第6話 いいよ、其れで行こう

ボーイズ&ガールズ、反撃? の狼煙? です。

ご笑覧いただければ幸いです。

※注

黒い◆が人物の視点の変更の印です。

白い◇は場面展開、間が空いた印です。

―――――――――


 ◇


 僕は周りを見廻す。ここは狭い通路の行き止まり。

結果的には追い込まれた形だ。でも単騎VS大多数では悪くない。後ろに回り込まれない。


「散々盛り上げておいて何だけど、ネガティブなお知らせです。このままただ闇雲に逃げても最後は追いつかれてあっけなく終わる最悪のパターン?⤴ジリ貧ですな?」


「なにソレ、そんなの最初からわかり切ってる事じゃない?だからどうするのよって話。私の最下層ズンゾコから無理やり盛り上げモリモリさせた今の乙女なテンションを如何いかがするのよ。超恥ずかしいんだけど」と彼女。


≈( ̄ー ̄)ニヤリと彼女と僕。


 イイ感じじゃん。

 なんか最初の“戦争を知らないザッツ日本人”から異世界こっちの公爵令嬢? 悪役令嬢? “爆烈炎の聖女”でもいいけど、高慢ちきさが出てきてる感じ。混ざり合ってる? でも震えて座り込んでたりゲロはいて気絶されるよりよっぽどいい。

 痛! なぜ脛を蹴る。


「話を戻す。このまま闇雲に逃げるのは愚策。ひとあてかまします。その間に逃げる」


「単純ね。でも好きな感じよ。」


「高位貴族な悪役令嬢的にはお気に召したかな。」


「悪役令嬢じゃないし、ちょっと我が儘言ってただけだし」


 悪役令嬢キャラを素直に受け入れている様は潔し(マジで真正っぽいし)。


 でも、多分、そうやって自らを奮い立たせているのだろう。だってそうでもしないと膝が今にも崩れ落ちそうだから。僕が。


 最初から今の今までずっと彼女の震える小さな掌は僕の手を握りしめ離そうとしない。“守り刀”を取り出す際も、悪役令嬢として悪態を吐いている最中でも頑なに。彼女の手の震えは収まらない。


 そりゃそうだ、実際に大勢に囲まれ訳もわからず刃物を振われる。体験した者じゃ無いとわからないリアルな死の恐怖。悪役令嬢とか馬鹿話で誤魔化したけどそれが何? だよね。

 でも大丈夫。そんな君をむざむざ渡さない。僕も死なない。


 死なないよね?……ほら、ラノベ的なお約束なステータス補正とか反則強力スキルとか……あっ、自分にも在ったな大賢者様……似非じゃん。ポンコツじゃん。使えねーじゃん。

 まじかー駄目だな。

 詰んだな。

 まじかー。


 それでも、守るよ。守って見せる。


(やっぱり可笑しい。何で僕がホントに戦うことになってる? もっと可笑しいのはそんな僕を僕自身が止められないこと……)

 


「あそこから逃げよう、君は先に登って、日を背にしてあの厨二な呪文の魔法を撃って牽制してくれ」日の光が細く差し込む高い位置にある建物と建物の隙間を指差しながら。


「厨二言うな」


「威力より速度重視で。変化球誘導が出来れば尚いい。見た目派手で。出来るでしょ? 爆笑炎の聖女なら」


「爆笑炎いうな、爆烈炎」


「えっ、爆落炎?」


「もういい。魔炎弾ファイヤーアローなら威力は無いけど速さはある。でも誘導は出来ないよ」


「いいよ、れで行こう。ところであの厨二チックな呪文。さっき逃げてた時に言ってたよね、そのまンま日本語だったなんて知らなかったって。

 何で此処ここでいきなり唐突に日本語が出てきちゃうの?とかも含めて色々思うところも有るし、色々と透けて見えちゃっているけれども、あえて今は一旦保留で。


 でッ! 何が言いたいかというと、なによりアノ弩真正っぷりな文言とか言い回しとか、どっぷり沼に嵌りまくってゴメンナサイなトコロとか、『痛呪文と魔法の発動って直接に全く絶対金輪際的に関係なくね?』って事。(by似非大賢者様)


 だってあのイタイのの、どこが魔法生成構成に意図的にコミットしてるんだよ。それでもって言うならもうお手上げ、泣くレベル。

 だから、詠唱まじないって発動に絶対全く関係無いだろ? もっと言えば、意味ないし、唱えなくてもいい?」


「長い呪文は関係ない?……無詠唱が可能ってこと?」


 彼女の瞳が疑問符よりキラキラ寄りに耀く。ああ、さっきも思ったけど、彼女、好きなんだな魔法。


「うん、君も魔法を撃つ度にあんな長くて痛い台詞なんて嫌だろ?」

 何故なぜそんな残念そうな顔で眼を背むける。真なのか、シン・厨二なのか?

