§1-8

次の日も朝から大変だった。昨日にも増す質問攻めだ。そこで、キラは昨日ショウと話した事を「実は……」と話した。


「実は……ショウはフツーに友達なんだよね。昨日は何かすごい質問攻めだったから言いにくくて言いそびれちゃったの。ごめんねっ」


パンっと両手を合わせて上目遣いに謝るポーズをとると「えー!?」と声が上がった。


「マジで!?仲いいの!?」

「あー……、うん。」

「えー!そうなんだぁ!早く言ってよー!!」


このままこの席にいたらどんどん質問が飛んできそうだ。キラは「ちょっとトイレ行ってくるから。ごめんね」と言いながら立ち上がり、そそくさとその場を逃れた。不思議な人たちだ。仲がいいわけでもないのに、土足で俺の領域に入り込もうとしてくる。まぁしかし、良くも悪くもそれだけショウの人気があるってことだろう。

その日は教室にいる間中ずっとショウの話を聞かされたり聞かれたりした。キラはいちいち適当に答えていたが、彼女たちのお陰でショウについては今日だけでもう大分詳しくなった。


その日もショウは彼女を迎えに来た。校門にもたれてキラを待っているショウをめざとくも見つけて、クラスメイトたちは「白田さんのお迎えが来てるよぉ」と彼女を囃し立てた。「そんなんじゃないって」と乾いた笑い声を立てながら彼女は教室を後にした。

校門に近づくと、キラを見つけたショウが軽く手をあげた。キラは小走りにショウに駆け寄ると「いこっか」と笑顔でショウを見上げた。


それからもふたりは毎日のようにつるんで遊んだ。ショウといるとき、キラは自分のことを忘れていられる自分に気付いていた。そして、それに気付くたびに深入りしないよう気をつけた。ショウは『友達』であって仲間ではない。こいつに俺の仕事がバレるなんてことがあっちゃいけない。そしたらこいつを消さなきゃならなくなる。キラはその部分に関しては細心の注意を払うようにした。


その日もショウはキラを迎えに来て、ふたりは美味しいと評判のラーメン屋を目指していた。


「どうだったの?今日のテスト」


最近どことなく女らしくなったキラを眩しそうに見ながらショウが答える。


「……ああ、普通」

「普通ってなんだよ」

「適当だよ」

「へぇ、適当にやって全国10位とか取れるもんですかね」

「……どこで聞いたんだよ」

「クラスの女子。ショウのファン多いからな。いつもうらやましいって言われる。ふふっ」

「嬉しそうだな」

「あ?当たり前だろ。友達が人気者なんだぜ」


笑いながら答えると、ショウは笑みをこぼした。たあいもない話をしながら歩いていると、二人は突然、数人の男たちに囲まれた。あからさまにチンピラ風な男たちはニヤニヤと嫌味な笑みを浮かべている。


「よう、久しぶりだな」


そいつらの顔を見た瞬間、初めてショウに会った夜を思い出した。


―お礼参りか―


キラがショウを見ると同時にショウはキラを背に隠すように彼らの前に立ちふさがった。


「何だ……テメェら……」

「おーい、ひでぇな!あんだけ酷い事しといてよ。まだ傷が痛むんだよなぁ。病院代も高くついたしよう、慰謝料ってヤツよこせや」

「……そんなもん、ねぇよ」

「いやぁ、ないならないでいいんだよ。代わりにそっちのコ連れてくからさぁ」


ショウの正面にいた男が言うと同時に、キラは後ろから2人の男に大人しく羽交い絞めにされた。


「テメェら!」


ショウが拳を引いて飛び掛ろうとした瞬間、「待て!」と声が掛かる。


「……まぁ落ち着けよ。カノジョ傷つけたくねぇだろ?探したんだぜぇ?カノジョには申し訳ないがな、一緒に来てもらおうか。……若がテメェに会いたいんだとよ。大人しく車乗れよ。おら!」


キラが車に連れこまれ、ショウは後から車に蹴り込まれた。車内に入るとすぐにショウはキラを思い切り引き寄せ「離せ……」と男達を威嚇した。彼女を連れ込んだ男達は鼻で嗤うと彼女を放し、「逃げたらこのコが大変な目に合うだけだぜ?大人しくしとくんだな」と口元を上げた。


後部座席の両隣を固められ、キラはショウの膝の上で大人しく周りの人間を観察していた。


―糞チンピラが4人か……俺一人ならなんとでもなるんだが……―


あまりに彼女が大人しいので、ショウは怯えて声も出ないのだと勘違いしたらしい、小さな声で「巻き込んだ。悪い。でもぜってぇ守るから。大丈夫だから」と囁いた。キラは少し驚いた。


―そうか俺、女の子だった―


当たり前の事に今になって気付き、彼のシャツをぎゅっと握ってキラは黙って頷いた。

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