第7話 2度目の強奪チャプターは愛の告白イベントから!?

「スペースシリーズに決まってるよ、どこかで張り付いて情報を取ってればね。だからスペースシリーズを持つ人は、あまり自分から手の内を明かさないんだ。ほとんど知られてない」

……やっぱり、そうなるよな。どれだけ珍しいかっていうのはミノルやハルの話を聞いて分かってるし、場合によっては治安が悪いやつに狙われる可能性もある。雷都だって誰かから奪ったのかもしれない。俺のも、そういう経緯で狙われてるのかもな……。

「まぁ、行くだけ行こうぜ。行かなかったって舐められんのも嫌じゃん」

「えー、あたしは無視したほうが──って、ちょいちょいちょいちょい……」

何かを言い出したハルを無視して、トートバッグを手に出口へと向かった。



「おー、いかにもそれっぽい名前のやつがいるな」

「……あんたが満天メテオ? とりあえず聞いとくけど」

「分かってることを二回も聞かれるの面倒臭いんだよな……」

日陰になって意外と穴場な校舎裏──そこに金城レイナはいた。ラフな純白のワンピース姿にサンダルで、地面にしゃがみながらSBSをちょこちょこと操作していた。

ぱっと見で気が強そうだと分かる顔立ちだ。ツリ目でロングの女子とかいかにもじゃん。

「単刀直入に聞くんだけど、あんたスペースシリーズ持ってんだって?」

「だったらなんだよ」

「欲しいなー……なんて言わないから、せめて戦ってほしい。一回でいいから」

「はぁ……?」

反射的に後ろに控えていた二人を見てしまう。

……予想通り、よく分からなそうな顔をしていた。

俺もよく分からない。

「欲しいわけじゃないのか? 裏ルールだって申し込めるだろ、一応は」

「いや、いい。スペースシリーズと戦えること自体がレアだしさっ」

そう言って、レイナは足元のSBSを手でひょいと持ち上げる。

──と同時に、ハルが彼女のほうへ奇声とともに走り寄った。

「あー! あっあっあっあっ……! ねぇおかしくない!? 君もなのぉ……!?」

「うるさいなぁ……。でも“テルス”のこと、知ってんだ?」

「太陽系を模したスペースシリーズのうちの一つ! “太陽”に次ぐ“地球”──テルスでしょ!? 一瞬だけレプリカかって思ったけど……その胸元の刻印……!」

おいおいおいおい……。オタク丸出しだなお前……。

じゃなくて。こいつまでスペースシリーズ持ってんのかよ……!

俺といい雷都といいレイナといい、なんでこんなに集まってんだ?

「スペースシリーズ同士、やってみようよ。よくない?」

「本当に戦うだけでいいんだな?」

「いいって言ってんじゃん」

「……一昨日、俺を襲ったやつとは関係ねぇのか?」

「んー……? まぁ、あんたのことは隣町でも少し広まってるけど。なんか旧式のレアパーツ持ってるってことは知ってる。そんであたしの同級生がカチコミ行ったけど、それ?」

「あいつら、お前の同級生なのかよ……。随分と迷惑なやつだな」

「まぁ、あたしは人畜無害だから安心しなよ。本当に何もしないからさ」

……ぶっちゃけ、レイナはヘラヘラしてるというか余裕綽々だし、見た目はキツそうな女子だけど、敵対心がないのは本当だ。ミノルもハルもそこは分かっているらしく。

「メテオがやりたいならやれば? あたしとミノルは後ろで見てるよ」

「おっけー。……んじゃ、そういうことだからやるか」


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「いぇーい。暑いからパッパと終わらせちゃおうよ」

……煽ってるのか特に意味はないのかは分からないが、とにかく暑そうだ。

まぁ、俺も暑いもんな。これ終わったらまた室内に戻るか。

小さく溜息を吐きながら、端末でタイヨウの状態を確認する。ぶっちゃけ、こいつを実戦で使ったことはないが──勝敗は関係ない。とにかく慣れることだけを考えるか……。

「……よし」

「準備いい?」

「あぁ」

校舎裏。もちろん俺たち以外には誰もいない。暑いことの気だるさで少し気が滅入るものの、スペースシリーズとやらを試せるのは楽しみだ。緊張ももちろんするけどな。

「奥の二人ぃ……あー、あの委員長っぽいオタクの子、号令かけてくんない?」

「えっ、あたし? えっと……えっと、それじゃあ──始めっ」

号令と同時に操作に移る。タイヨウがスーパーマンなら、あっちのテルスとやらはゴーレムだ。想像通り動きはそんなに速くない。むしろ俺のほうが一瞬で肉薄できたほど。

一瞬で間合いを詰めると、タイヨウはそのまま徒手格闘のフェーズに入る。

「速いなぁ……。でもこっちは守備が強いんだよ」

金属製らしいその腕は、いかにも太くて動きは鈍い。ただ、俺の連撃をものともしない佇まいで守り続けていることからも、確かに嘘ではなさそうだ。ゴーレムらしいな。

試しに足払いを喰らわせるが、もとが重くてまったく動きやしない。笑っちまうよ。

「いよ……っと!」

「伊達にゴーレムじゃないんだよ。守備力だけは凄いんだから」

「こっちだって溜めて一発ぶち込めば違うかもしれねぇだろっ」

間合いを取って力を溜める。脚に込めたそれを一気に解放すると、目にも止まらぬ速さでテルスの懐へ飛び込んだ。一瞬だけ防御が遅れたテルスはタイヨウの拳によろめくと、しかし持ち前の重量と安定感ですぐに姿勢を整える。効いてない……こともなさそうだけど。

振りかぶられた剛腕を、タイヨウは得意の俊敏性で回避する。動きは鈍いが当たったら痛手を食うのは間違いないだろう。蹴り上げられたそれもバク転で避けつつ次の手を思う。

「地の利は使ってもいいよね?」

レイナは思索ありげに呟くと、テルスの身をかがませてからこちらに大きくジャンプしてきた。ドスンと鈍い音がして、そこだけ地面がへこんでいる。想像以上に速かったことにヒヤヒヤする間もなく、テルスが地面をえぐるように蹴り上げた。土の塊が襲ってくる。

「あ、くそっ……!」

あの脚だ。蹴り上げるパワーもすごけりゃ土をえぐる量も多い。タイヨウの俊敏性でも回避が間に合わず、もろに腕へ直撃させてしまった。なんとか体勢を整えて間合いを取るものの、一発食らったという精神的なプレッシャーは大きい。……まだいける、はず。

地面に落ちた土の塊を投げ返す。あっちはパワーこそ強いが動きは鈍い。こっちが連撃のように投げ続ければいつかはボロが出るはずだ。小サイズの土をひたすらに投げ続ける。

「そのくらいじゃ効かなくない?」

「……みたいだな。強すぎるって」

俺の考えが甘かった。あのくらいの土くれじゃあ、腕でガードしてるだけで事足りるんだな。……ただまぁ、余裕ぶって動かないところだけがめっちゃ気になるんだけど。

両手に二つずつ持った塊を間髪入れず投げる。それとほぼ同時に背を屈めて一瞬でテルスの足元に肉薄すると、渾身の一撃を叩き込んだ。少し揺れるがまだ弱い。蹴りが飛んでくる前にバックステップで距離を取って、それが空振ったところに肩めがけて特攻した。

「あっ……!?」

俊敏性で翻弄しつつ、完全に不意をついた攻撃。効いてはいるが……まだ弱いのか。

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