第7話 出来たら反撃したいな。出来なきゃ終わるし
ボーイズ&ガールズ、反撃です。
ご笑覧いただければ幸いです。
―――――――――
という訳で第二ラウンド開始です。出来たら反撃したいな。出来なきゃ終わるし。
おお、凄い、結構高いのに壁の出っ張りを足掛かりに軽快に登っていく。オリンピックのボルダリング選手張りに速く正確だ。彼女、悪役侯爵令嬢だったんだよな。いや、いくら悪役でもバリ貴族の娘さんが凄すぎないか? それとも残念令嬢なら行けるのか。
閑話休題『トランプの兵隊』もそうだったけど、
それはそれとして、女の子のお尻を下から眺めるのってやっぱりいいよね。ロマンだよな。あ、見えそう。チッ、カボチャかよ。改善が必要だな。
プリっとしたお尻越しに僕を見下ろし彼女「……変態」
「……何が……」
「タヒね」
「……ごめんなさい」
「それと私、悪役でも残念でもないから。
僕は眉毛の横を薬指で掻き、言うか迷っていた言葉を口にする。「君も僕も、勿論アイツらも誰も死なないし、殺さない」
彼女はカボチャパンツ越しに僕をじっと見つめていた。何を言っているのか理解している瞳で。
僕はさっきまで
「殺せと言ってる訳じゃない。逆に殺さないでくれ。この年で殺人犯に成りたくないし、そんなの絶対ムリ。ただ逃げたいだけだ。でもこれからやる行為は確実に暴力だ。打ち所が悪ければそれなりの重い怪我をするかもしれない。でも。
僕らは弱い。僕は君の助けが必要だし、君は僕の助けが必要だ。優先すべきは君と僕だけ。だから躊躇するのはやめよう。その他は忘れよう。僕らは無事に逃げる。そして家に帰ろう。それだけ。
それに残念だけど君のアレ、全力でも人は殺せない。せいぜい赤くなってヒリヒリする程度。だから安心してブチカマシしてくれ」
魔法なんて未だに疑ってるし信用してないし、全くよくわからん。でも今は彼女のそのよくわからん“爆烈炎のなんちゃら”に頼る。
って少しでも楽したいとか、使えるものならなんでもいいとか、そんなの思っていないよ。……たぶん。……半分ぐらいは……。
そうさ、半分以上さ。だから何だ。
追い詰められてんだこっちは。僕もハナも。
魔法は純粋な暴力装置だ。暴力を振るうには決意がいる。人を傷つけてしまうかもしれない嫌悪感と、逆に人を壊す事への暗い興奮と快楽、その相反するふたつを封じ込める覚悟が必要だと思う。よくわからんけど。人は残念だけど愛を語るのと同じ脳ミソで人を容易に害する。全くよくわからんけど。
たぶんだけど、魔法ってヤツはイメージだと思う。
魔力はわかる。エネルギーだ。エネルギーを物質や現象に変換するのが魔法なら、魔法ってなんだって話だけど、それがイメージなんだと思う。裏で似非賢者サマもそうだって言ってるし。
実にあやふやで掴みどころのないブラックボックスだ。深層心理にまで関わるものなんだろうか。よく
人を傷つける嫌悪感が多すぎて、人に対して魔法を使えなくなるのではないかとの僕が思う彼女への懸念。
僕は
彼女は僕の話を聞き終わると何気に掌を僕に伸ばし、いきなり大玉の炎が吹き出し僕を襲う。無詠唱だ。僕は首を捻り躱す。予想より大きさと速さが段違いで思わず「ヒエッ!」悲鳴を上げてしまった。
超ビビった。心臓バクバク。背後の壁に穿った火の玉の焦げ跡に冷や汗タラタラ。これって、充分な殺傷能力は有ったっぽくね? マジで。
僕の懸念。彼女への思い。カッコイイ演説はなんだったのか? 女の子って
彼女は壁の上で仁王立ち。ニヤリと笑った。かぼちゃパンツ丸見えですけども。
「ねえ、だから可愛いオタマジャクシをチラチラさせながら説教しないでくれる。誰にもの言ってるの?」
かっちょいいな、かぼちゃパンツ。君がゲロ姫だってことは絶対忘れてやんないからな。ズリ上がってたカーデガンを定位置に戻し。
「君が貸してくれたカーデガン、ちゃんと身につけておくよ。まかせて」スリスリ擦り付けてやった。
彼女は嫌な顔をして「そのカーデガン、それなりに気に入ってたのに、廃棄ね」
「洗えばまだ着れるよ。いや、敢えて着てほしい」
「止めて、私を穢さないで」
楽しんでんなー、おい。
「でも、ありがとう」と彼女。
そんな和気藹々なやり取りも
さあてと、……行くぞ!
