第15話 そのスキップ、なんか下手

※注

黒い◆が人物の視点の変更の印です。

白い◇は場面展開、間が空いた印です。

―――――――――


“キミちゃん、可愛い女の子達とウハウハしてる?楽しまなくっちゃね!パフパフよ!”


 ◇


 驚愕に放心していると、僕の名を連呼しながらハナが駆けてくる。実に嬉しそうに。

「ハム君ハム君ハム君、ハム君てば」

 ニマニカしてる。

 串に刺した肉を両手に高々と掲げ、スキップルンルンな小踊りで駆け寄って来る。そのスキップ、なんか下手。


 ハナ、さん……高貴悪役令嬢の顔でザンネン美少女JKやるの止めて。キャラが定まってないよ。

 それと、ゲロ、洗って流して無いことにしたんだねやっぱり。いいよ。僕は寛大な御心で全てをゆるそう。

 あ、転んだ。


 両手の串肉を死守する為、腕を高く上げていたからだろう、顔からダイブ。

 驚いて慌てて駆け寄ろうとするとする僕をバネ仕掛けのようにムクッと起き、そのまま両手を前に突き出し(実際は串肉をだけど)、停止を指示。

 何事もなかったように『ナニモナイのだよダカラナニ?』的にお澄まし高貴お嬢様なお顔を必死に保持、優雅に周りを睥睨しながら楚々とした、なんとも難度高めのな綺麗な“歩み”を見せ近づいてくる。

 僕は中腰のまま微妙な表情で迎える。


「お姫様のお顔がー!」とアタフタするサキュバスっ娘。頬の傷を自分の唾をペッペと吹き付けたコートの裾で擦り、スカートについたホコリをパタパタと落とす。ハナは楚々とした歩みを止めず、サキュバスっ娘はバタバタ追従して。


「ハム君、これ、頂いたわ。食べるでしょ」


 痛いの我慢して。目尻に涙溜めて、ぶっきらぼう且つ高慢に僕に串肉を突きつける。

 藍が挿す銀の髪と瞳と、透き通るような白い肌。目鼻立ちが通り、可愛いというよりも綺麗な、チョットきつめの顔立ち。その全てが残念感満載。


 ああ、悪役令嬢で取り敢えずやってくのね。何だか急に前世の記憶を取り戻して自分でも戸惑ってる感じ? キャラ定まってないとやっぱイロイロと辛いよな。


「うん、旨そうだな」と僕。

 ハナの傷ついた頬にそっと手を添える。

 触れる掌が何かを読み込み、何かが静かに流れ込み、注がれる。

 隣で見ていたサキュバスっ娘が息をのむ。


 僕はびっくり。だって意図してなかった。ただ頬の傷が痛々しくて……。ハナの頬が瞬く間に元のすべすべの肌へともどる。キョトンとしていないのはハナだけ。でも「あれ、痛くない? 」


〈∮ 検索及び検証考察結果を報告。

 ハナ様のDNAにアクセスし、生体情報を収集。修復のプロセスを“真魔眼”にて解読し“魔理力”を以って促進・増強いたしました。超速で ∮〉


 驚愕なのは皮膚に食い込んだ砂を傷を治す過程で呑み込まず、押し出し排除した事だ。パラパラと。他人も治せるんだ俺。びっくり。でも何で似非がエラそうなんだ。納得しかねる。


「まあ」と驚いてみせるハナ「でも、急に女の子の頬を許可もなく触れるなんて重大なセクハラよ。左のリバーブローを喰らっても文句言えないわよ。でも、ありがとうハム君。もう痛くないよ」


「《《あのるびび》左のリバーは勘弁だな。でももう治癒の“ポーション”って一本しか残ってないだろ。だからその節約と思ってさ」


「そう? でもこの“芸”はもう他の人がいる時には使っちゃダメよ。“人攫い”に会っちゃうからね」と、そこだけ“怖い顔”で。

 加えて「サッちゃんもこの事は他言無用、いいわね」女主人の顔で。

「イエス、マム」女上官か? サッちゃんって何?


 やっぱり治癒魔法って貴重なんだね。まあ、ポーションが値崩れしちゃいそうだし、欠損でもバッチコイだったらそれこそだな。

……欠損はダメだよね? 試さないよ。イヤだよ。絶対だよ。


 それでも足首三分の一までならオーケーだったからな。

 それだけでも教祖サマに祭り上げられて教団ワッショイな“奇跡”だし。バレたらマジヤバそう。本気で“人攫い”もあるかも。

 でも、上手くやれば大金持ち……か?

