第125話 うちーかた、始め!

 日本中のアイドルが集まったと思えるほどの、賑やかさ。


 様々な光で照らされ、体を震わせるような重低音が鳴り響くドーム会場。


 戦艦の大和やまとが日本の趨勢すうせいを賭けた決戦に挑もうとする、その直前に、満員の観客席があるステージの空間に司会の声が響く。


『では、――回のアイドルフェスを開催いたします!!』


 ワアアァアアッ!


 集まった観客たちの叫びが、それに応えた。



 時を同じくして、東京の沖合いでも――


「予定時刻です! 大和、ネスターに接近中! 右砲戦のまま、座礁しないギリギリの距離で、沿岸部を通りすぎるコース!」


「各部隊は、衛星からの映像で異常なし」


「第一波の上陸部隊は大和の砲撃に合わせつつも、支援の艦砲射撃とミサイル攻撃の後で突入します」


「第二波のMA(マニューバ・アーマー)部隊、ブースターの再確認を始めろ!」


 アローヘッド作戦が、開始された。



 ◇



 ネオ・ポールスターの全てを動かすAI、ギャルソンは、カメラに映った画像に、あるはずがない目を見張った。


 男子小学生ぐらいの声で、つぶやく。


『な、何だ、これ……』


 そこには、真っ暗な海の上に浮かぶ、もう1つの要塞。


 超弩級戦艦の姿が……。


 46cmの口径による三連装砲塔が、3つ。

 前に2基、後ろに1基。


 今は全て右側を向いており、最大火力を発揮する。


 三連の砲塔はそれぞれ、微妙に違う角度だ。

 これは面制圧をする、散布界のため。


 使用するのは、軽自動車と思われるほど、巨大な砲弾。


 15.5cmの三連装砲塔も、4基。

 これに加えて、対空迎撃の高角砲、機銃も多数。


 各所の装甲は、重要区画をメインに、様々なところで分厚いものが。


 その巨体を揺らし、ゆっくりと接近してくる大和。

 右砲戦の構えであることは、見れば分かる。


 もはや天を目指している艦橋は、遠くからでも目立つ。


 データ検索で正体を突き止めたギャルソンは、笑い転げた。


『ハハハハ! あ、あんな骨董品を引っ張り出したの!? このネスターの防御を突破するには、最適解だけどさあ……』


 しかし、他のエリアに出現した軍艦を見て、舌打ち。


『チッ! 同時侵攻か……。自動迎撃で……。いずれは突破されるね、これ?』


 思案するギャルソンは、すぐに結論を出す。


『まあ、いいか! ここを制圧されても、僕には関係ない。それより、この戦艦、大和だよ! ぜひ、沈めておきたい』


 他のエリアを自動にしたうえで、本人は大和との対決を選んだ。


 完全に、ゲーム感覚。


 沿岸部に突き出ている巨大なキャノンが、最初の一発。


 狙いをつけても、レーダーと連動させなければ、直撃は難しい。


 側面をさらしている大和とは違う場所に、大きな水柱。



 ――大和の艦橋


「敵からの攻撃を確認! 実弾です!!」


「攻撃、はじめ! 砲術長! 目標、ネスターの沿岸部にある軍事施設」

「最終調整、始めます」


「主砲、発射警報!」


 ヴィー! ヴィー! ヴィー! ヴィー!


「射撃、用意よし!」


「うちーかた、始め!」

「うちーかた、始め!」


 ドン! ドドン! ドンドン!


 大和の主砲が火を噴き、その度に、反対側へ揺れる艦体。


 すさまじい音を立てて、砲弾の雨が横殴りに降り注ぐ。


 着弾すれば、厚いコンクリだろうと、現代の複合装甲だろうと、木っ端みじんに。

 その周囲も、衝撃波や飛び散った破片による破壊だ。


 弾着観測もへったくれもない、目視できる距離。


 見る見るうちに、ネスターの沿岸部は瓦礫がれきと化していく。


「効果、大! 砲撃を続けます!」


 艦橋では、見張り員が様々な方角を向いたまま、双眼鏡に……。


 いっぽう、主砲の中では巨大な砲弾がオートメーションで運ばれ、次々に中へ入っていく。


 その合間には、副砲が光り続けて、装填中のフォローを行う。


 ゆっくりと進む大和は、その火力を見せつける。



 耳が潰れそうな音。


 艦体が揺れ、直撃と分かった。


『被害、軽微!』

『機関部。いつでも、全力を出せます!』


「この大和を舐めるなよ?」

「敵、発砲! 狙いは艦橋です!!」


 高層ビルのような、艦橋。


 今度は精密射撃のように、司令部がある部分に――


 その前にあるエネルギーシールドにぶつかり、消滅した。


 全く驚かずに、司令が叫ぶ。


「今の砲撃をした箇所へ、!」

「了解! 第三砲塔、特別射撃、用意……てーっ!!」


 通り過ぎかけていた場所へ、主砲の1つが向けられ、連続で発砲。


 その砲弾は、飛び出した後でビームのような状態になり、地面と水平の軌道へ。


 SFアニメのように障害物をえぐり抜き、精密射撃をした施設ごと、爆炎を上げた。


「命中! 対象は沈黙しました!」



 かつて、室矢むろや重遠しげとおは沖縄で戦った。


 その時に、魔法師マギクスと一体化して、超常的なパワーを発揮する特型駆逐艦を見たのだ。


 ならば、その代表たる大和にも、同じ仕組みがあるだろう。


 

 沿岸部からの砲撃、ミサイル攻撃が、激しくなった。


 装甲とエネルギーシールドで受ける戦艦は、お返しとばかりに、その砲塔で反撃する。

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