第116話 因果応報
いきなり雰囲気を変えた、広域団体の幹部らしきスーツ男。
ビシッとしたまま、頭を下げている。
少し遅れて、後ろの子分2人も、それに
「お、お疲れ様です!」
「お疲れっす!」
唖然とする面々だが、
「何の用ですか?」
顔を上げた
「ただの散歩です!」
ここは東京の下町で、廃墟が集まっているエリアだ。
間違っても、足を踏み入れる場所にあらず。
「彼らとは?」
「全く知らない、他人ですよ!」
焦ったのは、半グレ集団『
「ちょっ……。ちょっと、待ってくださいよ! 俺ら――」
「高影! お前には、ハコ代の100万を立て替えたよな?」
「は、はい! 150万で返すっていう……。そのためにも、この凌ぎを――」
強面だが、さわやかな笑顔になった耳四手。
「もう、いいわ! 他で引っ張るから、お前は気にしなくていい!」
「え……」
縁切りだ。
あるいは、通りすがりの他人に、100万を立て替えたのか?
ともあれ――
「私たちは、あなたと会っていない……。そういう話で」
「ハイッ! では、失礼します!」
「「失礼しやす!」」
カレナは、虚空から取り出したハンドガンを投げる。
それをつかんだ
差し直した後で、上のスライドを後ろへ引いて、離す。
シャキンと、心地いい金属音。
片手で、銃を持つカレナ。
2つの銃口が、高影たちに向いた。
「とりあえず、残りを片付けておきますか?」
「そーだね!」
乾いた発砲音が続き、やがて、静かになった。
◇
『被告人は、証言台へ……』
お約束の宣誓をして、卓上のマイクで話し出す。
『私は、社会的に許されない行為をしたと自覚しており――』
弁護士に指示された通り、言い逃れができない事実を認めつつ、反省していることをアピール。
後ろの傍聴席の視線は、興味深げ。
『あなたは、友人を自宅へ呼び、薬物を使用したパーティーを開催した。その事実を認めますか?』
『はい、認めます! 本当に申し訳ありませんでした!! 協力できることは、何でも致します!』
立ち上がって、深々と頭を下げた炭火。
『被告人は、席に座ってください』
その言葉でようやく、顔を上げた。
「はい……」
後ろに下がった椅子を戻して、座り直そうと――
「あなたの罪は、それだけではないでしょう?」
誰もいないはずの空間から、女の声。
ざわつく、法廷。
『せ、静粛に! 裁判中の私語は、慎んでください! これ以上の妨害は、罪に問われる可能性が――』
パシュッ パシュッ パシュッ
くぐもった音に合わせて、まだ立っている炭火が踊った。
「う、うがっ!?」
訳も分からず、苦悶の顔になる炭火。
驚いた裁判官が、尋ねる。
『ど、どうしました――』
ブシュウウッ!
立ち尽くす炭火は、内部から破裂した。
臓器や骨がクラッカーのように、まき散らされる。
「キャアァアアッ!?」
「じょ、冗談だろ?」
「え?」
理解が追いつかない、前後左右にいる人々。
『な、何が!?』
正面の高い席にいる裁判官たちも、腰を浮かせた。
いっぽう、内部から破裂した炭火は、血肉の海に、ドサッと身を投げ出した。
◇
「沢々は哀れ、大爆発と……。馬鹿な奴だ! 四大流派へ、2回も喧嘩を売るとは」
高級車の後部座席に座っている耳四手は、ふーっと息を吐いた。
ゆっくり減速した車は、止まった。
「耳四手さん、着きました!」
「おう、ご苦労さん……」
運転席から降りた男は、後部座席のドアを開けた。
耳四手が、降りる。
ドライバーは、頭を下げた。
「じゃ、車を置いてくるんで!」
「ああ、分かった……」
ブロロロ
車が動き出し、耳四手はズボンに両手をつっこんだまま――
「事務所へ戻る前に、ジュースでも買っておくか……」
普段なら、手下をパシらせる。
けれど、今はちょうど1人だった。
すぐ傍にある事務所のビルを後目に、生活道路を歩き出す。
俺は、運が良かった。
あの室矢と槇島に向き合って、生き延びたんだ。
半グレの1つを失ったが、あんな連中、いくらでも代わりが――
自販機を見つけて、スーツの上着を探る。
「たまに自分で来ると、小銭が見つからねえ……お?」
ようやく、見つけた。
さて、何にするか……。
室矢と槇島がCMに出ていた、新商品?
「見逃してもらった礼に、買っておくか」
カシャン カシャン ピッ!
ゴトゴト ガタン
かがんで拾い、開けようと――
パアンッ!
体が熱い……。
視線を感じて、ジュースの缶を持ったまま、そちらを見れば――
どこかで見た若い男が、撃ったばかりの拳銃を持っていた。
手が震え、ガシャリと、それを落とす。
「やった……。やったよ、タカちゃん! お前らの仇を討った! ヒャハッ! ヒャハハハハハ!! 俺ら『
走り出した、若い男。
どうやら、半グレの生き残りらしい。
「うぐっ!」
訂正する暇もなく、襲撃者は逃げ去った。
けれど、自分に手を出した以上、あいつは3日と生きられない。
「ぐっ……」
尻もちをつく。
急所に当たった。
不思議と、それを実感する。
もう、間に合わない。
プシュッ!
震える手で、缶を開けた。
口に運び、強い炭酸だけ感じる。
「ハハ……。お前らは、やっぱり見逃してくれないのかよ? ずいぶん高いジュースだ」
弱々しい声で独白しつつも、飲めるだけ飲む。
カレナと皐月に関わった時点で、こうなる運命だった。
やがて、アスファルトに缶がぶつかり、甲高い音。
残った液体が、こぼれていく。
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