§1-3
14になった頃、キラが鬼咲組を訪れると、ヒロと親父の怒号が聞こえた。現場を覗くと、組員はおろおろするばかりで今にも刺す勢いのヒロを3人がかりで羽交い絞めにして、「おちついてください」とかそんなことを繰り返していた。
「どうしたんだ?」
声をかけるとそこにいた全員が一斉に振り向いて一瞬止まった。
「キラ……!……おまえ」
ヒロがこんなに興奮するなんて珍しい。
「……っ!もうこんなクソ親父の言うことなんか聞かなくていいからな!テメーは死ね!カス野郎が!!」
ヒロは押さえつけられたまま親父に牙を剥くと、押さえつける腕を振り切りキラを掴んだ。そして有無を言わさず自室に引き込んだ。自室に戻ってもまだ興奮収まらぬようでキラに背を向けたまま肩で息をしている。
「おい、ヒロ、どうしたんだよ」
ヒロは何も言わず自分を落ち着かせていた。キラは肩をすくめて黙った。やがて彼は搾り出すように言った。
「おまえ、何してんだよ」
「は?」
「家で何してんだって聞いてんだよ」
「家でって俺の?……んー……武器のメンテとかパソコンとか……まぁだいたい寝てるかな」
「ちげぇよ!何で……ぶっ殺さねぇんだよ!てめぇならっ……簡単だろうが!」
吐き捨てるように言う。
「いやちょっと待てよ、何の話?」
ヒロは少し躊躇したように黙った。言葉を探しているようだ。
「……てめぇん家に時々男が来るんだろ」
キラは少しわかった気がした。
「……ああ。来るよ。それがどうしたんだ」
ヒロは身体ごと振り返ると彼女の肩を掴んで揺すった。
「どうしたじゃねぇだろ!?何でおとなしくやられてんだよ!」
キラは驚いたように黙ってヒロを見上げていた。ヒロはしばらく彼女の肩を掴んでいたが、やがて手を放し、自分のベッドに座って手で顔を覆い、「なんなんだよ」と呟いた。
キラは立ったままヒロを見下ろし考えた。ヒロは俺に怒っているようだ。怒っている理由は『俺がおとなしくやられているから』。
「……。……先生に言われた通りにしてるだけだ。俺はおまえと親父と先生には逆らわない。そう育てられたぞ。」
ドン!っと音がした。ヒロが思い切り壁を殴ると壁の一部が凹み、欠片がパラパラと零れた。キラは特に動じることもなく彼を見ていた。
「……それに、あいつらは俺を仕込んでいるだけだ。俺は女だからうまく使えば身体も武器になるそうだ。だいぶ使えるようになったと褒められたぞ。あと女らしくする訓練もしている。『俺』じゃなくて『あたし』って言うんだ。そんで何か下から見上げながらくねくねすると良いらしい。知らないヤツを俺に惚れさせるテストも受けたぞ。簡単だったな」
正直、彼女には惚れるという感情が実際にはよくわからなかったが、誇らしげに言うことでわかっている振りをした。ヒロはキラが話すのを聞きながら、顔を覆ったまま一度目を開きまた閉じると、額に押し当てた手を拳に握ってまた肩で大きく息をした。
「……そうか」
「おう」
キラはヒロの怒りが少し収まってきたようだと思い少し嬉しそうに答えた。すると、ヒロは立ち上がり
「ごめんな」
と呟くように言うとキラのわきをすり抜けて出て行った。キラは一人暮らしをするようになって、自分で様々な情報を得ることができるようになった。だからヒロが怒っている理由も「ごめんな」と言った理由もわかっていたが、わからない振りをした。そのほうがいいと思った。
―俺は確かにあいつを簡単にぶっ殺せるだろう。でも殺さない。あいつは情報だけじゃ解らなかった部分を実践で教えてくれるからな。あいつの知識を全て盗んでから殺せばいい―
しかし、男達は二度と来なかった。きっとヒロが何かしたのだろう。まあいい。男達から伝授された女の技はその後の仕事において何度も役立ったのだから。
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