自動修正プログラム
「で、できた……」
ついに完成した。
まだ試運転に成功しただけだが、それでも……
「これで……自由だ……」
それでも、希望を持つには十分だった。
ついに、ナービーによる自動修正カスタムが完成したのだ。
▼▽
俺の仕事である“異常”の修正。
“異常”と思われるものを探し出して、ナービーの指示通りに対処するだけの仕事。
頭を使わない単純作業の繰り返しであり、言ってしまえば、誰にだってできる仕事である。
そう、誰にだって……ナービーにだって……できるのでは?
“異常”が発生したことを検知できること、レーダーによって“異常”がどこにあるかを探知することができること、《解析》や《削除》といった能力はナービーの能力であることを考えると、できないと言うほうがおかしい気がしてくる。
それにナービーは賢い。
元々は無かった目覚まし機能を、俺が教えたとおりに、時間ぴったりに起こすことを覚えて、実行してくれるようになった。
それに、同じような“異常”の物質に対しての《解析》の時間も一年を通して短くなっていった。
それくらいにナービーは学習能力が高いのだ。
そうして、思い立った日から今日までナービーと対話することで自動で“異常”を《削除》するシステムを作ることができた。
対象の“異常”の発生を検知すると、ナービーが俺を必要とすることなく自動で《削除》を使用するようになったのだ。
だが、ここで注意すべきなのは対象の“異常”のみを《削除》するということだ。
『1件の正体不明の“異常”があります』
さっそく来たか……
結論から言うと、ナービーによる自動修正では全ての“異常”に対処することができない。
特に《編集》が必要なものや初見の《異常》は俺自身が現地に行って対処しないといけない。
――というより、禍々しい黒い石と異世界への裂け目である“異境”だけを対象にしか《削除》を行わない。
それ以外の多種多様な“異常”はナービーだけでは対応できなかった。
けれど、禍々しい黒い石と“異境”の二種類が“異常”の全体の約九割を占めている。
これら二つが無くなるだけで俺の勤務時間は大幅に減少し、二時間程で済むようになるはずだ。
きっと……
▼▽
……というわけ、晴れて自由になったぞ!
そう思いながら俺はベッドの上に大の字で寝転ぶ。
暖かい陽の光を浴びながら昼間からゴロゴロと無駄に時間を過ごす。
何年ぶりだろうか、こんなふうに時間を無駄にするのは。
…………初日からこれでいいのか?
自由な時間が生まれた初日からこんなふうに無駄に時間を使っていては、惰眠を貪る生活になってしまうかもしれない。
初日だからこそ動くべきなんだ。
いつもの黒いジャージに袖を通し、玄関に向かう。
異世界に来て一週間土いじりをして放置していた畑を見に行く。
また、耕すところからなんだろうなぁ。
けれど、せっかくの異世界なんだ。
この山奥でスローライフを送りながら、魔法を覚えて、結婚もしたいよなぁ。
俺の異世界スローライフはここから始まるんだ。
溢れんばかりの希望を持って、俺は玄関の扉を開く。
目の前に広がる一面の緑。
畑の柵に絡みつくように生い茂る雑草。
その光景はボーボーと言う表現が最も相応しく、一年前の整った畑の姿はどこにもない。
バタンッ
「……寝るか」
一年という月日が経ったことを改めて実感し、俺は床に伏した。
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