 

「それ、やめてよね。凄くメンドくさくなるパターンだから」

 ちょっと怖い顔でハナ。

 ですよね~。


「まあいいわ」と何時ものハナの顔に戻って「これ食べて、お腹減ったでしょ。あっ。その前にお金払ってあげて。ハム君にあげた『守り刀』についてた宝石一個でいいって」


 サキュバスっ娘が悪い商人笑顔で揉み手をしている。

 それはたぶん、ボラれてるぞ。だから貴族は。


 きゃぴきゃぴ仲良くしててイイんだけどさ、だいたい最初にサキュバスっ娘にマウント獲って息巻いてたのは君だろ。チョロ過ぎないか侯爵令嬢。

 僕はサキュバスっ娘をキツイ目で睨みつける。途端に彼女は怯えたように顔を蒼白にしてハナの背後に隠れた。いい大人が背丈が30cmは低い女の子にすがり付いてるのはどうよ。


「駄目だよハム君。ちゃんと払うものは払わなくっちゃ。そうじゃなくちゃ経済はまわらないぞ。お金がまわらないと世界もまわらないんだぞ」


 そうなんだけど、真理だけど。意味わかってねーだろ。言わされてる感が満載だッパないぞ。

 ふと背後のサキュバスっ娘を見ると、そうだと言わんばかりの黒い笑顔でニヤニヤしていらっしゃる。

 だから貴族は! そしてツルペタが!


「あっ、そう云うの駄目だよハム君。セクハラ。下のリバーと上のテンプルのコンビフックをお見舞いしちゃうぞ」

 とハナ、そうだソウダとサキュバスっ娘。憎々しく片方の口端釣り上げて。


 その後は厳しい交渉が続いた。串肉じゃなくて国に戻るための道案内についての、について、だけ。最初から最後まで“お金”だった。大陸を流れる落国の民アッシュ、流石です。


 最後は伝家の宝刀「あんた、他国の侯爵令嬢の営利誘拐に一枚噛んでたよね?これ、実質的な犯罪行為ってだけじゃなく、深刻な国際問題になっちゃうよね。あんたの所属組織的にもコレ、不味くない? 出るとこ出る?」をチラつかせて此方こちらの要求を飲ませた。

 串肉の代金も払わなかった。全て衣食住含めて後払いで。

 俺ってばグッジョブ。


 冒険者ギルドじゃなくて特異生物産資源買取云々カンヌン。めんどくさいからやっぱり暫定で冒険者ギルドでイイや。

 んで、そのギルドは内規も厳しいらしく、サキュバスっ娘は其処そこに“悪事”がバレることを異常に恐れていた。


 言ってみれば冒険者ギルドとは暴力を有した軍閥(政治的影響力もある集団的武器等準備戦力)そのもので、ポリコレ何それ美味しいのは勿論のこと(転生モノのにアリがちな)人の命が超軽い世界観であったとしても、いや、尚更に主権国家為政者に対しては、それなりの規律厳守な姿勢を見せておかなければ即テロ組織として特定され兼ねない。

 暴力が有効で身近な世界なら尚更。それでマウントを取れた感じ。


 こっちはギルドが何処にあるかもどうやって訴えるかも知らないんだけど、それさえも判らなくなる程に狼狽えていた。

「それだけは~ごかんべんを~」


 まあ、若干僕もムキになっちゃってたのはゴメン。報酬だって僕のフトコロから出る訳でもないのに。だからって泣かなくてもよくね。ってウソ泣きかよ。さすが落国の民アッシュ、流石です。

 負けねーぞ!



 そしてやっぱり不思議だったのはサキュバスっ娘が国境を二つも超える遠方の、それも多分に危険(物理的且つ政治的に)な内容になる事が明白であるにも拘らず、最初から、当たり前の様に付いてくる気マンマンだった事だ。

 彼女が気にする懸念は最後まで、報酬額だけだった。


 そしてハナには妙に懐いているくせに僕には終始不機嫌そうな顔しか見せず、時より睨んで来る。囁く程小さく、でもしっかり聞こえる(届く)声で「唾棄小僧が」と謎の罵倒を挟んで。


 まあウザいけど、色々と思い当たるシーンなんかも有ったり無かったり? ……何とも、ッね。まあ、なんだ、ごめんなさい。記憶から抹消します。


 因みにコレまでは全てハナを介しての通訳付きやり取りだった。流石に困難且つ、メンドイ!!

