第117話 ウォンテッド!

沢々さわさわ被告は、法廷で殺害された!? 衆人環視の中での犯行に、法曹関係者は怒りの声を上げており――”


 それを呼んだ男は、座っている椅子にもたれた。


 高品質のチェアは優しく受け止め、仮眠をとるような状態へ……。


「彼は、殺されたのか?」


 誰もいない部屋。


 けれど、男子の声が響く。


『たぶんね……。どうする?』


 相棒である、AIのギャルソン。


 彼に尋ねられた外国人の男、ポイソ・ウシオンは、上体を起こした。


 それに伴い、チェアの背もたれもついてくる。


「沢々炭火すみびは、良い友人ではなかった……。けれど、友人には違いない! ルヴァンシュだよ、ギャルソン!」


 ポイソは、パンと両手を叩いた。


 それを聞いたギャルソンは、提案する。


『なら……。プロに依頼するか、「ダンスマウス・インダストリー」に頼むかだね!』


「後者には、もう借りを作りたくない……。金なら、あるんだ!」


 今回ばかりは、ギャルソンも茶化さない。


『分かったよ! じゃあ、裏で賞金をかけておくけど……。ターゲットと条件は?』


 モニターに、アイドル3人。


 それを指差したまま、宣言する。


「プリムラの3人だ! 殺せ! 彼らに協力する者は、一緒に始末しても構わない!!」


『炭火を殺したのは、室矢むろや槇島まきしまの2人だけど?』


 ギャルソンの指摘に、ポイソは手を組んだ。


「連帯責任だ! 殺人犯といる不運を呪いたまえ! 『川奈野かわなのまどか』を推している女子のAIが五月蠅いか?」


『……コクリコが騒いだら、僕が何とかしておくよ』


「メルスィー・ボクゥ! 持つべき者は、やはり友だな……」



 ◇



 ビルの屋上にいる狙撃手は、高倍率のスコープを覗いたまま、トリガーを引いていく。


 体のどこかに当たれば、そのまま失血で死ぬ。


 それだけの口径。


 ドオオンッと、大砲のような音を響かせて、ペットボトルを思わせる弾丸が飛び出し――


 狙撃手の後頭部に当たり、熟れたスイカのごとく、頭蓋骨を周囲にまき散らした。


 スコープの中心にいた室矢カレナは、轟音で騒ぎ出した人々に構わず、歩き去る。



 ◇



 槇島皐月さつきは、霊体化により、姿を消した。


「いない!?」

「よく探せ! ここで逃がしたら、もうチャンスはないぞ!!」


 走ってきた男の1人は、上から降ってきた皐月が構えていた長柄の太刀により、串刺しに……。


「な!? こいつ、どこから――」


 もう1人は隠していた短機関銃を向けるも、その前に、皐月が糸で作り直した小太刀を逆手に構えたまま、首をいだ。


 パパパと乾いた発砲音が続くも、その先には誰もいない。

 地面や壁に当たった弾丸が、むなしく跳ねる。


 撃っている男は、首を横一文字に切られ、派手な出血。


 もはや、思考できる状態にあらず。


 横をすれ違った皐月は、逆手で小太刀を握ったまま、霊体化。


「警察だ! そこで、何をしている!?」

「全員、動くな!」


 警官2人がリボルバーを構えたまま、登場。


 けれど、霊体化した皐月は見つけられず。


 襲撃犯の死体だけ、残っていた。



 ◇



「あれ?」


 振り返った『川奈野まどか』は、誰もいないことに、首をかしげた。


 元の方向へ歩き出す。


 糸で吊り下げられていた女が、重力に従い、地面へ落下。


 ゴシャッと、痛そうな音を立てた。



 霊体化している槇島如月きさらぎは、『まどか』に張りついたまま。


「なっ!?」

「銃が?」


 持っている銃が、途中で斬られたように、ガシャンと落ちた。


 投げ捨てて、別の銃を抜く。


「あいつは非能力者で、荒事も無理だ」

「1人分の賞金でも、美味しいよな!」


 けれど――


 とある地点を通りすぎたら、急に転ぶ。


「つつ……。おい、急がないと!」

「分かってる! ……あれ?」


 立ち上がろうとするも、体が反応せず。


 2人が自分の体を見れば、どちらも膝の上から両足がない。


 如月は事前に糸を張っており、そこに引っかかったのだ。


 状況を理解した男2人は絶叫するも、じきに死亡。



「うーん、今日も平和だなー!」


 笑顔の『まどか』の後ろで、車軸を切られ、どこかの車が壁に突っ込んだ。


 振り返るも、かなり離れていて、巻き込まれないため、遠ざかる。



「ネコちゃんだー! 可愛いー!」


 まどかは、しゃがみ込んで、チッチッと舌を鳴らす。


 野良猫らしく、警戒したまま……。


 不思議と、その視線は彼女ではなく、その後ろだ。


 やがて、くるりと背を向け、歩き出す。


 まどかも立ち上がり、追いかける。


「あっ! 待ってよ――」


 グイッと引かれ、思わず、よろめく。


 その空間を ブンッ! と、風切音が通り過ぎた。


 バシッ!


 アスファルトの一部が、いきなり弾けた。


 深い穴ができて、まどかは不思議そうに、覗き込む。


 ヴンッ!


 ライフル弾に負けない速度で、霊体化している如月が棒手裏剣を投げた。


 ヴヴウウンッ!!


 ミサイル迎撃のバルカン砲のような音を立て、30発ぐらいが一瞬で発射地点へ……。


 風切音どころか、ソニックブームまで。


 周辺に強い風が吹き、『まどか』や野良猫たちを撫でた。


『フウニャアアァアッ!?』


 全身の毛を逆立てたネコは、霊体化したままの如月を見た。


 たまげた様子で、走り去る。


 暢気のんきに、宇宙ネコをしている場合ではない!


「あ! ネコちゃん、行っちゃった……」


 まどかは、ガッカリした。


 遠くのビルで、窓から室内まで爆発。


 如月CIWS(近接防御火器システム)は、今日も絶好調だ!

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