第121話 日本最大の火力と装甲

 煌びやかな制服である参謀たち。


 彼らは、作戦テーブルを囲んでいる。


 学ランのような姿だが、ここは海上防衛軍の中枢。


「陸軍にだけ……良い格好をさせるわけにはいかない」


 大将のような人物が重々しく、結論を述べた。


 それに対して、居並ぶ将校たちはうなずく。


「はい……。海は、我々のフィールドです」

「我々は国を救うため、その犠牲を厭いません」


「何を出しますか?」


 誰かが尋ねたことで、一斉に考え込む上級将校たち。


「火力と装甲がいる……。分かってはいるが……」

「そうだな。国賊の汚名となりそうな作戦で、アレを出すわけには……」


「今のミサイル艦は、至近弾でも沈みかねない…」

「艦を連ねれば、目立ちすぎる」


「まさか、現代でこのような事態に……」

「機動戦を重視するのも、考えものか」


 ここで場違いな、若い女の声。


「別に、構いませんよ? 私を出してください」


 彼女は壁際の椅子に座ったまま、物憂げ。


 利発そうで、長い茶髪と同じ色の瞳だ。 

 年齢は新社会人ぐらいだが、座っていても高身長だと分かる。


 白をベースにした軍服にも見える、独自のデザインの制服。


 返事がないことで、ガタッと立ち上がった。


 全員の注目を浴びながら、叫ぶ。


「いなければ、私1人でも構いません!」


「お待ちください……。どうするのかは、まだ決めておりませぬ」


 この場で一番偉そうな人物が再び、発言した。


 コンコンコン


『報告です!』


「入れ!」


『失礼します!』


 ガチャッ


 海軍の制服を着た士官が敬礼した後で、告げる。


「報告します! USFAユーエスエフエー軍から、「近く、海上の合同演習をしたい」との申し出が――」



 ◇



『日本政府は、USとの合同演習を決定しました! あまりに急で各方面から反対や疑問の声が上がっているものの、防衛省は何の反応もなく――』


 東京の沖合いを含めたエリアで、海上の軍事演習。


 参加する部隊の中で、一際目立つのは――


 大和やまと型一番艦の大和。


 その重装甲と大火力。


 まさに、ネオ・ポールスターを制圧する先鋒にして、決戦兵器だ。



 軍港では、急ピッチの準備。


 冗談のようなサイズの砲弾や、それ以外の弾薬が、積み込まれていく。


「いいか? 何回も往復することはできない! だから、接近した状態でのワンパス! このわずかな時間に、ありたっけの砲弾を叩きこむ!!」


 回避を捨てた、至近距離での殴り合い。


 艦橋に当たれば、最悪の事態もあり得る。


 しかし、この号砲は、戦局を変えるだろう。


 その一方で――


「はんたーい! 大和の出航を許すな!!」

「許すなー!」


 反戦団体が、デモ活動。


 大和が出ていく進路上に船舶を並べて、ひたすらに叫んでいる。


 基地の周辺でも、同様だ。



 ただ、今回は少しばかり、勝手が違った。


 ネオ・ポールスターへの査察で多くの犠牲を出した警視庁と沿岸警備隊は、ガチギレ中。


「令状です……。テロ等準備罪の疑いで、こちらの捜索、ならびに、あなた方の身柄を拘束します」


 先頭の刑事が令状を示した後で、唖然とする人を押しのけ、どんどん入っていく。



 進路を塞いでいた反戦団体の船上で、フラッシュバンが炸裂する。


 ボンッ!


「沿岸警備隊だ!」

「両手を上げて、ひざまずけ!」


 特殊部隊の格好をした面々が、どんどん乗り込んできた。


 近くにいた男は、それを防ぐために、立ち塞がる。


「な、何だ、あんたら――」

 パパパン!


 ドサッ


「動くな!」



 少し離れていた船では、いきなり制圧されたことで、泡を食った。


 無線で、この暴挙を訴えるべく――


「は? 事務所や倉庫が、一斉に検挙された!? ど、どういうこと?」


 情報を得たリーダーの女は、困惑するばかり。


 日本がこんな対応をするとは、想定外だ。


 けれど、すぐに気を取り直す。


「この映像を流せば、世論を味方に――」

「パーキさん! 沿岸警備隊が、こちらに接近中!!」


 その船のリーダーは、退避することを選ぶ。


「仕方ないわ! ネスターへ逃げ込み、夜に紛れて、遠くの港を目指しましょう!」


 残った船舶がそれに続き、沿岸警備隊は深追いを止めた。



 ――深夜


 ネオ・ポールスターの港に潜んでいた、反戦団体。


 適当に休んでいた面々が、集まってきた。


 普段とは違い、周囲は真っ暗。


 なし崩しで彼らのリーダーになった女、パーキが宣言する。


「とにかく、ここから離れて――」

『それは困るな? お前たちが行くのは、我々の礼拝堂だ』


 くぐもった男の声。


 そちらを見れば、魚の頭をした人間がいた。


 『深海に住むもの』と呼ばれている、クトゥルーを信奉する者たち。


 ぐるりと囲むように、100人ほど。


 とっさに拳銃を抜いた人間もいたが――


 ザバァアアッ


 近くの海が盛り上がり、恐竜を人型にしたような異形が、姿を現した。


 6mほどの巨体は、ジロリと、反戦団体のメンバーを見下ろす。


 クトゥルーの従属神と呼ばれる上位種だ。


「あ、あ……」


 パアンッ!


 その巨体を見ていた男が唐突に、自分の頭を撃った。


 ガシャリと銃を落としつつ、本人も崩れ落ちる。


 彼は、幸せだった。


 これ以上の冒涜的な真実を知らないまま、人生を終えたのだから……。



 残った面々は『深海に住むもの』に囲まれ、いずこかへ連れ去られた。


 戦う意志すら持てない存在に出会えて、さぞや喜んでいるだろう。

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