 僕は異世界こっちの言葉がわからない。


  ◇


「はぁ、はぁ、はぁ、もう、……もう、はぁ、はぁ、はぁ、もう、……ダメ、もう、……ゆるして……」


※(注) 決して十八禁ワードではありません。期待された方はゴメンナサイ。それにコレ、僕です。


 因みに少数派ですが『くッ殺』派です。オークが羨ましい。でもなりたいとは思いません。結局は勇者サマにイイとこ取りされるだけですから。だから勇者は……、ぐがぁ! 何で殴るんだよ!



此処ここで後世に名高い名セリフ『目がー目がー!』」


「キャー! ム○カ様ちゅ、ちゅきーーーーーーー」


「でっしょー。大人の魅力よねー! いいわよねム○カ」


「はぁ、はぁ、はぁ、も、もしもし、そろそろ、休み……休みませんか……」


「もう、ハム君たらさっきからハアハア喘いでばかりで、妾の魅力にヤラレちゃったかな。ダメだよ。色んな意味で。それは夜まで、お・わ・ず・け。

(ウザい)

 今はちゃんと私のお話しを聞かなくっちゃダメだぞ。ハム君の為に(尊い)私が(わざわざ)お話をしてあげているって言うのに。

 それになんたって教材は【空と冒険と大人の哀愁】の名作よ。

 心して聴くがよい」


「ほんとですよ、判ってるんですかねーこの唾棄小僧は。もう放っておいて続きをお願いします。お蝶夫人」


「まあ、本当に日本語がお上手になりましたね。でも気を付けなさい、ひろみ。闇雲に二次元の神に傾倒入信すると、そのまま取り込まれて、二度と帰れなくてよ」


「何があったのですか、苦しまれて御いでなのですね。お労わしや、お蝶夫人」


「よろしくてよ、ひろみ。れより、精進しなさい」


 もうね、疲れ果ててて言い返す気力もないんだけど、言わせてもらいます。おまえら馬鹿じゃねーの。そしてお水を下さい。そして少し休ませて下さい。



 僕が移転してきて、この森にハナと共に飛ばされてきてから七日が経過していた。

 ハナを誘拐かどわかそうとした『フワ金さん一派』を撃退したものの訳の分からない場所ここに飛ばされ、今に至る。


 僕らの居場所はフワ金さんの移転石で飛ばされた訳だから筒抜けで、異世界こっちでも送れる文字数は非常に少ないが(鳩の足に括り付けられるぐらい)魔法マジック的な遠方通信方法があるとの事で、早急に追跡が掛かると僕らは見て取り(あれ程の資金投入と動員力を有するならその所属組織が小規模であろう筈は無く、追跡も容易であろう。とのサキュバスっ娘の憶測から)慌てて移動という名の逃避行を行っている。


 道案内はサキュバスっ娘任せで、一抹の不安は拭えないが、ハナが妙に信頼しており、現在僕らは黙ってサキュバスっ娘の指し示す道なき道をただひたすらに歩いている。這いずっている?  僕だけ?


 サキュバスっ娘の能力は未だ良くわからないが、それでも魔物には遭遇していないのは事実。

 一度だけ、遠くに熊モドキな魔物を見ただけ。動物園で見たクマとは明らかに違っていた。だって手(足?)が八本あり、前足の二本がハサミ付きの甲殻類だった。他の足は熊そのまま、でも横に移動してた。


「キメラ種だ。頭も要領も悪い。でも執拗で厄介だ。強さ? それぞれだ。アレか? あれはマアマア、でも戦闘は絶対に避ける。費用対効果で必ずマイナスになるからな」


 サキュバスっ娘は時より立ち止まり、微動もせずに遠くの一点を見るようにした後、迂回行動を取る事がある。そんな時はちょっとカッコイイと思う。ズカっぽい。ハナが言ってた。


 そんな訳で、実はハナからは『どうして』『何で』から『ワラ金さんって何者? 最初一緒にいたよね?  ハナとの関係は? 』などは一切聞いてない。なんか、本人も喋りたくなさそうだしね。


 そして何故か自分の国に帰る事には消極的で僅かな抵抗を試みてはサキュバスっ娘に窘められている。

 高位大貴族家っていったら魑魅魍魎系はお約束だろうし、庶民にはわからん色々があるんだろう。

 話したくないならソレはそれで別にいいんだけど……。


 これからのハナを守りながらの逃避行に際して支障が出るようになれば、その時は聞かなっくちゃならなくなるのかなぁとか、メンドクサ、とか。知っている事で避けられるトラブルもあるかもと、思わないでもないけど、なんだかなあぁって感じで。