僕は駆ける。『黒フード』目掛けて。僕を追い抜いてテニスボール大の炎の塊が“
威力はコップ一杯200cc程度の熱湯を至近距離から掛けた程度の衝撃と熱さ。一瞬だけならヒリヒリする位で一度の熱傷にも届かない。が、それでも顔に直撃すれば無視も出来ない熱さ。
あれ、なんで? さっき僕の顔を狙った炎弾はこんなチャッチクなかった。もっと殺傷力があったのに!
なんて思ってない。逆に僕はホッとした。
さっきはああは言ったが、普通の女の子に例えその力があったとしても
でもなんで僕にだけ殺傷力増し増しなの。僕って嫌われてる?
三人目は外れた。外れてもいい。外れて後ろのガヤの胸に当たり派手に火の粉モドキが弾ける。ハッタリでも密集しているからこそ動揺が走り、足が止まる。
僕はそのまま『黒フード』に迫る。
奴は馬鹿でかい剣を抜き正面から大上段に振り被る。僕は縮地の踏み足膝抜きで、後ろ足から伝わる重力を純粋な推進力に変え急加速。よし、上手く重力をコントロール出来てる。
初めて使った時は戸惑いと恐れが強すぎたんだと思う。焦ってたし。これが仮に魔法なら、呪文は要らない。ただ思う。そして。
〈∮ 検索及び検証考察結果を報告。
質量荷重万有引力制御機構魔技法・初級【微増幅及び斥力獲得】は万有引力、重力を打撃力・速度に変換する身体基本連動運動にてコントロール可能。
と結論 ∮〉
即ちDon't think.Free
迫る刃下を掻い潜り『黒フード』の左横の男にジークンドーの足の長いストレートリードを叩きこむ。縦拳が鳩尾に食い込む。
敵の陣営内に敢えて飛び込む。腕を思い切り振り上げてノックダウン狙いの重い一発を、何て言わない。一瞬だけ体重を載せた鋭く速い手数で急所を狙う。相手の懐や死角に入り常に一対一の状況を作る。背中は彼女の魔法が守ってくれると信じて。
左の男が僕を串刺ししようと剣を突き出して来るのを敢えて踏み込み、左手の逆手剣鉈ナイフで迫りくる剣先の横腹を弾き、その反動を利用して身体を廻し、速度に変換した右拳を柄を握った相手の親指に撃ち潰す。当てた反動を利用して腕を折り体重を載せた肘を正中に叩き込む。
超接近戦を仕掛ける。距離が離れれば数の力で刃物を振るう敵に
相手の身体を力場、肘を支点として反動を乗せ素早く半回転しながら移動、回転の乗った足裏で左の別の男の脹脛を横から踏み膝を壊し、そのまま回転してサッカーボールキックを蹲った男の顔にめり込ませる。
僕を狙っていた後ろの男の後頭部に火の粉が散る。彼女の魔法だ。
動きの止まった相手に振り向かずに足を後方へ振り上げ、踵を金的にめり込ませる。凄く痛そう。足元でジタバタしてる。ごめんなさい。
その反動を振り子の力に変え、前の別の男の金的に爪先をめり込ませる。
えっ、なに?
