第141話 80人凪チャレンジ

 ネオ・ポールスターの中心部へ突撃している、ケモ耳の北垣きたがきなぎ

 残り80人の彼女たちは、どこぞのアクションゲームよろしく、地下の常温核融合炉を目指す!


「「「よろしくお願いしまーす!」」」



 巫女服に刀を差した、金髪ショートヘアの狐耳2つに尻尾。

 

 最初は90人だったが、ビーチのMA(マニューバ・アーマー)10機を始めとした交戦で失われたのだ。

 日本の未来は、ニコニコしている童顔のクローン兵みたいな奴らに託された。


 同じ顔をしているだけあって、連携に長けて――


「痛い!」

「私がいるよ!?」


 ……今、後ろから斬られたり、踏まれたりしたが、気のせいだろう。


 文句を言いながらも、機動兵器のようなスピードで走り続け、地上に制限されない移動。


 瞬く間に、地下へ通じるブロックに辿り着いた。


 一斉に立ち止まり、後ろの大きな尻尾を揺らし、頭の上の狐耳2つを動かす。


「今、何人?」

「77人だと思う」

「また減った!」


 真っ暗な場所で、修学旅行の女子たちのよう。


 その後ろには、刀でくり抜かれた隔壁や、外に通じる穴。

 直線で、障害物を斬り捨てたようだ。


「どうしよう?」

「時間がない!」

「とにかく、突撃だ!」


「「「突撃! 突撃!」」」


 暗闇で美少女クローン兵たちが、ギラリと刀を光らせた。

 こわい。


 ブレるように消えて、すさまじいスピードで前進。


 その後には、踏み潰された凪。

 残り、75人に……。



 彼女たちは、常温核融合炉の気配をたどり、いくつかのグループに分かれた。

 それぞれに地下へ侵入。


 あるグループは、地下で採掘した後を辿り、ディゴン秘密教団との戦闘に。


 あるグループは、敵のMAと交戦。


 あるグループは当たりを引くも、アローヘッド作戦の味方とぶつからないために、底が見えないアクションゲームのようなステージを進む。


 刀を取り落とした凪は、両手でガシッと端をつかんだ。

 重力に従い、刀はどこまでも暗闇を落ちていく。


『ひえええええっ!?』


 両手と両足で、それぞれの端につかまった凪は、ちょうど橋のよう。

 後続の凪は、次々に上を走っていく。


 崖の幅が広がったことで、また1人が橋になり、5人ぐらいに。


 残りが走り抜けて、力尽きた彼女たちは崖の底へ落ちていく。


『あああああっ!』

『みょほおおおおっ!』

『あ! 普通に空を駆ければ――』

『ごめん! 刀、落とした』

『いつも落下させて、ごめんね~! 配管工のオジサン!』


 今わの際にも、楽しそうだ。


 残り、50人ほど。



 崖を越えた北垣凪のグループは、高速で走りつつ、飛び跳ね、錆びついたトロッコに飛び乗る。


 その勢いでレールを動き出したトロッコは、やがて終点にぶつかり、車両ごと落下していく。


『『『あああ~!』』』



 凪の集団は、賢明な捜索の末に、常温核融合炉を見つけた。


 数人による斬撃が、その施設を切り刻む。


「やった!」

「崖から落ちた甲斐があったね!」

「日本を救った!」


「ほら? 綺麗だねー!」


 文系のやり方で無力化された常温核融合炉は、蓄えられた物質による核融合で光が満ちていき――


 瞬時にバカ数人ごと、凍りついた。



 駆け付けた錬大路れんおおじみおは、振り抜いた刀を下げつつ、独白する。


「綺麗だね、じゃないわよ、このお馬鹿! あなたが日本を吹き飛ばして、どうするのよ!?」


 激怒した澪は、浄化の巫術ふじゅつを唱えた。

 本体の凪を捕まえ、立ち去る。


 彼女たちが暴れたことで、突入した部隊も辿り着く。



 ネスターの戦略目標は、無事に達成された。


 施設が凍り付いている、異常な光景に驚きつつも、必要な連絡。



 パワードスーツや歩兵たちが、ドッと疲れを感じる。


「終わったな!」

「ああ……」


「まだ油断するなよ? ここは敵地だ」



 AIのギャルソンも、人知れず消えた。


 アローヘッド作戦は成功――



 大地が揺れる。


 いや、メガフロートが振動しているのだ。


「な、何だ!?」

「ネスターは、海の上だろ?」


「お、おい! 海が……」


 兵士が指さしたほうで、海面が大きく盛り上がった。


 沿岸部に大きな波が押し寄せるも、彼らまでは届かず。

 全てを洗い流すように、優しく戻るだけ。



「何かが……浮上しているのか!?」

「本部! 現状を知らせ――」


 混乱する兵士たちに構わず、異常は進行する。


 

 称えよ。


 崇めよ。


 ディゴン秘密教団の悲願も、ついに達成されたのだ!


 歓喜する、『深海に住むもの』たち。



 海中に沈んでいた都市は、クトゥルーと共に浮上する。


 全てを押しのけ、あらゆる物体と、その価値観を塗り潰すように……。



 退避していた戦艦大和やまとの艦橋で、どよめき。


 真っ暗な空間では、室矢むろや重遠しげとおと話した司令、有泉ありいずみも緊張した顔だ。


「砲戦、用意! 狙える砲塔は、浮上している巨大な物体へ照準!」

「ハッ!」


 その命令はすぐに実行され、三連装砲塔と副砲の群れが、そちらを向き始める。


 山本やまもとと名乗った、茶髪ロングと茶色の瞳の美女も白い軍服のまま、初めて立ち上がった。


「この艦の砲撃は、どこまで通じるか……」


「室矢さんは、無理だったと……。何にせよ、この場にいる最大火力は我らでしょう」



 海底の一部が、いよいよ、姿を現した。

 見ていると不安になる建物が並ぶ、どこかの都市の遺跡。


 やがて、巨大なタコのような頭が見えてきた。

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