第122話 サバイバーズ(前編)
ネオ・ポールスターで海底へ続く、採掘施設。
閉鎖されているはずの場所は、ダンスマウス・インダストリーの敷地だ。
フィオーレたちが、ドタバタしていた場所でもある。
その地下には――
魚人間たちが大勢いて、礼拝堂のように整えられた空間。
多少の灯りはあっても薄暗く、地面の凸凹で
鼻が曲がりそうなほど、魚臭い。
いっぽう、反戦団体のリーダーである女、パーキは、気丈だ。
このままでは、一方的に処刑されるだろう。
とにかく、交渉しなければ……。
「あなた達は?」
連行したほうのリーダー格が、パーキを見た。
『我々は、偉大なるクトゥルー様を崇める教団だ。ディゴン秘密教団とも言う』
「そう……。私たちは、反戦団体の『ソリジャート・ポスト』というの! これでも世界中にシンパがいて、政治力もある」
『何を言いたい?』
「取引をしましょう! 私たちは、あなた方の権利を認めさせる!! もう、こんな場所に隠れる必要はないわ! 何なら、このネオ・ポールスターをあなた方の領土……。いえ、自治区とするよう、日本政府に交渉してもいい! だから――」
勢い込んで説得していたパーキに、周りの魚人間たちが笑い出す。
ムッとするも、彼女は笑いがおさまるまで、耐える。
同じく失笑したリーダー格が、説明する。
『その必要はない……。ククク……。要するに、協力したいのだな? 笑って、すまなかった。お前らも黙れ!』
地下の礼拝堂が、静かになった。
ここぞとばかりに、パーキは畳みかける。
「ええ、そうよ! 外部に通信ができる場所へ連れていってくれれば、すぐにでも、スポンサーに伝えるわ!」
『いらん!』
にべもない否定で、パーキは絶句した。
けれど、リーダー格は優しい口調のまま、話を続ける。
『ディゴン秘密教団に入るかどうか……。そういうことだ! 諸君には、2つの選択肢を与える! ちょうど不足していた物があってな? それはそうと、入信の儀式は……我々と交わり、子孫をなすことだ』
最後のセリフで、パーキたちは思わず、周囲を見る。
魚の頭をした人間が、見つめ返した。
たまらずに、1人の男が叫び出す。
「お、俺は、嫌だぜ!? こんな奴らとファッ〇するなんて――」
次の瞬間に、その男は口から吐き出そうと、かがみ込んだ。
『ゴボッ! ゴボボボ……』
なぜか、溺れているような音だ。
ここは海底だろうが、海の中にあらず。
他の面々は自分の喉をさわるが、異常なし。
『ボボボ……ボ……』
いっぽう、倒れ込んだ男は、何もない場所で溺れ死んだ。
目を見張ったままの反戦団体に、リーダー格が教える。
『我々を否定すれば、こうなる……。そうそう! 言い忘れていたが、貴様らと似た姿の同胞に相手をさせる! で、どうするね?』
それを聞いた人々は、助かるために応じた人間と、拒否した人間に分かれた。
リーダー格の『深海に住むもの』は、拒否した人間を違うグループにしたうえで、新たな同胞を地上へ連れて行かせた。
◇
ネオ・ポールスターの一角に、数隻のゴムボートが辿り着いた。
ドドドド!
控え目なエンジン音が、切られる。
ぎゅうぎゅう詰めで乗っていた面々は、急いで上陸する。
(早くしろ!)
(本土へ戻ったほうが……)
(あの弾幕を見ただろ? こっちに向かわなければ、撃たれていた!)
(何で、こんなことに……)
警官の制服。
沿岸警備隊の特殊部隊や、一般の隊員。
技術者と思われる私服。
種々雑多という感じで、腰のホルスターに拳銃が見えている人や肩にかけたスリングで小銃を持った兵士、オドオドしているだけの民間人。
彼らは、ネオ・ポールスターの査察に来た警察と沿岸警備隊、それにシステム会社のエンジニアだ。
運よく強襲上陸用のゴムボートに搭乗して、こちらへ乗りつけた次第。
こういった状況に慣れている沿岸警備隊の特殊部隊が、小銃を構えたまま、フォーメーションで動く。
先頭の兵士が、“止まれ” のハンドサイン。
ピタッと停止した部隊は、それぞれが担当する方向へ銃口を向けたまま。
「誰だ? 我々は、沿岸警備隊だ! 出てこい! ……We are the Coast Guard. Come out!(沿岸警備隊だ。出てこい!)」
姿を現したのは――
ふんわりした、銀髪のショートヘア。
丸みを帯びた子供らしい顔に、紫の瞳。
小学生に思えるが、その雰囲気から中学生だろう。
先頭の兵士が小銃を向けたままで、話す。
「Who is it?(誰ですか?)」
「日本語でいいわ! 私は、アイ……。
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