないんだとかなぁ。それに使い魔には長期休暇を言い渡しているところだし……うんぬん。
とりあえず、妹だ。今日は妹の買い物に付き合わなければならない。
「お兄ちゃん、こっちだって」
この世界での妹、
「永遠、走るとあぶない……」
妹の特技は何もないところでつまずくこと。言っているそばから危ないところだった。
オレは前回失敗した教訓を生かし受け止めてやる。あくまでもスマートに、エレガントに。
「うっわー、ありがとう。転ぶところだったよ、お兄ちゃん」
「気をつけろよ」
「うん」
妹という生き物は全世界共通して何もないところでコケるのだろうか。
オレが魔王だった時もそうだったな。
◇
「おいっ!!」
目の前で転がる姿を晒す
「こ、こけてなんてないし!! ここに
◇
あぁ、懐かしいな。
「お兄ちゃん、やっぱり力持ちだね」
思い出に浸りながら
オレは小さな声で使い魔を呼んだ。ちなみに魔法陣は今回、先に書いておいた紙をポケットに忍ばせている。
「こい、
そして、オレの紙袋を持つのを手伝え!!
大柄な魔物がしゃがみながらオレの紙袋を下からそっと支える。ふぅ、軽くなったぜ。だが、ここからどうやって進むつもりだ?
にやりと大きな歯牙を見せデーモンはしゃがみ歩きをしだした。すげぇ絵面である。
普通の人に見えていたら、なかなか恐ろしく引かれていたであろう。逃げ出す人も発生しそうだ。
うんうん、と頷きなからオレにしか見えないデーモンとアイコンタクトをとる。
「お兄ちゃん、まって紙袋浮いてない? 何それ怖いんですけど」
「え、は? 何を言ってるんだ?!」
「ほら、だって……」
妹が指差す先に視線をやる。
あぁぁぁぁぁぁ、持ち上げすぎだ。おろせ、5ミリ!!
違う、おろすんだ!! 上げるなぁぁぁぁっ。
オレは焦りながらアイコンタクトで指示を出す。
いや、「?」じゃなくて、だー、もうっ!
一回帰ってもらおうと足で取り消しの合図を送る。すると、ぱっとデーモンが消えた。
ふぅと息をつくひまもなく、オレは前方へとがくっとかかった重さによろめいた。
「お兄ちゃん!?」
「ど、どわぁぁぁぁぁ」
ちょうど目の前に女性が通りかかる。ど、どいてくれ、そこの人っっ!!
遅かった。そう、遅かった……。潰さないようになんとか体は避けたが前にいた人を巻き込んでしまった。
オレは急いで起き上がる。
「すみません!! 怪我はありませ……ん……か」
手が柔らかい何かに触れている。これは、――巨大マシュマロ!?
「あ、大間……君?」
「へ?」
バレないうちにさっと手を引っ込める。だが、時すでに遅し。目の前にいる彼女、真由はオレの引っ込めた腕をじっと見ていた。
って、何故ここにっ!?
「あ、えっと、ごごごめん。荷物の重さによろめいてしまってその」
急いで立ち上がり、彼女に手を差し出す。それに真由は一瞬目を泳がせたあと掴まった。
なんだ、今の間は――。
「馬鹿にぃぃぃぃっっ!!」
後頭部をぺしぺしと叩く妹。
「誰が馬鹿だ!!」
「はやく、キモいその手を放してあげなさい!! 大丈夫でしたか? お姉さん。ほら、はやくしなさいってばっ」
おい、だれがキモいだと。さっきまでお兄ちゃんお兄ちゃん言ってただろ!!
「あ、あぁ。大丈夫……です。ありがとう、心配してくれて……」
「そうですか。良かったぁ」
この妹、なんでオレと真由の間に入り込みやがるんだ。
ええい、女の子がぐいぐいとケツで押すんじゃない!!
「ってあれ、マユお姉ちゃん!?」
今頃気がついたのか、妹よ。
「なんだか久しぶりだね。永遠ちゃん、元気そうで何より」
横に落ちた髪をかき上げながら、真由が微笑む。オレと幼なじみの真由は、もちろん妹とも幼なじみだ。
「そうだマユお姉ちゃん、前みたいに家に遊びにきてよ! お兄ちゃんも喜ぶよね? ね?」
(は? ちょ、ちょっと待ってくれ。いきなりそんな、えーっ!?)
オレは心の中で歓喜の声を上げていた。
だけど、真由は違ったらしい。
「大間君は私の事、苦手みたいだから。迷惑だよ。だから、遠慮しとくね。あ、私もう行くから」
(え、え、え!? えぇーーーーーー!?)
いったい全体なにがどう伝わってそう思ってるのか聞きたいのに、真由の姿はもう見えなくなっていた。まるで魔法で消えたようだ。
「ありゃー、お兄ちゃんいったい何したの」
それ、オレが聞きたいやつな。
「あ、さっきおっぱい触ってた!」
すみません、触りました。いやでもそれでオレが真由を苦手だと思うか? ってオレが距離置いてたせいか!! うぉぉぉぉ!! オレのせいぃぃぃ!!
「ちゃんとごめんなさいしないとダメなんだからね」
はい、いますぐ行ってきます!!
「あ、でも荷物はちゃんと持ってかえるんだからあとでね!!」
妹はそう言って、オレの腕にやたらぴったりとくっついてきた。とりあえず、一回家に帰れとのお達しである。
妹は腕にぐいぐいと胸を押し付けてくる。真由のは柔らかかったな。妹のナイに等しいそれの感触と比べつつオレ達は家路についた。
妹よ、大志を抱け。まだきっと成長の余地はある。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます