第128話 血だまりビーチ上陸作戦

 夜のビーチ。


 人工的に作られており、不快に思える要素はない。


 沿岸部にも強い毒を持つ海洋生物はいるが、このネオ・ポールスターでは海中を含めて、リアルタイム監視。


 安全な生物だけが住むよう、半円を描いて設置された防護ネットも。


 今は閉鎖されているため、寄せては返す、波の音だけ。



 上空で、大きなラジコンが飛ぶ。


 よく見れば、小型の飛行機ぐらいで、軍用の無人航空機だと分かる。


『アウル1、敵影を捉えず! 上陸、どうぞ!!』


 星々の煌めきと月の灯りが、とても幻想的で――


 シュゴオオッ!


 すさまじい噴射音と共に、細長い物体が地面と水平に、あるいは、空で放物線を描きつつ、陸のほうへ飛んでいく。

 

 その数は、10を超えていた。


 着弾したミサイル群は小さな太陽となり、一時的に夜を忘れさせる。


 上空に打ち上げられた照明弾も、パラシュートで、ゆっくりと降下中だ。



 戦艦の大和やまとがAエリアの沿岸で右砲戦をしている、同時刻。


 島の反対側にあるBエリアでも、いよいよ戦端が開かれた。


 同じ方向へ動き続ける軍艦は、搭載されている火器で制圧中。

 それぞれの単装砲も、レーダーに基づき、精密射撃。


 着弾地点で、建物や地面が次々に吹き飛ぶ。



 砲撃のあとで、上陸用の舟艇。


 一定の間隔を空けつつ、全力でビーチを目指す。


『他の部隊に、後れを取るな!』

『ブラボー小隊、上陸を開始します!』


 盾代わりの金属板が前へ倒れて、水陸両用のMA(マニューバ・アーマー)が6本脚で低い姿勢のまま、ガシャガシャと前進する。


 いわゆる、多脚戦車だ。


『スパイダー2より、CPシーピーへ! 上陸したぜ! US機動海兵隊の恐ろしさを思い知らせてやる!!』


『司令本部よりスパイダー2へ! データリンクを確認した! そちらの目と耳だけが頼りだ。そのビーチで部隊の上陸が完了した後も、安全を確保せよ!』


『スパイダー2、了解! アウト』


 足を取られやすい砂浜。

 そこに、左右で3本ずつの長い脚を刺しつつ、スルスルと前進。


 距離を置いて、歩兵部隊やパワードスーツの部隊も。



 ビーチの中ほどで、いったん止まる。


 胴体は主力戦車を流用しており、その上部にあるセンサー類、カメラで周囲を偵察。


 自動でふたが開き、高性能のレンズの動きにより、ピントを合わせていく。

 ターレットで、左右に回転。


 内部の戦車兵が頭にかぶっているヘルメットのゴーグルに、暗視の映像を提供する。


 暗闇は、デジタル処理によってグリーンの映像だ。


「静かだな……。まったく、中隊長のランドルフ中佐にあんな屈辱的なことを……。俺たちが知るかっての! 日本のことは、日本でケツを拭け!」


『スパイダー2、聞こえているぞ! 査問が嫌なら、ムダ口を叩くな!!』


「へいへい……」


 辟易した車長は、無線のスイッチを動かした。


 同じ車両にいる部下が、戦闘配置のまま、話し出す。


『敵、いないな……』

『拍子抜けだ』


「心配するな! すぐに接敵する」


 車長は、自分たちを追い越し、前進する歩兵部隊を見た。


 映像では、友軍の表示だ。



 兵士は、このタイミングが一番ナーバス。

 交戦に入るまで、敵の位置が分からないのだ。


 別行動の味方と鉢合わせて、同士討ちになるケースも……。


 上陸した先遣隊。

 彼らは、50%を超える死亡率だ。


 文字通りにまとめて吹っ飛び、全滅することもザラ。


 その緊張は、尋常にあらず。

 理不尽の極みだった訓練と規律だけが、かろうじて、部隊行動を支える。



 反対側では、戦艦の大和が砲撃戦の真っ只中。