ごめんなさい。何言ってるかわからない。
あっ、痛そう。痛いよね、御免ね。また金的一個潰した。
貸してもらった中折れ? 剣鉈ナイフは左逆手で持ち、盾代わりとして使っている。流石に白刃を素手では防げないし、攻撃的ナイフとしてはね……。彼女は守り刀と言っていたが文字通り守ってもらってる。何かスゲー不平不満の声が聞えてるような気がするが無視。これ以上頭の中の住人は要らない。おお、流石守りの盾、丈夫じょうぶ。五月蠅いよ。
五月蠅いと言えば、僕の頭の中で似非賢者様の声が絶えず響いていた。
〈∮ 検索及び検証考察結果を報告。
実地研修値を多重同時加速思考付与型編纂疑似脳へ転送、再演算の上、最適化、生体へとフィードバック。同時に生体ブラッシュアップを同時進行。再び実地研修取得値を同軸多重同時加速思考付与型編纂疑似脳へ転送、再演算の上、最適化、生体へとフィードバック。同時に生体へのブラッシュアップ。た、楽し~
と結論 ∮〉
うるせえ! わったから黙ってやれ。
少しずつ、速く。軽くなっていくのはイイが……。だからこそ、僕の身体は……。
「ホーホホッホホー、まるで相手になりませんわ。この這いつくばるゴミムシどもが‼」
ゲロ姫様だ。ホーホホッなんて笑い方する人、初めて見た。うん、真面目に悪役令嬢してたな、アレ。
「ねえ、ハム君てば聴いて聞いて、私のことを『流石ヴレゥ侯爵家の最悪魔導師』とか、『爆烈炎の鬼女』とか称えてる」
それ称えてないぞ、最悪とか鬼女とか。聖女じゃないんかい。まぁ、楽しそうならいいんだけど。
「えー、ナニそれ、♯$%$%&’~|”#’!!!♯$%$%&’~|”#’!!!ってなにそれ」
『トランプの兵隊』の一部が何やら怯えながら彼女に訴え掛け、それにしっかり彼女は答え会話が成立している。炎弾をバカスカ容赦なく撃ち当てながら。ひどい。でも器用。
「ねえ、ハム君聴いて聞いて。あの人たち、私を襲おうとした裸の変態ハム君から助けようとした自分達を、
「見たことある顔って、確かか?」
「うーん、高貴なお嬢様としては下々の事までよく覚えてないかな。良くわかんない。てへぺろ」
わりかしヒデーな、炎弾をぱかすか撃ちながら
僕は少し考え、口早に言って欲しい言葉を“日本語”で伝えた。
「そこに居る裸の少年は私の友人です。裸で困っていたので助けようとしていた処にあなた方の一部とソコの『黒いフードの男』に訳も
『トランプの兵隊』の半分ほどが互いに顔を見廻し、おずおずと剣を収めて後ずさり、
おお、やるね悪役令嬢。戦端が崩れる。今だ。逃げる。絶好のチャンス。と、思ったのもつかの間、
ああ、居たなこんな人。フワフワサラサラの金髪キラッキラ碧眼の『フワサラ金キラさん』。笑顔が眩しい。遅れて主役登場ってとこか。二つ目の頭が飛ぶ。
そんなこと言うなよ。楽しもうぜ。
そう、ハンサムな無言の表情で問いかけられた。
鼻がシュッとして高くてカッコイイ。
おまけに、いい匂いがしてる。実に楽しそうなハッピーな匂いだ。
『フワサラ金さん』ってば、キャラ変えすぎ。やっている事も何を意図しているかも意味不明。あ〜ぁ、こうゆう能力が高くて不思議ちゃん系意味不明野郎が一番苦手。僕ってば常識人だから。そこ、異論は認めない。
『フワ金さん』が爽やかにニッコリ微笑む。
チッ、嫌な予感しかしねー。
