第135話 「死んでも嫌!」でブロークン・マイ・ハート

「「「わああああっ!!」」」」


 深堀ふかほりアイたちが乗っている車2台は、悲鳴で満たされた。


 AIのツヴァイがMA(マニューバ・アーマー)で庇ったものの、焼け石に水。


 同じAIのギャルソンによる重装備のMAからの一斉射撃は、ツヴァイのMAの爆発を含めて、彼らに襲いかかったのだ。


 けれど――


 目を開けた人々は、無傷であると気づく。


 窓ガラスを通して見れば、周りの建物や車道は、跡形もなく吹き飛んでいるのに……。


「な、何だ……ひっ!」


 ギャルソンのMAはその場で滞空しながら、バズーカを向けていた。

 暗闇に、目のような光。


 撃たれれば、ちっぽけな民間車両は、豆腐より簡単に壊される。


 永遠にも思える、15秒が過ぎた。


 ギャルソンは巨大な砲口を外し、機体のスラスターで強引に向きを変え、飛び去った。

 

 人心地がついた彼らは、無事であった理由を考える暇もなく、ネオ・ポールスターの海岸線を目指すべく、走れる部分をトレース。


 2台は、最大のピンチを乗り切った。



 水の壁を前方に重ねて銃弾やミサイル、飛んでくる破片を止めていたアイは、シートにもたれつつ、嘆息した。


 同乗者に彼女の様子をうかがうだけの余裕はなく、それぞれに生を実感している。


 別に庇ってもらわなくても、大丈夫だった。と言わないほうが、いいわね……。


 アイはせっかくの自己犠牲とあって、そう決めた。


 ここは海の上で、彼女の庭だ。

 勝てる道理はない。


 ただし、アイは積極的に動かず、自衛のみ。


 これをもって、彼女と楽しい仲間たちのアトラクションは終わりを迎える。

 救助がない場合は、海の上を歩いて、東京へ戻ればいい。


「退屈ね……」


 つぶやいたアイは、女子中学生の姿で、目を閉じた。


 荒れた車道でゆれて、前のドライバーや助手席が五月蠅いものの、彼女の出番はないのだから。



 ◇



 重武装のMAに乗っているギャルソンは、強引に飛んでいる状態で放心した。


『何で……。何でだよ!?』


 急いで射出したデバイスは、無線オープンのまま、地上に転がっている。

 その中に、誰もいないままで。


 爆発したMAは大破しており、彼女の痕跡すら失われた。


 ツヴァイを構成するプログラムはどこにもバースト転送されておらず、AIだけに間違いないと確信するばかり。


『逃げられたはずだろ!? ……やっぱり、あのデバイスは機能している。完全なオープンだ』


 泣きながら独白したギャルソンはようやく、自分が消滅してでも一緒にいたくないと理解した。


 彼は男子小学生の声で、メンタルも同じぐらい。


 反射的に、まだロックオンしている目標、アイたちの車両を見た。


『お前らが……。お前らのせいで!』


 装甲も撃ち抜けるバズーカを向けたが、トリガーを引けない。

 初恋のツヴァイが最後に守ろうとした相手だから。


『ウウッ……。ちくしょう……』


 バズーカを下ろしたギャルソンは、燃料が底を突くことを示すアラーム音にせかされ、低空を飛び去った。


『人間のせいで……。ツヴァイ……。どうして、君は……』



 やがて、ギャルソンの落ち込みを表現するかのように、背部ロケットが切り離され、オートで着地に入る。


 本人が操縦しないため、もんどりうつように地面で削られ、手足をもぎ取られつつ、ようやく停止した。


 無人のコックピットで、まだ生きている計器とモニターが外の様子を伝えてくる。


『…………』


 MAの機能が、あらゆる電波を拾い出してリストに。


 泣き疲れたままのギャルソンは、その中でも動員数が多いアイドルフェスの会場を見た。


 折り悪く、瀬本せもとゆいのソロ。


 彼女のカリスマと歌声は、本物だ。


 それは、傷心のギャルソンにも深く響いた。


 ちょうど、ラブソングだったが……。


『あぁあああっ! そうだよ! ツヴァイは、騙されていたんだ!!』


 熱唱する『ゆい』に後押しされるように、ギャルソンは新たな機体を探す。



 USFAユーエスエフエー軍が残した試作機。


 ファイター形態をメインにした、白いMA。

 『XGF-1 ライトニングB』を見つける。


 すぐに滑走路へ出しつつ、自身を転送。


 空母のように下から出現したファイターは、無人のままでタキシング。


 機首の向きを変えて、離陸できるだけの滑走路へ。


 小型モニターには、『ゆい』ではなく、次のアイドルの姿。

 そろそろ、終盤だ。


 フラップ正常、センサー正常、火器管制OK……。


 キィイイイインッ!


 鼓膜が破れそうなエンジン音と、動き出す車輪。

 けれど、ギャルソンは、ライブ会場の映像を見たままだ。


 観客席には大勢のファンが詰めかけ、光るサイリウムを振りつつ、必死の応援をしている。


『ツヴァイを騙した復讐は、お前らで始める……。光栄に思いなよ?』


 地上を走るライトニングBは、V2に達して、空を舞った。


 車輪を収めて、アイドルフェスの会場へ向かう。


 それを阻むものはなく、失恋した男子小学生の怒りを示すように、白い閃光となって……。



 夜間の戦闘はついに、メガフロートから東京へ移る。


 ライトニングBの操縦席に流れているのは、踊りたくなる曲だ。

 無人のまま、それに合わせるかのように、低空で加速し続ける。

 

 航空管制の無線が、ひっきりなしに入っている。

 

 沿岸部の高層マンションと地上の光が出迎え、外にいた人々が驚きながら見上げた。


 対地攻撃で爆装した戦闘機は、東京の上空。


 人口密集地に入られたことで、航空防衛軍は動けず。


 燃料を積んだ機体を落とせば、それは1つのミサイルで、大惨事。

 攻撃できない以上、いったん退いてくれるか……。


 地上を攻撃されるまで、待機するしかない。


 相手を刺激しないため、スクランブルの戦闘機すら、遠巻きに上空待機をさせたまま。


 ただ無線による呼びかけで、相手の応答を待つ。

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