 まあ、その時はその時でってノリで。


 まあ、知っていても現状の僕に出来る事は少ない。ってか無い。なんせ二人に付いていくのだけで精一杯なのだから。体力的に。


 今はひたすら歩いてる。歩くというより障害物を乗り越え、時に這いつくばり、時には登り、落ち(たのは僕だけだけど)。森をひたすら歩いている。

 道なき森の中を歩くのがこんなに大変だと思わなかった。もう陸自第一空挺団入団試験の樹海横断の超絶サバイバルそのものだ。当たり前だけど僕には空挺は無理。因みに第一って第二も第三も無いけど正式に第一が付く。拘りらしい。如何でもいい蘊蓄。


 それでも、ただ歩いているだけなのも芸がないと、物語を異世界こっちの言葉と日本語で交互にハナに話してもらい、言語習得を目指しているんだけど。……昔、そんな方法で三日でフランス語を習得した主人公を描いたマンガを読んだ事があり、ダメもとで試してみた。自分にも移転チートが在るかもって期待して。

 ほら、似非が色々難しいこと言ってじゃんか。


 そのマンガは『アニメを見て』だったけど、別にいいんだけどさ、何でム〇カ押しに曲解されたたラ〇ュタなんだよ。

 でもね、それがさ、面白いんだよ。完全に『二次創作』なんだけどさ。大佐の生い立ちから困難に立ち向かって立身出世して、それでも闇落ちせざる負えない悲喜劇を経ての終焉。

 まさに大人の悲愁漂う秀作で、若いだけの二人にちょっとムカついて、僕もなんだか大佐が好きになってしまった程に。

「いいじゃん、世界征服させてやれば」って思っちゃった。


 その前が『〇〇〇をねらえ!』だった。なんで? 古すぎるだろ。

 それにしても守備範囲広いな、ハナ。

 なんかハナとサキュバスっ娘の関係から連想して、“ひろみ”“お蝶夫人”(の侍従)ごっこに興じたかったらしい。

 ちょっと待て、君は既に公爵家の悪役令嬢だろうが。いまさら。って言ったら現地産の生粋悪役令嬢ではなく、正統真っ当な覚醒転生悪役令嬢として練習しておきたかったらしい。


「だって私、元はニッポンの一般庶民のただのJKだったし」


 でもな、ハナ。見ず知らずの初見の者がいきなり『はべりたい』って願ってきても、普通は無視するぞ。落語家の弟子入りじゃないんだから。普通の一般家庭育ちの日本人なら。少なくとも僕は慣れないな。


 それを躊躇もなく、自分にはべる者が居ることに疑問を持たずにそれを当たり前のように受け入れる。それって充分に異世界こっちに馴染んでんじゃないの?

 まあ、なんにしても、ロールプレイングの練習って言うよりは完全に百合のキャピキャにしか見えないけどな。ゴチソウサマです。



 ふと気づくと(もう疲労困憊で、何も考えられない頭は単純に話に夢中になってた……)何時いつの間にかコーチと先輩の『〇〇✕〇〇』な話になってて焦った。慌てて止めました。必死で。


「ぶー、いいじゃんか! ケチ」

「ダメ、絶対。」


 人の性癖や好みも“趣味”もとやかく言わない。勝手にやればいい。でもね、やっぱり男の僕の前で『〇〇✕〇〇』を熱く語られるのはキツイ。

 どうぞ僕のいない場所でお願いします。それでサキュバスっ娘に感染しても自己責任ですので。

 ほら、サキュバスっ娘ったら既に頬を上気させて、ハアハア過呼吸気味ですよ。……またひとり落ちたね。南無。


 でもさ、完全にオタクじゃん。再会した高校ではハナったらクラスカーストで上位じゃん。映えな女子してたじゃん。そんな素振りなんて無かったじゃん。


「ホント男子ってバカ。そんなの擬態よ。猫よ。それに『〇〇✕〇〇』は女子の嗜みよ」


 そうでっか。勉強になります。何故なぜか落ち込む。高校二年生男子ってホント悲しい生き物。幻想妄想バンザイ。んっ? “再会した高校”? そうだっけか?



 そして僕はフウフウ、ハアハアの逃避行という名の急登坂&急下山で疲労困憊、頭真っ白バーン。

 なのに、何故なぜにサキュバスっ娘は足取りも軽く、どうして既に日本語をマスターしてる? 感染による身体向上のギフトでもあるのか? 恐るべし腐女教団。ちなみにハナの足取りも軽い。

 これは僕も入信するべきか。イヤないな。




―――――――――

お読み頂き、誠にありがとうございます。

よろしければ次話もお楽しみ頂ければ幸いです。


毎日更新しています。


 

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