霊撃爆術

釣ール

代物

 しまった。

 まさか他にもここを訪れている奴がいたとは。



「ぐあっ!くぅ…」


 三人相手に迂闊に攻撃はできない。

 こいつら…ただ肝試しにきたわけじゃなさそうだ。



「なんでここにいやがるんだ?しかも一人で。」


「こいつあんまりお洒落してねえな。

 普段何してんだ?」


「関係ねえ。

 歳は近そうだが、なら好都合だ。」



 何が好都合なのだ。

 このまま大人しく返してくれそうにもない。

 いい歳をして遅れた現代の倫理観と常識に囚われている。


 ウブメ…だったか?

 正確な名前はまだ知らないが。

 流石にいきなり攻撃はしてこない。

 だがいきなりは攻撃をしないだけだ。


 一人がよそ見をした瞬間に石を投げる。


「てめえ!」


 投げられた人間はこちらを殴ろうとした。

 するとその手は止まり、相手は口を閉じて黙り始める。



「お、おい…何止まってんだ!」


 相手はゆっくりと体制を整えて、仲間達の方向へと少しずつ向きを変える。



「あぁ…あぁ…う、ぶ、め…」


 目の色が変わり、口から唾液が流れる。


 二人は逃げようとしても見えない壁に包まれ出られない。



「業に追従せし悪意の他者よ。

 周囲を脅し、地獄へ堕とし…罪が分からぬ肉塊よ…」



 モウ ヤメマショウ…


 三人は俺にしか見えない黒い光に包まれ、破裂音とともに消え去った。



 ふ、ふふふ…あっはっはっはっはっはっは!


 特に恨みがあったわけじゃなく、勝手にやってきただけだったが馬鹿な奴らだった。


 ウブメは膨らんだ腹に俺が渡したコーラで口直しをする。



「どう?あたしのSPは。」


「ああ。

 爆術って聞いたから爆発とか火薬とかそういう能力を期待していたが、どうやら爆食いのほうだったらしい。」


「人間同士のストレスがここ何十年続いて不景気になるのなら…あたしが正当防衛を理由に食ってあげる。」



「それでいい。」



 俺がウブメと出会ったのも、この術を手に入れたのも、この生活を送るためだ。



 -高校生時代



「小五奈!また一人で帰るのかよ。」


 そう止めるな。

 これじゃこちらが付き合い悪い奴にみえる。


 森呼混芽さすまたうみがは都市への大学進学が決まっている男子生徒。


 一方俺は遠方での一人暮らしが決まっている。

 気遣いが上手い混芽はいつも俺を心配している。


「また他校で何かあったのか?

 その傷はなんだ!」


「絡んできたのは向こうだ。

 俺の人間嫌いをSNSかなんかで中学時代の連中が色々と吹き込んだらしい。

 いくら相手にも荒む事情があろうと、俺自身もネグレクトと資本主義の崩壊や自己啓発による娯楽の衰退の被害を受けている。

 フェアな状態での喧嘩で俺が勝っただけだ!」


 優しかろうが、辛かろうが…どいつもこいつも理由を武器に誰かを犠牲にしようと肉の分際で主張しやがる。


 もう人間として負の側面と向き合うこともやめた『自称幸福者』の歳上から歳下までのアホさに嫌気がさしていた。


 混芽は俺の腕を掴む。


「悩み過ぎだ。

 それはお前や俺達には関係がない。

 このまま卒業すれば願いが叶う。

 連絡したいのなら卒業後も待っている。だから…」



 俺は彼の腕を振り払った。

 もう…いいんだ。


「ありがとう。

 心配してくれて。

 けど、こんな整備された場所じゃサンダルでも歩けやしない。

 健康でいるには貧しさも必要なら、動けそうな廃墟の近くに暮らす。」



「金策は凌げるのか?」



「凌げるようなんとかする。

 つまり、変な気は起こせない。

 金がないんだからな。」


 そう。

 資金不足で前に向かった廃墟ではあまり意味のあるスキルは手に入らなかった。



 だが「霊撃れいげき」は習得し、卒業までに護身術のような技ができたのは自分でも驚きだった。



「混芽。

 お前、スマートフォンでもいいからカメラを用意しとけ。

 今後死ぬ前までに面白そうな何かが見られる。」


「はぁ?」


「俺と会うときはそれを忘れるな。」


 なんてことのない会話。

 だからこそここで言う必要はあった。



《ウブメ》をそれを聞いていたから。



 時は二◯二三年。

 二◯歳になっても人間は受けいれられる気がしない。

 このまま進歩がないのならその時は…。



「おい。やっと助けに来れた。」


 久しぶり、ではないか。

 見せてやるとしよう。

 この技術を。

 悪いなウブメ。

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霊撃爆術 釣ール @pixixy1O

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