第123話 サバイバーズ(後編)

 先頭の兵士は、アサルトライフルの銃口を向けたまま。


「日本人ですか?」


 首を横に振った深堀ふかほりアイは、動かずに応じる。


「日本に住所があるわ……。これ以上の詰問は、無意味だと思わないかしら?」


「質問に答えてください! ネスターはシステム的に避難活動が行われ、残った人はいないはず」


 緊張した空気の中で、アイの返事。


「海の中を通ってきたの! をしていたのだけど……。ずいぶんと、派手な戦闘だったわね?」


 ため息を吐いた先頭は、すぐに撃てる姿勢のまま、銃口を下げた。


「申し訳ありませんが、身体検査と持ち物チェックにご協力をお願いいたします!」


「いいわよ?」


 それを受けて、別の兵士が歩み寄り、左右で水平にした腕の下からボディラインをなぞっていく。


 少女だからと遠慮はなく、両足もしっかりと……。


「クリア!」


 安全だと宣言され、ようやく射撃姿勢を崩した。


 小銃のセーフティを確認して、スリングで肩に吊る。


「失礼しました! あなたも『本土へ戻る』という目的で、よろしいでしょうか?」


「まあ、そうね……」


 生返事のアイに、特殊部隊のリーダーは命じる。


「では、我々と行動を共にしてもらいます! 今の我々に、女性の隊員はいませんが……」


「お構いなく……。これから、どうするつもり?」


 答える義理はないものの、隊長としても、自分の考えを整理したい。


「ゴムボートはありますが、このまま出れば、狙い撃ちです」


「でしょうね? 私、ここのマスター権限がある端末を見つけたのだけど」

「本当ですか!? ……どこで、それを?」


 いぶかしげな目つきで、隊長は尋ねるものの――


「でかした、お嬢ちゃん! それがあれば……。隊長さん! とにかく、そこへ行きませんか? ここは、歩いて回るには広すぎる」


 システムエンジニアの男が、割り込んできた。


 隊長は、罠ではないか? と思うが、もし本当なら大手柄だ。


「分かりました……。よし、移動するぞ!」



 アイはAIのツヴァイに協力してもらい、ここのシステムを管理しているAI、ギャルソンに気づかれないよう、最寄りのレストルームへ案内。


 観光用らしく、綺麗で豪勢だ。


 軽食やドリンクの自販機もあり、思い思いにソファーなどで休む。


「やれやれ……」

「ようやく、人心地だな」


 制服の警官も、九死に一生を得て、疲労困憊。


「ここの警察署へ立ち寄るのは……無理ですよね?」

「そうだな……」



 沿岸警備隊のリーダーと、その副官。


 案内人のアイ。


 システム分析の専門家であるエンジニアで、話し合う。



 アイは、これだけの大人を相手に、堂々と話す。


「私としては……。あなた達に、すぐ帰ってもらいたいのだけど?」


「これは大人の仕事だ! 君こそ、安全な場所に隠れていたまえ! ……あとで、必ず迎えに来るから」


 特殊部隊のリーダーが恫喝したものの、アイは動じない。


「残念だけど……。もうすぐ、USFAユーエスエフエーと防衛軍が合同で海上演習をするの! このレストルームも、吹き飛ばされるわよ?」


「何だって!?」

「冗談だろ?」


 アイは、騒ぎ出した面々にも聞こえるよう、説明する。


「さっきの発言で分かるように、このネスターで生存者はいない……。おそらくは、あなた達も『死亡している』という前提で、作戦立案をしているわよ?」


 パニックになりかけた室内で、特殊部隊のリーダーが叫ぶ。


「大丈夫だ! 我々が生きていることを外部へ連絡すれば、それで済む!! ……ご協力はありがたいが、ムダに混乱させる発言は控えてもらいたい」


 怒りを押し殺した台詞に、アイは同意する。


「ええ、分かったわ……。マスター権限がある端末ね? 案内するけど……。人数は?」


「……全員で行こう! ここで分断されたら、目も当てられない」



 ――システム管理室の1つ


 AIのツヴァイが許可することで、あっさりと中へ入れた。


「じゃ、作業を始めます!」


 システムエンジニアの男は、持ってきたノートパソコンやマニュアルを取り出す。


 カタカタと、キーボードを弄っていたが――


「外部と通信できない……。隊長さん! この子が言っていたようにマスター権限をもらえましたが、回線は繋がっていません」


「何だと!?」


 血相を変えたリーダーが、エンジニアの作業場へ駆け寄った。


「無線で……何とかできないか?」


「無茶、言わないでください! 街中で無料スポットを探しているのとは、訳が違うんですよ!? ここに入っている企業や軍に電波塔はありますが……。どれも完全閉鎖です! ……やっぱり、ダメだ! その場所まで行って動かせば、あるいは――」


「くそっ! なら、最寄りの通信施設へ出向いて、そこから……。最悪、外へ出て、狼煙のろしを上げるさ!」


 ガタンッ


 ブウウンッ


 機械的な音が、響き渡った。


 システム管理室の灯りが落ちて、モニターも。


 ガコンッ


 オレンジ色の非常灯へ切り替わった。


「おい! 何があった!?」


「待ってください……。War footing……。戦時体制!? あー。これは……。隊長さん! すぐ逃げ出したほうが、良さそうです」


 エンジニアの男は、戦闘モードになったことで、今のマスター権限もほぼ無意味になったことを告げた。


 仕方なく、非常用の出口を見つけて、手動でグルグルと、ハンドルを回していく。


 制服の警官2人が、その役割だ。


「何で……手動なんだよ!」

「非常用ですから」


 回せば、脱出するためのドアが、ギギギと、横にズレていく。



 彼らも、合同演習の的だ。


 砲撃、あるいは爆撃が始まる前に、脱出できるのか!?

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