そこにハナに従順を示し残った『トランプの兵隊』達を弾き飛ばし、『黒フード男』の豪剣が横薙ぎに凶悪に僕に迫る。あ、アンタもいたね。
場が混乱する。剣を納めて下がった者達、戸惑った顔のその他、それらがワラワラドタバタてんでに逃げ出し、残った三分の一の数人と『フワ金さん』と『黒フードの男』だけになった。
残った数人をよく見ると身に着けたトランプ柄の四角い制服も
疑っちゃうよ。
臭いし。
最初から計画通り『フワ金さん』含めてゲロ姫様狙いが警護に混ざっていたと。まあ、考察は後にしよう。多分しないけど。関係ないから。先ずはこの、間近に迫るギラギラ黒光る刃先だな。
『黒フード男』が肉薄する。
僕はギリギリでバックステップ、っと見せかけて反動を使って間合いを詰めるべく逆に短くステップイン、相手の正中から微妙に外した身の内に位置取り。『黒フード男』は返しの横薙ぎを放とうとするも微妙に近い間合いを嫌い一旦足を引く。余計な動作1ゲット。
長尺物を相手する時はその手の内に入り込む。怖いけど。凄く怖いけど。僕は左にズレながら半歩分だけさらに間合いを詰める。相手は僕に正面から向き合おうと無理に体を捻る。余計な動作2ゲット。
僕は相手の死に体の剣の柄を抑え、足を軽く刈る。手数と速さを
成らず。
仰け反った僕の顎先を『フワ金さん』の細身のよく手入れされた高そうな剣が通り過ぎる。あッ
あら残念。今のを躱すなんて凄いよ君、的な素敵な笑顔で追い打ちの頭上で翻る唐竹割り。僕は身体を捻り避ける。反動を利用して移動、転がったままの『黒フード男』を盾にする。踏み出そうとして足を止める『フワ金さん』。
間が開く。
体勢を整える。でも、たぶん手詰まり。正直『フワ金さん』は厄介だ。僕より速くて正確だ。それだけじゃない、旨くて容赦ない処がキモくて最悪。僕では抑えきれない。ウザいなイケメン。
あ、笑った。そんなんことないさ、やってみないと
『フワ金さん』と僕、同時に踏み込む。でも僕が最初にしたのは『黒フード男』が握る馬鹿長い剣の柄を蹴り上げる事。二人の間で乱反射する光を四方に振り撒き、舞う。その陰に隠れ後の先を伺う僕。
その僕に自信に溢れた『フワ金さん』の逆袈裟が放たれる。光が斜めに走る。僕は拳を繰り出さず、ただ頭を横に傾ける。傾けた頭の横を今まで隠れていた今日一番のゲロ姫様の炎弾が『フワ金さん』の下半身を襲う。
逆袈裟が炎弾を切り裂く。火花が散る。まだまだ。二発目、身体の陰で一瞬炎弾が消えることで、距離感と予想射線を狂わす。行け!
返す剣で迎撃される。火花が散る。髪の毛が焦げる位まで我慢したのに軽々と。キモいぞイケメン。
頼むぞ三発目。は左斜め下に外れる。筈だから後ろ手の剣鉈ナイフで掬い上げ、そのまま腕を大きく廻し、横から『フワ金さん』の顔を狙い投げつける。イケメンのニヤニヤ笑いが止まる。まあ、彼女の三発目は必ず同じ処に外してたし、色々、出来そうだなって思って遣ってみたら出来た。『フワ金さん』の顔に火花が散る。今度こそ金的7個目ゲット。
成らず。
僕の足首は三分の一を残して断ち切られていた。
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お読み頂き、誠にありがとうございます。
よろしければ次話もお楽しみ頂ければ幸いです。
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