 散々コケ下ろした僕だけど、正直まぁ気持ちは少しはわかる。ほんのちょっとだよ。ホント。でも。


「多人数を相手する時に最も必要なのは継続連射性だと思うんだ。あの長ったらしい痛呪文と、間の悪さは致命的だ」(by似非大賢者様。なんかムカつく)


「呪文が無ければ、継続しての連射が可能……?」


考え込む彼女。これって…?

「そうだよね、うん、無詠唱で連射できれば…カッコイイかも」

ニヤリって、割り切りやがった。「でも出来るの……私に……」

 途端に下降。

 しょうがないなぁ「まぁ、無詠唱ってことは詠唱しちゃいけないって訳じゃないし、自分で気に入った好きなの唱えてもいいってことじゃん?」と僕。


 にぱって笑って「いいの?」

 何それ可愛い。

 もういいよ。かっちょいいの叫べばいいっじゃん。

「でも今は速射重視でお願いします」


「わかってるよ。でもさ、具体的にでもどうすればいいの?」


 似非大賢者サマが検索及び検証考察した結果を述べる。

「想像力なんだと思う。様はイメージする事。あの痛呪文も…」


「ああ、あれはないよね、痛いよね」

 無理しちゃって。


「たぶんだけど、最初に痛呪文唱えたヤツって人の迷惑も顧みず自分が気持ち良い、素直なイメージで魔法にダイレクトに直結した『思い』或るは『偏向』をド直球で表に出したんだと思うんだ」


「それって…」


「あの痛呪文も魔法の形を具体化する為の助けに過ぎない。君は何千回もあの炎の魔法を使ってきたんだろ。なら大丈夫。魔法の形は既にその(小さな)胸の中に(脛を黙って蹴られる)しっかりある。発動のトリガーと安全装置の意味も含めて魔法名なんかをキーにするのは必要だと思うけど。それで大丈夫。君ならやれる」

 と、似非大賢者様。知らんけど。偉そうに僕てば宣っちゃったけど。大丈夫だよね? ホント。知らんけど。


 彼女はジッと地面の一点を見つめて考え込んでいたが、顔をあげると。

「わかった。なんか出来そうな気がする。でもさ、言っておきたいんだけど、私は別に痛い呪文が好きな訳じゃないからね。勘違いしないでね。っていうか厨二断固拒絶派。否定じゃなくて拒絶だからソコんとこヨロシク」

 嬉しそうだ。彼女の顔は上気し、ニマニマ満ち溢れる。

 ちょっとかわいい。


 ……ねえ、気づいてる? あの魔法の炎、まるで手抜きの3Dアニメみたいだったって。そして炎にしては、たいして熱くなかった。燃焼に至る温度には達していなかった。アレ、偽物の炎だよ。


 定番の『属性・四元素』とかあるけど『火』って『水』や『土』と違って物質じゃなくて『現象=化学反応』の一形態に過ぎないし。

 だからこそ、無詠唱だけじゃない、意志の力だけで威力や形状など自由度は増すかもしれない。今は言わない。今言えば混乱するだけだから。言うほど簡単じゃないと思うから。今は連射性さえあればいい。


「良し、派手で、速度重視の連射、コントロールには気を付けて、狙うは顔」


「顔?」


「そう。『トランプの兵隊』の顔を目掛け、狙撃する。人って目に真直ぐ飛んでくる物には対処しにくいんだ。遠近感が狂う。それに目や鼻と口の間とか急所が多い。殺傷力は低くても恐怖を刷り込み戦意を奪う」


「エグ過ぎ、君、何者? 引くわよ」


 我に返る。確かに引くなコレ。

 こんなの、今まで考えたこともなかったし知識もなかったはずで……。確かYouTubeで観たことあるような……。


〈∮ 検索及び検証考察結果を報告。

 古武術系統縮地移動法を主体とした関係体術総体の……


 あーはいはい、そうだね、そう言うことにしとくよ。


「奴らはもう直ぐ来るよ。君は上に登って、魔法の準備をして。奴らが角を曲がって現れたら僕の合図で『トランプの兵隊』だけ狙って。魔法の詠唱を始めた奴から一人づつ確実に撃ち潰していく。冷静に、確実に。顔ね。


 『黒フードの男』は僕がやる。一撃入れて混乱させてから一緒に逃げよう。簡単には捕まえられないと躊躇してくれれば逃げるチャンスが広がる。君の魔法がキモだ。上から連射される魔弾は、それだけで恐慌を来たす」


「わかった。任せて。ハム君も気を付けて。あの『黒フードの男』只者じゃない気がする」


「何か知ってるのか?」


「……ごめん、ただの流れで。雰囲気出してみた」


「君、段々残念になるよね」


「ほめないで」


「悪役令嬢改め、残念令嬢だね」


 と言う訳で第二ラウンド開始だ。反撃だ。出来るのか? ううん、出来る出来ないじゃない。じゃなきゃ終わる。




―――――――――

お読み頂き、誠にありがとうございます。

よろしければ次話もお楽しみ頂ければ幸いです。


毎日更新しています。

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