 ここからは見えない沿岸部からの応戦もあり、その音と振動が伝わってくるほど。


 車長が、雑談に加わる。


「俺としては、例の大和がこっちに誤射しないかが心配だよ! それで死んだら、たまったものじゃない」


『方角的には、こっちへ飛んできますよね……』


『今、どれぐらいですか?』


「ん? 少し、待て……。まだ1個小隊か……。チッ! ここに主力を集めたのはいいが、後続は何をやってんだ!」


 毒づいた車長は、後ろのカメラに切り替えた。


 他の舟艇が、ようやく接近中。


『ウチだけで、まだ良かったじゃないですか?』


『日本の海上防衛軍と共同だったら、どれだけ時間がかかるやら――』


 警報のアラーム音。


 それを聞いた車長は無線のスイッチを戻して、前方をチェック。


「お待ちかねの戦闘だぞ! セーフティ、解除!」


『準備、よし!』


 上空の無人航空機も、支援をスタート。


 そのデータにより補正。


『前方より、敵の歩兵……。もとい、パワードスーツ部隊が接近中! 数……20を超えています!!』


「へっ! どいつも旧式か……」


 戦闘機のようなグリップを握り、指でカバーを外した車長が、有効射程を確かめる――


 後ろで、金属が叩き潰される音。


 急いで後部カメラを確認すれば、海中から出現したと思われる巨大な怪物が、距離を置いて2体。


 見えている上半身は、どちらも人型。


 その大きさは、ゆうに6m。


 クトゥルーの従属神だ。


 下から叩かれたのか、小さな強襲揚陸艦が3mの空中浮遊の後で、海面に叩きつけられた。


 巨大なこぶしの振り下ろしで、その艦は中央で大きく凹みながら轟沈。


 もう1匹の化け物も、海兵隊を詰め込んだ艦艇を蹴り飛ばす。


 艦艇は即席のサッカーボールとして海面を跳ねつつ、どこかへ飛んで行った。


 その光景を見た彼は唖然とするも、部下の叫びで、正気に戻る。


『車長! 前方より、敵が来ます!!』


「分かっている! 食らえ!」


 FCS(火器管制)は、敵を捉えている。


 戦闘機とよく似た円の中央に、敵を据えた。


 トリガー、オン!


 バババと重機関銃がうなり、最前列にいた1体は、あっさりと吹き飛んだ。


 倒れたまま、動かない。


「ヘッ! 見掛け倒しか……。これなら――」


 倒れた機体は、周囲を巻き込んで、自爆した。


「くそっ! 特攻か!? 奴らを接近させるな! ……後続は、まだか!?」


 上陸作戦は、まだ始まったばかり。


 他の部隊と合流できなければ、数で押し潰されるだろう。



 生身とパワードスーツの海兵隊も、横一列で、必死に銃撃。


「いぇええええええっ!」

「炭酸飲料とポップコーンが、欲しいぃいいっ!」

「俺のサインが欲しければ、一列に並べよ、ボケええええっ!」

「昼なら、日光浴ができたのによおおおっ!」


 言いながらも、マガジンや銃身の交換は、流れるような動き。


 夜の花火として、弾幕を形成する。



「グレネード!」


 小銃の下に取りつけている、短い筒のトリガーを引く。


 ポンッ!


 放物線を描いたグレネードは、敵のパワードスーツ部隊の爆発で、採点された。



「迫撃砲、撃つぞおおおっ!」


 シュポン


 わりと間抜けな音を立てて、上を向いた筒から発射。


 着弾地点にいたパワードスーツの奴らは、戦隊ヒーローみたいに、ぶっ飛ぶ。


 ポンポン♪ と、穴に入れた物体が、どんどん射出されていく。


 だが、数が多い。


 倒しても倒しても、それを乗り越え、迫ってくる。



 ちなみに、このビーチの名前は、“ひだまりビーチ” となっていた。

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