第8話 フルパワーかましてやりますよ
「フルパワーの一撃でもあと一歩か……」
「ちょこちょこ動かれると、あたしもやりにくいんだけど」
お互いに体勢を整える。どちらかというと、タイヨウには相性の悪いやつかもしれない。ただ、完全に効かないわけでもない。能力というかテクニックが重視されるんだろう。
「……そろそろウェポン使ってもいいよね?勝ちたいっちゃ勝ちたいから」
「んなこと言うなら俺だってやらせてもらうわ」
端末から即座に指令を送る。このウェポンすら使ったことがないが……もう、どうとでもなるか。タイヨウは言われたとおりに気息を整えると、それが合図とでも言うように胸元の刻印を光らせる。あいつのウェポンは──自分へのバフだ。一定時間リミッターを外す代わりに、身体能力が底上げされる。数値上は二倍とあるが……そもそも、これ本当か?
対するテルスの変化は目に見て明らかで、両腕から胴体にかけて仕込んでいたカラクリがその姿を現していく。小型の射出機がそれぞれに装着されているようで、弾は──土なんて生易しいもんじゃない。綺麗に研磨した小石がぎっしりと弾倉みたく詰め込まれていた。
「発射っ!」
掛け声とともに決して遅くはないそれがタイヨウめがけて飛んでくる。しかしバフの効果はあまりにも強く、二の矢を放とうとしたレイナの操作が遅れるほどだった。もともとの俊敏性からして避けるのはそう難しくない。また一気に飛び込んで一発入れれば──!
「あっ……クソっ!」
「……!? そこだっ!」
力を溜め、一気に肉薄して連撃を食らわすつもりだった。ただあまりの速さで俺の操縦が追いつかず、一瞬だけ操作不能になったタイヨウは転がり込むように地面へと滑る。そこを見逃すレイナでもなく、起き上がるとほぼ同時に面で捉えるような射撃が迫っていた。
「っぶねぇ……!」
腕には食らったか、反応が鈍い。けれど満身創痍なわけじゃない。間一髪で回避すると、間合いを取る隙すら与えるのは危険と判断して翻弄するように動いていく。なんとか照準を合わせて食らいついてくるテルスの隙を探るために、時間稼ぎも兼ねて弾を浪費させた。
……ひとつ、思いついた。思いついたが、かなり危険だ。外したら負けるかもしれない。タイミングがシビアだからこそ、確実に仕留めてやらなければいけなかった。
「……よし」
足元を掠める弾をすんでのところで避けながら、不意打ち気味に踏み込んで連撃のモーションに入っていく。やはり機動力の高さは大きく、照準は間に合わない上に至近距離では射出もできないらしい。これで完全な肉弾戦に持ち込めたのは大きいな。まだ微妙だが。
「やっぱりパワーも上がってない……!?」
「じゃなきゃ正面切って飛び込まねぇよっ」
やや押している。それでもパワー不足は否めないが、連撃そのものの質が上がっている。だんだんと防戦一方になって焦り始めたのか、反撃の隙をうかがうような素振りも見せてきた。試しに攻撃の手を緩めてみると、そこであの剛腕が力任せに振りかぶられる。
「あっぶねぇ……!」
もはやブラフだ。単調な攻めはタイヨウの能力なら見切れる。あとは俺が操縦を間違えなければいいだけで、細かな操作を打ち込み続けているレイナよりも落ち着き払っていた。
敢えて距離を取る。残弾の減った剥き出しの射出機が小刻みに動く。それと同時にテルスが大飛びで一気に距離を詰めてくると、俺も応戦するようにその懐へと飛び込んだ。
「もらった……!」
図体のでかいテルスがタイヨウを抱きとめると、そのまま地面に叩きつけるように空中を蹴って勢いを稼ぐ。同時に俺は端末を操作すると、タイミングを見てそれを発動した。
「必殺『ビッグ・バン』──!」
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