第127話 出てこなければ、やられなかった

 ヴィ――! ヴィ――!


『本艦は、敵に乗り込まれている! 警備隊はただちに、艦内の探索を行え! 各員は白兵戦マニュアルに従い、武器庫で受領せよ! これは訓練ではない! 繰り返す。これは訓練ではない!!』


 大和やまとの艦内に、怒鳴り声が響いた。


 俺はそれを聞きながら、案内の兵士についていき、階段やエレベーターを乗り継ぐ。


 登山をしている気分になった頃、ようやく艦橋へ。


 真っ暗でも豪華と分かる制服ばかりで、監視員を除き、一斉に見てきた。


 そこに、若い女の声。


「彼は問題ありません……。今は、時間が最大の敵です!」


 長い茶髪と、茶色の瞳。


 白い軍服のレディース用といった彼女だけ、このブリッジで座っている。


 司令らしき男も立っているのに。


 そう思っていたら、案内の兵士が敬礼と、俺の紹介。


 首肯した司令は、こちらを見た。


「あなたが室矢むろや重遠しげとおさん、でしょうか?」


「はい」


 制帽を脱いだ彼は、戸惑った表情だ。


「ここの司令である、有泉ありいずみです……。私の部下を救っていただいたようで、お礼申し上げます」


「いえ」


 有泉は、恐る恐る、尋ねてきた。


「失礼ですが、そのお名前は『室矢家の初代当主』と記憶しております」


「はい」


 俺の返事に、彼は踏み込んでくる。


「寡聞にして存じませんが、あなたは『重遠』を襲名したので?」


 返事に困っていたら、茶髪ロングの美女が立ち上がった。


「世間話をしている場合ではありません! 海中から乗り込まれている以上、すみやかに反撃しなければ」


「まったく、その通りですな……」


 制帽を被り直した有泉は、俺のほうを向いた。


「では、室矢さん! あなたの方針と、我々がすべきことを教えてもらいたいのですが? 今はネスターの反対側へ回り込み、左砲戦をする予定」


「海中を制圧しなければ、下から突き上げられる! 俺が戦いますので、先ほどの魚人間たちの乗り込みに注意しつつ、いったん離れてください」


 すると、有泉を始めとした面々は、刺々しい雰囲気に。


「もう、お役御免と? 我々の打撃力は、まだ失われておりません」


 言い方を変える。


「砲撃戦は終わりました。反対側に上陸した部隊ごと、薙ぎ払うつもりですか? あとは、海兵隊の仕事です。次に大和が砲撃をする時は、このネオ・ポールスターを沈める勢いでの全力。……違いますか?」


 息を吐いた有泉は、制帽の向きを変えた。


「いえ。おっしゃる通りですな……。失礼! 大和は対潜戦たいせんせんが不十分ゆえ、避けられるのなら、避けるべきです。作戦参謀! 現状は?」


「ハッ! 制圧したAエリアから部隊が上陸中。Bエリアでも、上陸した部隊がまだ戦っているようです。C、Dエリアは順調であるものの、どちらも部隊の数が少なく、中心部まで時間がかかります。第二波のMA(マニューバ・アーマー)部隊は360秒後に出撃予定!」


 それを聞いた有泉は、俺のほうを見た。


「大和は後ろに下がり、必要となれば、独自に動きます! あなたは?」


「第二波のMAに巻き込まれないよう、別の敵を叩きます」


「……別とは?」


 俺が立っている艦橋の下を指さしたら、有泉は察したようだ。


 冗談めかして、話す。


「酸素タンクを貸せますが?」


「いえ。お気持ちだけで……。海中の奴らは、ネスターを離れれば、しつこくないはず。それと……」


「それと?」


「Bエリアには、俺とは別にがいますから……。大和が無理に回り込む必要はありません」


 有泉は、茶髪の美女を見た。


 彼女は大きくうなずき、Bエリアのほうを向いた。


「そうですね……。あちらは問題ないでしょう! 奴らも、この艦の砲撃を食らいたくないから、逃げては来ないかと」


「あなたが言うのなら……」


 有泉は不思議な言い回しで、納得した。


 その美女を見ながら、質問する。


「ところで、この人は?」


 俺のほうを見た美女は、自己紹介する。


「私は、やま! ……山本やまもとです」


「室矢です……。そろそろ、海中に飛び込みます」


 真っ暗な艦橋にいる一同が、敬礼した。


 代表で、司令の有泉。


「ご武運を!」


「ありがとう。そちらも!」


 艦橋から外に出るドアを開き、外階段で身を投げつつ、空中を蹴る。


 瞬く間に、下へ加速しつつ、真っ暗な海面に吸い込まれた。


 飛び込みに独特の音を聞きつつも、左腰から抜刀。


『来いよ、魚人間たち! ここからは、競争だ!!』


 自身を空気の膜で包まず、時速400kmを超えるスピードで突き進む。


 慌てたように、海中の『深海に住むもの』がついてきた。



 地球上にある宇宙。


 そうとしか表現できない場所で、彼らの本命へ向かっていく。


『まさか、ここの海底がだったとはな!』


 地上よりも俊敏に襲ってきた魚人間をすれ違いざまに切り捨てつつ、海中を飛び続ける。


 やがて、古代に沈んだと思しき、人類とは違う建築物が……。


『上位種を出し尽くしたのは、失敗だったな!? お前は、そこまで戦闘が得意なタイプではないだろうに!』


 一列から、直前で左右に分かれた、海中の立体攻撃。


 それも、俺の動きを止められず。


 連携は、どれも空振り。



『太平洋の隅っこで、大人しく沈んでいれば、良かったんだよ!』


 防衛戦力は、ほとんどない。


 本当に間抜けだな、こいつは……。

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