最終章 東京が停止する日

第119話 迎撃専用の海上プラットホーム

 芸能プロがこぞって参加する、アイドルフェス。


 その開催が、近づいてきた。


 ディアーリマ芸能プロダクションの広い会議室に、管理職の声が響く。


『以上をもって、フェスの説明を終了します! エントリーした方々は、やむを得ない事情を除き、必ず出てくださいね? これも契約ですから、違約金の支払いに発展する恐れがあります! 各マネージャーも同様です! 引き続き、よろしくお願いいたします』


 その言葉で、説明が終わった。


 受験の予備校を思わせる、長机が規則正しく並ぶ空間で、ガタガタと椅子が動く音。


「終わった……」

「とりあえず、カフェに行こ?」


「出番、いつ?」

「……うわ! かなり後だ」

「ずっと、衣装で待ち? 勘弁してよー!」


「空いていたら、練習しよ!」

「うん! 目指せ、入賞!」


 義理で、参加した。


 ブレイクを狙っている。


 それぞれに、全く違う。


 プリムラの3人は、何とも言えない雰囲気だ。


 川奈野かわなのまどかは、ふんすっ! と、やる気に満ちた顔。

 けれど、室矢むろやカレナと槇島まきしま皐月さつきは、どうでもいい感じ。


「お、お疲れ様でーす!」

「失礼します……」


 周りのアイドルは、チラッとだけ見るか、隣接していたら社交辞令の挨拶。


 今の『まどか』は押しも押されぬ、売れっ子の1人。

 さらに、ここの社長と、看板である『瀬本せもとゆい』のお気に入りだ。


 その『ゆい』が、パタパタと小走り。


「ね? まどかはやっぱり、入賞狙い? 私が話しておこうか?」


「い、いえ! そこまでは……」


 焦った『まどか』は、すぐに否定する。


 このイベントでは、大きな金が動く。

 だからこそ、入賞するグループは決まっている。


 むろん、SNSによる、思わぬブレイクも!


 予想外のヒットは、今後のために拾うが……。


 人気タレントの『ゆい』が口利きをすれば、その入賞する1つにねじ込むぐらいは可能だ。

 カレナと皐月がいれば、その理由も十分!


 注目が集まる大賞はダメでも、下のランクインなら……。


 でも、記念ライブにして、そのまま引退する。という『まどか』には、ありがた迷惑。


「そお? うん、分かった!」


 不思議そうな顔の『ゆい』は、すぐに納得した。



 ◇



 ウウ――ッ!


『ただいま、非常事態が発生しました! 指示に従い、落ち着いて、海上への避難をお願いいたします!』


 そのアナウンスは、あらゆる場所に響いた。


 全てのモニター、スピーカーが、避難を呼びかけている。


 観光地から軍事施設まで。

 東京の沖合いで、新時代を担っていた象徴。


 海上プラットホームのネオ・ポールスターは、システムの判断に基づき、最優先の避難指示を出した。

 それに伴い、軍事施設にすら、アクセスや行動の制限。

 

 パニックによる暴動と踏み潰しを防ぐためか、避難する原因は全く言わない。

 最上位のアラートを表示して、鳴らすだけ。


 滞在していた人々は自分たちの船やヘリ、あるいは、本土から駆け付けた船舶で、順番に退避。



 ――数日後


 ネオ・ポールスターは、自閉症モードを続けている。

 外部からの通信を受け付けず、遠隔で監視カメラを見ることも不可能。


 キーボードを叩き、ハッキングを仕掛けていた男が、両手を止めた。


「ダメです! 現地へ行って、物理的に解除しないと……」


 上役らしい男は、後ろで覗き込んだまま、ため息を吐いた。


「そうか……。仕方ない! こちらの機密を渡す形になるが、警察に通報するか」


 ネスターを閉鎖したままでは、時間が経つほど、機会損失になる。


 それよりも、警察を巻き込み、現地へ出向いたほうがいい。



 通報を受けた警察は、沿岸警備隊と連携して、ネスターへ上陸することに。


 複数の船舶で、接近するも――


 ゴオオォオオンッ


 ゴンゴンゴン


 ガコンッ


「何だ……あれ?」

「おい、冗談だろ!?」


 そちらを見ていたクルーや人々は、思わず叫んだ。


 大戦中を思わせる砲塔や、艦と同じ単装砲。


 バルカン砲の銃身。


 ミサイルを発射しそうな物体。


 沿岸部のオブジェクトが流れるように動き、戦争中のような迎撃システムを築いた。


 満員の客席のように、それらが船団を向く。


「取り舵いっぱい――」

ドン! ドンドンドン!


 回避行動の前に、砲弾が飛んできた。


 ズシャアアアッ!


 水柱が、いくつも。


 ブゥウウウッ!


 バルカン砲は一瞬で、船体をチーズより酷い状態へ。


 さらに、雷跡が走る。


 数隻は、文字通りに吹っ飛んだ。


「何だよ、これ!?」

「どうして……」


 近代は、軍艦も回避重視。

 装甲で耐えることは、不可能だ。


「こちら、ハルチドリ! 現在、ネスターから攻撃されている! 完全に戦争だ!! 砲撃の許可を!」

 

 無線で、必死に状況を伝えるも――


 船団は全滅した。

 近づけないことから、救助もできず。


『アハハハハ! ざまあ、見ろ!!』


 それを見ていた誰かは、生意気な男子のような声で、笑い転げた。

 

 親友のポイソ・ウシオンを殺されたことで、この社会を恨むAI、ギャルソンの仕業。



 室矢むろや重遠しげとおがいない、第二幕である。


 さあ、ここからは競争だ!

 負ければ、東京は一瞬で、蒸発するぞ?

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